マイルドセブン
 くわえた煙草にライターで火をつけた。
 ライターは、学校の近くのコンビニエンスストアで買った。100円だった。
 「マイルドセブンか。ジジ臭い」
 あきらが、煙草を吸う僕にそう言って笑った。あきらは僕のクラスメイトで、僕とあきらは14歳でしかない。ジジ臭い?たしかにあきらの言う通りかもしれない。
 「午後は数学か。寝てしまうな、きっと」
 もうすぐ昼休みが終わる。あきらはそう言って、カレーパンの空袋を屋上から、空に向かって投げ捨てた。

 「やめろよ。よせって」
 あきらがまた、オナニーをしはじめた。数学の授業はみんなが騒がしくて、要するに先生をナメていた。ブラジャーをしない由紀がブラウスのボタンをはずし、あきらに乳首を肌蹴て見せたから、あきらはすごく興奮した。由紀は少しずつ間抜けな表情になっていくあきらを見て、クスクスと笑った。小さな声で「早くいってよ」と由紀はあきらを急かせた。僕はきっと先生に見つかって、叱られると焦り、あきらの上下させる右腕を無理矢理、掴んだ。途端、精液が手の甲についてしまった。
 「汚たない。最低」
 由紀の嫌そうな声に、クラスじゅうがクスクスと笑った。

 由紀はときどきブラウスの下にブラジャーをしてこないし、スカートの下にパンティーを履いてこなかった。何回も何回も担任にそれを叱られて、何度も何度も両親が担任に注意されても、全く反省しようとしなかった。クラスの他の女子も、見るに見かねて由紀をトイレに呼びだしてはボコボコにするけれど、それでも由紀はなんの気もなく、反省しなかった。噂を聞きつけて、他の中学の女の子たちも由紀を呼び出しては、何度も殴った。殴っても、殴っても由紀は同じことを繰り返した。
「校則にはないよね、下着はちゃんとつけなさいなんてね」
たしかに、そんなことはどこにも書いていなかった。困り果てた女の先生が、自分のブラジャーとパンティーをつけさせたこともあった。

 「明日さ、水泳部の更衣室、盗撮してこいよ」 
由紀はあきらの言うことなら何でも聞いた。あきらがセックスさせろと言えば、セックスさせたし、大人とセックスして金を持ってこいといえば援助交際をしてきたし、女風呂の脱衣所を盗撮してこいと言えば、本当にしてきた。一度、アイドルの握手会に行って、トイレ盗撮に成功したことがあった。あきらはそれを見て、何十回、オナニーしたか分からなかった。そのアイドルはおしっこをする時、服を全部脱いだのが僕にはなんだか衝撃的だった。ウンコもするし、おしっこもするし、鼻くそも丸めた。

あきらは普通に消しゴムを食べたし、いい気になると一万円札を食べたし、鍵を飲み込むこともあった。一度、担任の自動車のキーを担任の前で飲み込んだことがあった。担任は慌てて救急車を呼んだが、命には別状はなかった。入院した次の日の朝、きちんと糞と共にキーは出て、事なきを得た。担任は「なんてことするんだ、お前は」とあきらに言った。たしかにあきらはなんてことをするのだろうと僕も思った。

ひとつ上の水泳部の先輩の脱衣写真を由紀があきらのところに持ってきて、あきらはその先輩を呼びだした。先輩はうちの学校の一番の美人だと由紀が言うから、あきらはそいつとセックスすると由紀に言った。あきらは、自分とセックスしないと、この写真を学校中にばら撒くと先輩に言った。先輩はびくりして息をゴクリと飲んで腰を抜かし、おしっこを漏らしてしまった。それでもあきらは結局、その先輩とセックスした。先輩は処女だったらしく、上手く濡れないから、あきらも血まみれになった。一緒にいた由紀は、なぜか二人のセックスを見ながらオナニーした。奇妙な光景がそこにあった。

あきらは水泳部の先輩にしたことと、同じことを教育実習に来た女子大生にもしたことがあった。由紀がその女子大生のアパートに行ってカメラを仕掛け、強請られた女子大生は何故かすんなり、凄むあきらにセックスさせた。すごく素直で、セックスが上手で、だからあきらは疑うことなくSDを渡してしまった。女子大生はその場で即座にSDをトイレに捨てた。トイレに捨てて、どういう訳か、急に顔色を変えてあきらを殴った。あきらもショックらしく、声が出ないで、その場はそのまま帰えることにした。結局、その女子大生は、半年後に自殺した。SDは何枚にもコピーされており、あきらは殴られた毎日のように、女子大生のアパートに通った。

あきらは少年院に行くことになり、由紀は病院に入院することになった。最後の最後まで、結局、どうして由紀があきらの言うことを聞いたのか分からなかった。そして何より、あきらはどうして僕には何もしなかったかが分からなかった。少年院にあきらを訪ねることはできなかったが、しばらくして機会が見つかって、由紀のお見舞いには行けたので、由紀にその疑問を打ち明けたら「だって、あきら君のこと、好きだから」と言っただけだった。「きっとあきらくんは君のことが好きなんだね」と続けた。「君?」僕は由紀が僕のことを「君」とはじめて呼んだのが可笑しかった。「だって、君の名前、分からないもの」と由紀は言った。絶望的だった。

僕は、あきらと由紀がいなくなって、ある日、担任に「淋しい」と言ったら、殴られた。殴られたので仕方なく、屋上に行って、飛び降りることにしたら清々した。マイルドセブンに火をつけて、ジジ臭いと思ってすぐにもみ消して、すぐに手すりからジャンプした。地上には池と噴水があった。噴水があったと思う。僕は死んだけど、そんなに痛くは無かった。
みっともない鈴木
2012年01月09日(月) 02時16分11秒 公開
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No.2  みっともない鈴木  評価:0点  ■2012-01-09 21:19  ID:XaLoLWLtryE
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羽田様、ご感想ありがとうございます。

私はかなり大人ですが、中学生を主人公にするお話を書くのがとても好きです。小学校も高校もそんなに危険ではないけれど、中学校というのはとても危険を孕んでいて、魅力的です。小学校に上がるまで6年あって、小学校が6年間なんだから、中学と高校を一緒にして、6年にすればいいのにといつも思います。

@「気持ちいい朝だね」
 あきらはそう言って、僕にキスをした。
Aあきらは「気持ちいい朝だね」と言って、僕にキスをした。
B僕にキスをしたのは気持ちいい朝を素直に言葉にしたあきらだった。

いつも小説を書く時は、@からBまで、どれにしようか必死に考えますが、
きっと、小説というのは、そんなことはお構いなしに、
@「気持ちいい朝だね」
 あきらはそう言って、僕のペニスにキスをした。
と、そう書いてしまう方が、人は読んでくれるように思えます。
だとすれは、それは書き手にとってとてもとても絶望的で、
「結局は、ネタかよ」ってガッカリする訳です。
@「気持ちいい朝だね」
 春香はそう言って、恥ずかしそうに僕の頬にキスをした。
ここから始めて書く文章ほど、難しいものはないですね。

問題は女子高生コンクリート殺人やさかきばら事件がない前に、この文章を中学生の僕に書けたかどうかですよね。ある程度はテクニック、ある程度は経験論。ある程度は、ネタ。ある程度は読者の読解力への期待。

僕も「噴水があったと思う」が一番リアルで好きです。

季節感や時間軸がまるでない文章だったことが良かったどうかは、読者の読解力への期待です。


No.1  羽田  評価:30点  ■2012-01-09 20:23  ID:yFAbz0B39gM
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みっともない鈴木様へ
初めまして、羽田と申します。
拝読させて頂きました。

私には、怖くて絶対にかけない形の言葉が散りばめられた作品だなと思いました。
とんでもない異常事態を、まるでなんてことのないように淡々と語っていく雰囲気が好きです。
美しい表現をつかわず、汚い少年犯罪と自分のない少女と、それよりも自分がない主人公。
主人公の名前が出てこないあたりが、少年に形を与えていない表現のひとつだなと感じました。
あきらの頭のネジの外れ具合よりも、由紀ちゃんの不健康な健気さのほうが切なかったです。
文章の表現の中では、最後の
噴水があったと思う。
が一番好きです。
読ませて頂いて、ありがとうございました。
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