欲望ベルトコンベアー
 欲望ベルトコンベアー

 ――欲望の声、聞いたことある?
 ――もちろんよ。だって欲望高校の生徒だもん。
 ――じゃあさ、希望の声は?
 ――希望って、なに?
                 欲望高校狂典〈二律背反の章〉第二節より抜粋


 イントロダクション

 ……ガー、ガー、ズガッ、ズガッ、ドュュュン、ジュドゥロロロッ……欲望を! 欲望を! もっと欲望を! 

 ただいま放送事故がございました。皆様にご迷惑をおかけし、深くお詫びいたします。
 こんにちは、東京プライズエンターテイメント社のフリーアナウンサー、アヤです。現在、連日の報道でお知らせしておりますように、国際テロ組織が暗躍しているためビキニ着用での放送は不謹慎のため控えさせていただいております。
 それでは、特別企画〈希望と欲望〉の時間に移りたいと思います。わたしは〈希望高校〉卒の余命一年の花嫁ならぬ余命一年のアナウンサーです。だから、年齢は19歳です。わたしの最期の仕事に選んだものを本日お茶の間の皆様方に向かってアナウンスしていこうと思っています。
 わたしがスポットライトをあてたのは、欲望高校で学園生活を送っている、ある普通の男子生徒です。ところで、この学園の刺激的な特長は、名前変更制度にあります。この制度は、生徒たちが生来持っている苗字を捨て去り、自分の好きな人物の苗字や名前を自分の名前の前につけて新しい名前を創造するという珍しい校風なんです。現在日本全土で注目されておりまして、画期的な学園である、と、ネット媒体等でも報じられています。たとえば、アインシュタイン政夫とかピカソ新一とかスターリン佳子などが、その一例になりましょうか。
 では、わたしが生涯最期の仕事に選んだ男子生徒の名前は、いったい何なのか。

 まずは、この画像をご覧ください。(画像は、黒い学生服を着た、中肉中背の身長170センチくらいの男の子が映っている)

 わたしが注目した男子生徒、ガンジー太郎くんは、〈希望高校〉出身の両親を早くに亡くしていました。〈希望高校〉卒の生徒たちの余命は20歳と言われています。けれど、ガンジー太郎くんは、〈希望高校〉よりも余命が4倍も長い〈欲望高校〉の2年生です。両親がいませんから、当然ながら学費を稼ぐため、月に一度〈欲望高校〉の学生アルバイト支援コーナーに足を運んでいます。苦学生という点に惹かれたのは、わたしも同じ境遇であったからです。

 それでは、視聴者の皆様方への予備知識の提供は、ここまでと致します。ガンジー太郎くんの数奇な運命をご覧ください。

 *

 オレンジシャーベットのような色をした、優しくも肌寒い冬の夕陽がなだれこんでくる、放課後の教室。異常IQを誇る生徒とALTのドスケベ先公が黒板消しを投げあう国際的なエロ教室。女性徒らの黒い噂話で持ちきりの、権謀術数教室。どこでも見かける、あたりさわりのない学園生活のワンシーン。
 窓辺の一番前の席、静かな表情で座っているガンジー太郎くんは、美術の時間に習ったロダンの考える人のポーズを取って、物思いに耽っています、目の前を飛ぶ蜜蜂にも気づいていませんから、なにかとても大事なことを考えているようです。
 そうだそうだ、マリリン花子ちゃんも誘わなきゃ。
 どうやら若々しい恋心を抱いているらしいガンジー太郎くん。でも即座に、下心は全開にしなきゃと閃きます。イチモツを収納している社会の窓はわざと全開にし、隣の席でフランス人形を製作中のマリリン花子ちゃんに話しかけようと考えました。恋心のエンジンは、ギアが低速走行のファースト、セカンド、サードから高速走行へと切り替えられている模様。フルスロットルでマリリン花子ちゃんの胸の中に突撃してみたい気持ちです。
「マリリン花子ちゃん。今日はさ、どんな変わった仕事があるかなあ。それにしても北風が寒いナー」自分の信じる下心を実行しきれない、ガンジー太郎くんは、拡声器で喋っているような大声を出し、にやけています。このにやけ顔は、銀河系から吹きよせる太陽風でも弾き返すことでしょう。けれど、今日は強烈な北風が吹いているのです。そのせいで、鼻水が氷柱になってしまいました。ガンジー太郎くんは、自分の鼻の穴の中が、鍾乳洞テイスト満点になってしまったことに気づき、ウェットティッシュで鼻をぬぐいますが、鼻水が糸を引いて、納豆大王が踊っているような雰囲気をかもしています。
「ちょっとお! 凍った鼻水、こっちに飛ばす行為やめてくれない? チェーンステッチの縫い方、間違えちゃったじゃないのよ。もう、せっかく、わふわふスカートの最後の仕上げに取りかかってたのに。ミシンじゃなくて手縫いでやるのって、とんでもなく神経すり減らすんだからね。あんまりふざけてると、あんたの顔面をシングルステッチで縫っちゃうわよ。はあ、話聞いてないわね。仕方ないわ、気分転換に、お花の水やりでもするわ。ちょっと、どいてよね」マリリン花子ちゃんは、フランス人形のスカート素材(高級シルクでございます)を丸ごとガンジー太郎くんの未整形の鼻柱に投げつけて、教室のドアへと素早く移動しはじめました。
「待って、そんなに早歩きしなくても、いいじゃない、マリリン花子ちゃん」ガンジー太郎くんは、教室を出ようとするマリリン花子ちゃんを懸命に引きとめようとしますが、気の効いたセリフもいえず、膝小僧をもじもじさせています。ガンジー太郎くんは、エスプリとは無縁の存在です。
「あたしは遅く歩くことはできやしないのよ。あたしはウサギ。あんたはカメなの」
「童話ネタはやめてくれよ。そういえば、童話<子ウサギましろのお話>の作者って、高校生のときに失明した経験があるらしいよ。自分の母親とか父親とか好きだった男の子とかの顔が見れなくなって、すげー苦しい時期があったんだって。自分の顔を見れないよりも、自分以外の顔が見れないのが、一番辛かったらしい。そんでもさ、自分が若いときから記憶している言葉だけを使って童話作りに励んでる、素晴らしい女性らしいよ。そこに出てくる、幼いこどもたちにとっての主人公、子ウサギのましろが、すっげー、可愛いんだ。身体の中に飼ってあげたいくらい可愛いよ。心の中に子ウサギ飼ってる人間なんて、そうはいやしないしね。そんでさ、その絵本の装丁とかイラストを書いてる画家の人のさ、色の使い方がさ、とっても優しくて、癒されるんだ。よく、母ちゃんに読んでもらってたなあ。しっかし、失明して本を書くってのも、偉大なもんだよなあ……って、マリリン花子ちゃん、話、聞いてる?」
「…………」
 長々しい全体朝礼をする教頭先生のように話が長いため、マリリン花子ちゃんは、話の途中からパチンコやスロットで使う銀色の耳栓を装着していました。耳栓には、玉箱不用のシールがついてあります。
 マリリン花子ちゃんは、耳栓をねじねじしながら、(これは、ジャグラーというスロット機種のお楽しみ打法とでもいうべき所作なのですが、ギャンブル狂の彼女は、つい無意識的に日頃のギャンブル癖を発揮しているようです)
「じゃあ、また明日ね。あたし植物室に用があるから」と木製の裁縫箱の中に縫い糸をしまいながら、素っ気なく顔を背けました。
「あっ。ぼくも植物室に急用があったりするよ」
「そ」
「そ」
「どんな急用なの」
「……今度の家庭科の授業の時に使う、押し花をどれにしようかと思って」
「家庭科のマルコムX達也先生、児童ポルノ所持禁止法違反で捕まったばかりじゃない。あんな先生が教える授業は、不潔よ! 下手な嘘はつかないでよね! 大体、あのポルノに出てた女の子、アタシの親友だったのは知ってるでしょ」
「ごめんよ、口が軽いばっかりに」
「おばか」
「どんな嘘ならイインデスカ」
「とっても、上手な嘘」
「そ」
「そ」

 *

 二人は、植物室の前にきました。植物の匂いが、マリリン花子ちゃんの鼻の中を満たしていきます。けれど、ガンジー太郎くんは、鼻の穴の中を氷柱で遮っているため、植物の匂いに、まるで反応しません。それでも二人の前に広がる世界は、植物の祭典です。亜熱帯や寒帯の植物の匂いが、異種混合を求めて織り交ざり、その進化した匂いどもが、二人の前へと迫ってきています。香水師たちも知らない、類稀な匂いの世界です。そんな世界を二人は前にしているのです。
「すっごく、いい匂いだわ。植物採取瓶を持ってきててよかった。お風呂のお湯に混ぜたら、市販の入浴剤のラベンダーなんかよりも断然いい匂いがするし」マリリン花子ちゃんは、学生鞄の中から工場作業用の水色の衛生手袋を取り出し、ガンジー太郎くんの氷柱を取りのいてあげました。けれど、鼻水が円状に糸を引くせいで、衛生手袋のまわりに鼻水が衛星のように汚らしく回転しています。
「あんたも匂い感じてみなよ」
「ああ、もう匂ってるよ。あ、なんかドアに張られてる?」
 植物室のドアには、注意書きの紙が画鋲で留めてありました。

 ――無断立ち入り禁止。禁を破った者らは、植物地獄の刑に処す。今月の刑は、発光スペクトラムにより輝きを増大していく植物型六芒魔方陣へとすみやかに捕縛することとする。By 天才植物師チャップリン早乙女。

 マリリン花子ちゃんが注意書きを気にせず、植物室のドアを開きました。そのままガンジー太郎くんを引き連れながら、食虫植物や魔界の植物やジュラ紀の植物を眺め、ある花の前で立ち止まりました。
 その花は、なんの不思議さもないヒヤシンスでした。植物室の先生であらせられた天才植物師チャップリン早乙女さんからヒヤシンスをプレゼントされていたのです。ヒヤシンスの髭のような根には、植物師チャップリン早乙女さんのサインが最細の油性マジックで書かれています。芸の細かい人間でしたので、マリリン花子ちゃんは植物師チャップリン早乙女のことが大好きでした。でも、植物師チャップリン早乙女さんは、最近、寝たきりの植物人間になってしまいましたので、会話を交わすことは、もうできません。原因は、植物好きが高じて、植物人間になるための自己投薬を繰り返したためだそうです。死んだわけではありませんが、今際の言葉は、ドイツの天才的な文豪ゲーテの<もっと光を>もじった<もっと植物を>だったそうです。
「ヒヤシンス。見てるだけで透明な白い心になれるお花ね。チャップリン早乙女先生そのもののような、高貴な、お花。空気の読めないガンジー太郎くんには、このお花の透明度は一生わからないでしょうね」
「やっぱり北風は〜ぼくの股間をすりぬけて〜冷凍庫よりも寒くする〜寒椿を手折っておくれよ〜ママリン花子ちゃん〜」ガンジー太郎くんは、便秘症の人間のように、気難しい、きわどい表情になって、謳い上げました。知能指数の低さをごまかそうと考えて、季語を挿入してみましたが、はてさて、それはマリリン花子ちゃんに効果があるのか、それとも逆効果なのか……。
「ママリンじゃなくてマリリン花子! マザーコンプレックスなのはわかるけど、あたしに母性を求められても、いい迷惑だわ。それに寒椿なんて老人のセンスじゃん」
 マリリン花子ちゃんは、ヒヤシンスの水を替えながら、水面に浮かぶ花弁のひとひらをつかみ、眼をつむりました。それから、ふっ、と息を吐いて、花のワルツを楽しむ花畑の中の美少女のような顔になりました。さすがは、マリリン花子ちゃんです。自閉症のような独自世界に浸る力をガンジー太郎くん並に持っているのです。だからこそ二人は腐れ縁という間柄なのですが。
「ってか、植物室に急用ないのはわかってる。ほんとうは何の誘いだったわけ」
「学生アルバイト支援室に一緒に行かないかなって思って。嘘じゃないよ、ホントだよ」
「それは嘘じゃないわね。この前は、ハラハラしたよねー。人間式胃カメラ大冒険とかー、ランジェリー戦隊アナタノタメノスリーサイズエラビとかー、人生再現師ドラスティックとかさー」
「西暦2100年になってもアルバイトの種類って100年前と大して変わってないよなあ。人間の価値観ってのは真逆に変わったって現代社会の教科書に書いてあったけど、生まれたときから価値観が真逆になってるから実感湧かないしなー。ていうか今日は、いつもの表情不明の、お面のオネエさん、何の仕事を紹介してくれるかなあ」
「もう。ガンジー太郎くんって現代社会の教科書なんか読んでるのぉ。思想改造教育なんて受けちゃ駄目だってば。それよりさ、お面マニアのお姉さんの噂、知ってる?」
「マリリン花子ちゃんの、そのイヤラシそうな、ひょうっじょぉー、くぅ〜、たまんないなぁ〜。その噂、ぜひ聞かせてほしいなぁ。でも、ひとつだけ注文があるんだけど」
「なにかしら」
「俺の耳元に超接近で囁くように情報提供よろしく=777(ドル箱確定ラスベガス俺の気持ちはマーベラス)」
 マリリン花子ちゃんは、ムーンウォークで退歩し始めました。
「あたしの声は、アニメ声優よりも高いわよ」
「低額買取希望の用紙を持参しました……印鑑は、あの世の母さんに預けてます……」
「ブラック・ジョークは嫌いじゃないけど、さすがに疲れるわね。いい、話を戻すわよ? お面のオネエさんってさ、なんでもさ、この欲望高校界隈の中でもっとも欲望が強いらしいの。だからお面で、その欲望顔を隠しているんだって!」
「そんなことより、校庭の芝生で草枕ならぬ膝枕してくんないかなぁ、マリリン花子ちゅわん〜〜」
 金太郎飴みたいな、どこを切り取っても同じような内容の高校生らしい日常会話を二人がしていると、後ろから怪しい呟き声が聞こえてきました。その声は、前時代の黒魔術師たちが呪文を唱えるような、死に直結すると言われるマンドラゴラの神経毒を含んだ奇声のような、おどろおどろしい迫力を二人の背中に運んできました。メデューサの冷たい舌で背中をペロペロと撫で回されたかのように身体を丸めた二人は、すぐさま緑地に白抜きの非常口イラストの人物のようなポーズを取って逃げ始めました。
 けれど、非常口の人物のようなポーズを猿真似しながら走っているために、すぐに怪しい声の主に追いつかれてしまいました。怪しい声の主は、なにやらミイラらしきものを抱えながら、天井を見つめていました。しかも理由は不明ながら、涙を流していました。

――ツタンカーメン王……ああ! 若き日の! ツタンカーメン王!

 と、オペラ歌手を気取りながら三文芝居を独演している正体不明の人物。
 二人は、恐ろしげに肩をそびやかし、ぞくぞくムラムラしながら怪しい声の主の顔を眺めました。
「驚かせちゃったかしら、お・ふ・た・り・さん。 fromピラミッドより死を込めて」
 怪しい声の主の正体は、絶世の美女クレオパトラのお面を被っているお面マニアの女だったようです。
 自動こんにゃく人形のように、ぷるりん、ぷるりん、と肌を震わせていたマリリン花子ちゃんが、恐怖感から開放され、返答作業に移ります。返答は、適切に、丁寧に、適当にの3Tの精神で。
「わあー。スフィンクスのピアスかわいいー」
 お面マニアの女は、表情を隠しているため、嬉しがっているのか、それとも残念がっているのか、外部からは見当をつけることすらできそうにありません。けれど、小さな声で、やった、やった、褒められた、と言っているので、嬉しいご様子。
「でしょ。あたしって、奇妙かしら」
「うん。とっても奇妙ですよー。いつも思うんですけど、その台詞、漫画の地獄先生ぬ〜べ〜に出てくる口裂け女の問いかけとそっくりですよねー」
 お面マニアの女は、またしても、やった、やった、褒められた、二回も褒められた、と、さきほどよりも、より一層、小さな声で呟いていました。よほど嬉しいご様子。
「ガンジー太郎くんはどう思う?」と首をせり出すお面マニアの女。
「ええ。とっても奇妙ですよー」と御愛想の声を舌先に載せて差し上げます。
「ふふふ……奇妙って言われるのは、あたしにとってこの上もない喜びよ。さあ、二人とも、お仕事を紹介してあげるから、学生アルバイト支援室まで来なさいな……」
 勘違いぶり絶好調のお面マニアの女に先導されて、一行は、冬の落雷を反射している鉄格子の窓をこわごわと見つつ、学園アルバイト支援室までの厳しい道のりを歩むことになりました。ガンジー太郎くんの腕時計の方位磁針が故障したかのように方角を何度も変え、狂った音を小さく、立てています……。マリリン花子ちゃんは、なんだか寒気がしてきたね、と印象的に呟きました……。

 *

 植物室の隣にある学生アルバイト支援室に30秒で到着した二人は、お面マニアの女が喋るのを待っていました。
「このスフィンクス製の席におかけなさい。何千年も昔の人間が座っていた、古来人の尻の感覚が、味わえるわよ。どうかすると、あなたたちの尻だけが、過去の時代にタイムスリップするかもね……身体は現世に残したままで……ナイル川流域に住まう考古学者から裏取引で仕入れた希少品よ。もちろん、世界希少物輸入禁止協定に違反する極上中の極上の品……」
 二人は、古代エジプトの権力者たちが愛用してきたスフィンクス製の椅子に座り、お面マニアの女から、お仕事紹介の二色刷りのパンフレットを手渡されました。
「マリリン花子ちゃん! ドキドキするなあ!」
「うん。わたし、ページひらく瞬間、とっても好き! 間違って引き裂いてしまいそう!」
「ぼくのマリリン花子ちゃんへの恋心を引き裂いて……切なく、猛烈に、狂おしく、バレリーナよりも繊細に扱って……そんで、そんで……」
「秘技・悶狼ウォーク冬の陣・発動!!! クアッ!」

 二人の会話を聞いていたお面マニアの女が、またしても、なにやら小声で呟いています。

 ……ひらけ……ひらけ……さあ、ひらけ……ひらいたら最後あとには戻れぬアルバイト……表のバイトも裏のバイトもヒックルメ……さあさあ欲望の世界へご招待……クフ王もそなたらの仕事ぶりを眺めておるぞ……さあさあ赤蠍の気分になって働け働けどんどん働け…石を担いだ奴隷たちが眠るサハラの砂漠……砂時計の別名を言ってみろ……はい、先生、死の時計……おまえらが眠る場所は……さあ何処だ……? ケホッ、ケホッ。

 むせ返った、お面マニアの女が黙り込み、二人はパンフレットをひらき始めます。
 
 〜欲望高校アルバイト紹介パンフレット〜

 今月は、絶命お仕事大特集だよん。高確率で命を落とすかわりに、超高額のアルバイトを豊富に御用意しちゃいましたー。ギャンブラー財団が紹介する仕事だから安心してね。欲望のおもむくままに、レッツトライ♪ (文責・ナイチンゲールさやか)

 【特別ピックアップのお仕事♪】

 1 人体展示会社への人体提供業務 (日給4300万円、採用日数7日、寮有り――旧国際刑務所の跡地をご利用いただいております。最終勤務日まで必ず職務に従事していただきます。注 死体処理会社と業務提携しておりますので、死亡した場合の後処理は万事お任せください。なお死亡した際の金銭接受は、ご遺族の……)

 2 過去の偉人再生フェスティバル受付(日給2800万円、採用日数10日 注 応募の際には世界の偉人についての驚異的な知識をお持ちの方を優先いたします。また記憶のスペシャリストである共感覚をお持ちの方は日給5倍で対応いたします。ただし、お客様へのご質問に対しまして言葉に窮する場面がありました場合、国際国賓交流法の規定に基づきまして死刑あるいは禁固刑に処せられます。なお国賓級の方々が多数ご来場なさいますのでドレスコードは厳守すること。当フェスティバルでの服務規程は……)

 3 欲望ベルトコンベアー(日給20万円、採用日数は、最短で1日の超短期から最長で寿命までの長期をご用意しております。詳細は人事部ガガーリン黒丸が面接日にお伝えいたします。注 本アルバイトは、欲望特殊工場勤務となります。所在地は、フィッシュマーケットそばの新屋敷インダストリアルパーク特別区内です)

【その他の求人♪】

 4 クマのぷっぷさんと一緒に遊ぼう(日給1億円、採用日数3日)
 5 サンタクロースのメンタルヘルスケア(日給3億円、採用日数1日)
 6 聖殺人体験ファースト・ディグリー・セイント・マーダー(日給マイナス300万円、採用日数2ヶ月 社会保険なし)
 7 偉大な記憶の旅(日給は変動性、採用日数は、旅の性質と採用決定者の人間的性質によって変動します)
 8 …………… …………… …………… …………… ……………
 9 …………… …………… …………… …………… ……………

 パンフレットを一読した二人は顔を見合わせました。
 ごくり、と緊張のために溜まった唾液を飲み干すガンジー太郎くんが、
「いつものお仕事紹介よりも、さらに過激というか、なんというか、学校始まって以来の興奮するアルバイトばかりだね。どれも一筋縄ではいかなさそうな欲望心をそそる仕事ばかりだ。特に金額がラスベガスってるよ。この中のどれかをやるだけで遊んで暮らせそうだ」
「でも、防護服もつけずに自らすすんで放射能区域に突撃するような得体の知れない職業ばかりよ。死。圧倒的に、死。その言葉がアルバイト紹介文に、ちらつきすぎよ」
「それは毎度のことじゃんか。人間式胃カメラ大冒険のときは、科学者に変身スモッグを嗅がされて他人の胃腸に侵入したウイルスバイトだったよね、腸チフスの患者の胃に侵入したときは、死にかけて、大変だったけど。ランジェリー戦隊のときは、衣料素材に変身してエロティック・ランジェリーになりきって、かぐわしい思いをした。人生再現師ドラスティックのときは読唇術、音声学、大脳生理学、造形学、進歩派整形学、人体改造論を学んで他人の人生をぼくたちの手で再現することができた。あのときは、まるでネクロポリスの丘の上に立っている気さえしたよ。今回のアルバイトのどれを選んでも、必ず、素晴らしい仕事になるに違いないよ」
 マリリン花子ちゃんは、学生鞄の中からチーズクラッカーを取り出して、むさぼりはじめました。
「なにさ。急に格好つけた口ぶりになっちゃって」ちょっと小心者の声になっているようです。チーズクラッカー一袋が、およそ二十秒で消費されました。
「へえ、マリリン花子ちゃんでも、できればしたくない仕事、なんてあるんだなあ」
「う、うるさいわねー。これでも欲望高校の麗しい女性徒よ。欲望に見下されてたまるもんですか。欲望を思いのままに操ってこそ、欲望の支配者の素質があるんですからね! あたしにかかったら、あのアルバイト紹介の全部の仕事、誰よりも完璧にやりとげてみせるんだから!」
「いけないなー、いけないなー、そんなことを言っちゃあ、いけないなー」ガンジー太郎くんは、フラメンコガールのように、ゆらゆら身体を揺すりながら、鼻歌混じりに歌っています。
「どうゆうことよお! 思わせぶりな、遠まわしな発言はやめてよ!」マリリン花子ちゃんは、断固反対のプラカードを両手のジェスチャーで作りはじめました。いわゆる空気プラカードです。比較的長い時間をかけて空気プラカード作業をしたので、体力を消耗したご様子。
「いけないなー、いけないなー、根拠のない自信過剰はー、いけないなー」弱った相手にすかさず、とどめの一撃を見舞います。
「だっ、黙りなさい。わたしは欲望高校の女王って認められているのよ! 学校のみんなから!」ほとんど自暴自棄の症状を呈しています。心理学研究員から辟易されそうです。
「いけないよー、いけないよー、企業の粉飾決算は、いけないよー」
「黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ!」
「らしくないー、らしくないー、お得意饒舌どこいったー(以後自粛)」
 それまで沈黙を守っていたお面マニアの女が、受付の砂丘机(毎回、机の形状は、お面の性質に合わせて変更されています)をバシン、と強打しました。けれど、砂でできているため、砂がはじけ飛び、大量の砂がクレオパトラのお面にかかってしまいました。クレオパトラのお面は、目だけはくり貫かれているので、砂まみれの裸眼が、奇妙さを一層引き立てました。お面マニアの女は、水洗い場から護膜ホースを引っ張ってきて、眼を水でごしごし洗っています。ごしごし薬指で洗いながら、情けない、あたしって、情けない、と悲しそうな小声で呟いています。
 ようやく、青い薔薇柄のハンカチーフで水分を含んだ砂を拭き終えた、お面マニアの女は、
「さあ。ほかの学生諸君があとにつかえているから、お決めになってくださらないかしら。二人ともどれにする」
 ふたりは、悩んでいるようでしたが、ガンジー太郎くんが、
「今回は、欲望ベルトコンベアーにしますよ。他のバイトは、日給はいいけど、死亡可能性があまりにも高すぎる。命を捨てることを楽しむ本物の人生ギャンブラーでもない限り、やらないでしょ。花子ちゃんも欲望ベルトコンベアーでいいかな」
「クマのぷっぷさんと遊ぼうを希望したかったけど、確かに日給が低いほうが死亡可能性は低いからね」
「あら、お二人とも欲望ベルトコンベアーのような日給の低いお仕事でいいのかしら。まあ、応募者が少なかったから、ちょうどよかったわ。人事部のガガーリン黒丸さんへは、わたしから連絡しておくわ。話がついたら、仕事内容を記載した書類を届けるから、それまで待っててね」

 *

 翌日の、すがすがしい欲望の期待高まる朝、学生アルバイト支援室のお面マニアの女から書類をもらった二人は、学校から借り受けたハイパー電気自転車ディザイアで新屋敷インダストリアルパーク特別区にやってきました。
 新屋敷インダストリアルパークの中央広場を横切り、巨大噴水のそばの駐輪施設にハイパー電気自転車ディザイアを停め、欲望特殊工場へと徒歩で向かいます。
「ねえ、ガンジー太郎くん。ベルトコンベアーってさ、食品加工の工場とかで、製品を流していく、いわゆる流れ作業のときに使う機械だよね。お肉の会社なら、ベーコンとか、ロースハムを真空パック詰めにして、流したりとかさ。お菓子の会社なら、ポテトチップスの袋を流したり」
「そうだね。でも、欲望をベルトコンベアーするっていう斬新な発想が面白いのも、応募した、ひとつの決め手なんだよね。詳しい内容は、まったくわからんけど、とにかく、なにかしらの、欲望を、流す、仕事のはずなんだ。希望を、流す、ではなく、欲望を、流す、ってとこが重要なポイントだよ。はやく仕事の説明を聞きたいね」
「アンタには、竹筒から流す、冷やしソウメンがお似合いよ」
「さあ、いこうか、ぼくの手を握って」
「おにぎりは握っても、アンタの手は握らない」
 
「しかたないなー。人事部のガガーリン黒丸さんにでも手を握ってもらうかな」
「同性愛者」
「ガガーリン黒丸さんは、女らしいよ」
「だって、黒丸って男の名前じゃないのよ」
「人を名前で判断してはいけないよ。見た目で判断するのはいいけどね」
 二人が交わらない会話をしていると、前方からエレガントなスーツを着用した女が、左手で旗をふりながら近寄ってきました。その旗は、青地に白抜きの文字で「欲望ベルトコンベアー」と染み込みされています。どうやら、欲望特殊工場の作業に従事する人間を集合させるのが目的のようです。
 女の旗に気づいたガンジー太郎くんが、
「ねえ、マリリン花子ちゃん。あの旗に書かれてある文字、読んだ?」
「え? あっ。もしかして、あの人が、人事部のガガーリン黒丸さんかな。とにかく、話しかけてみましょ」
 工場作業者の休憩に使われる、丸太のベンチの前で、女は腕組みをしながら旗を振り続け、スピーカーを取り出し、喋り始めました。
「欲望ベルトコンベアーに応募なさった方々は、こちらにお集まりください。お名前と所定の書類を確認しましたら欲望特殊工場内に、すみやかに移動いたします。繰り返します……欲望ベルトコンベアーに応募なさった……」
 アナウンスを聞いた二人は、小走りしながら女のそばまで移動しました。
「あのお、ぼくたち、えっと、ぼくは欲望高校のガンジー太郎です。で、隣にいる女の子は、マリリン花子ちゃんです。書類は、お面マニアの受付嬢からもらってきたコレでいいですか?」学生鞄の中からクリアケースを取り出し、書類を差し出したところまではよかったのですが、昨晩レンタルビデオ店で借りたエロDVD「坂の上の団地妻」も一緒に提出してしまいました。エロDVDのパッケージデザインは、司馬遼太郎の歴史小説「坂の上の雲」のパロディーに仕上げてあるので、気合の入った、野心溢れる作品のようです。
 女は、書類とエロDVD「坂の上の団地妻」を交互に見比べながら、平静な態度で、
「あら、キミ、団地妻が、お好きなの? じゃあ、アタクシはお好みじゃないようねえ。まっ、確かに書類を確認したわ。ご丁寧にクリアケースに書類を入れてくる労働者って何年ぶりかしらねえ。欲望高校のガンジー太郎くん、それからマリリン花子ちゃん、ね。労働者名簿のチェックも終えたから、他の応募者が集まるまで、ちょっと待っててね。申し遅れたけど、アタクシは、人事部長のガガーリン黒丸。好きな食べ物は、マーガリン、バター、焦がしニンニク。好きな異性のタイプは、猛々しい咆哮を放てる漢。アタクシを人生の手本にしてくれても、よくてよ?」
「すみませんが、そのDVDは、非常に恥ずかしいので、返してもらえないでしょうか! 人生の手本でも、人生の反面教師にでも、なんでもしますんで!」ガンジー太郎くんは、赤面しながら叫び始めました、
「その咆哮……声量はあるけど、猛々しくないのよねえ、軟弱な咆哮は、お呼びじゃないのよ」
「堪忍してくださいよ。後生ですから、なにとぞ、お返しください」ガンジー太郎くんは、最敬礼よりも深く頭を下げました。地面につくまで頭を下げすぎたので、誰かが道に吐き捨てていた、10円ガムを髪に付着させてしまいました。
 ガンジー太郎くんが頭をごしごししている間、白けた表情のマリリン花子ちゃんは、集まってきた応募者の顔を眺めていました。
 いま、マリリン花子ちゃんの視界に映っている人間風景は、むかしの日本のなんとなく偉そうな書家どもが巻物に描いたりした、虎や笹の葉のように、雑多なもので溢れかえっています。
 企業社会に捨てられた典型的中間管理職風のホワイトカラーの背広親父、凛々しい面立ちで地上に君臨している皇帝ナポレオンのような優美さを醸す義足の夫婦、傷だらけの赤いランドセルを背負っている殺し屋風の目を持つ少女、真冬にもかかわらず夏のジンベイ姿でやってきたテキ屋風のハチマキ超兄貴、太極拳の胴着を歯にぶらさげている厚底ブーツのギャル、デニム地のエプロンをつけた料理研究家風のおばさん、集合した応募者相手にサイケデリック・マジックを披露している奇術師風の男か女かわからない毒ガスマスク人間、ドーベルマンを調教している犬使いの大男、黒ハットと黒マントで洒落込んだ得体の知れない性別不明の四人組……
 ガガーリン黒丸の旗を目印に、集まった応募者の総数は、15名。応募者の名前と所定の書類を確認し終えたガガーリン黒丸が、全ての応募者を整列させ、
「これで皆さん全員揃いました。予定時間を少々過ぎてしまいましたが、これから欲望特殊工場内へと向かいます。さきほど皆さんにお渡しした新屋敷インダストリアルパーク詳細案内図の星印をつけてある場所まで歩いて向かいます。工場の広さは、旧東京ドーム現東京欲望ドームの敷地面積の約10倍の広さがありますので、作業時には迷子にならないように気をつけてください」
「あの、その前に(エロ)DVDを返してくれませんか」ガンジー太郎くんが小声で言いました。
「工場到着時にご説明する予定でしたが、工場内は私物の持込は厳禁となります。応募者のガンジー太郎さん、残念ながらDVDの持ち込みは禁止事項にあたりますので、あずからせていただきます」
「そんなー」
「保管庫に厳重に保存いたしますから、どうぞ、ご安心ください。それでは、みなさん、向かいましょうか」
 真冬の凍てついた風が、枯葉を吹き流す中、応募者は歩き始めました。応募者の歩みは、多種多様なものです。サイケデリック・マジックを披露する奇術師は、「さあ皆さん枯葉がロイヤルストレートフラッシュに変じます」とのたまい、吹き荒れる枯葉をトランプに変身させながら歩行し、犬使いの大男はドーベルマンの低い唸り声を「黙れ」という一声で沈黙させ、義足夫婦は「予備の義足も持ち込み禁止なのかしらねえ」「生きる道具が持ち込み禁止とは企業側も言えまい」と語り合い、赤いランドセルの少女は「孤児・実家・カミソリ・輪廻転生・生霊・ウロボロス・素晴らしい新世界・生きとし生けるもの・残り時間」と怪しい尻取り遊びを呟き、ハチマキ超兄貴は「おう、わいや。臨時収入が、ぎょうさん、はいるでえ。そうや、そうや、欲望を魅せれば、いいんやから、簡単なモンやなあ」と誰かに電話をし、厚底ブーツのギャルは「気を静めながら精神集中。集中度、キリマンジャロよりも高くエベレストよりも低く。どうか小悪魔アゲハ神のご加護を」と丹田に力を込め、元ホワイトカラー風の背広親父は「くはー! キム・ジョンイールが死去だとお? なになに息子のキム・イールジョンが後継者だとお? 世襲ばかりしやがってよお! サラリーマンに世襲なんてねえんだよ!」たぶん過去と現実を振り返りながらビールを投げ捨て、料理研究家風のおばさんは「最近の親たちはねえ、朝ごはんに味噌汁も作らないし、一汁三菜なんてあったもんじゃないのよお。繊維不足を解消させなきゃねえ。え? 団体の資金? 大丈夫よお。打ち出の小槌を見つけたからねえ。パトロンと同時活用するわよお」と誰かに電話をし、黒マントの四人組は、無言で葉巻を吹かしていました。
 ところで、ガンジー太郎くんとマリリン花子ちゃんはというと、
「なあ、マリリン花子ちゃん。たぶん、アレが欲望特殊工場だと思うんだけど」
 前方に見えてきた欲望特殊工場は、夜のため、うす暗く全体像がはっきりしません。それでも紫色のランプが入口だけを仄かに照らしています。入口には、数名のガードマンらしき人物たちが警棒を持って警戒態勢を取っていました。
「入国審査される気分ねえ。あの入口を越えたら、国境越えみたいな感じね」
 午前零時、欲望ベルトコンベアー応募者15名が、欲望特殊工場入口に到着しました。

 *

 ガガーリン黒丸が、応募者を入口の前に集め、点呼を取ったあと、入口脇の十畳ほどの面会室で工場長と話し込んでいます。薄緑色の作業服を着た工場長は、面の皮の厚い顔をしています。清濁あわせ呑む感じの、処世術に長けていそうな中年です。
「ガガーリン黒丸さん。貴方の会社は、大勢の人を連れてきてくれるもんですなあ。いや、あなたの手腕がいいからでしょう。助かりますよ。ほかの会社の人間は、まるでなっちゃいない。欲望をむき出しにした人間を連れてくる術を熟知していないからでしょう。その点、貴方は、その術を知っているということになる。はっ、はっ、は。滅多にいない、才女というやつですなあ」
「過分なお言葉ですこと。カーネギー次郎工場長のほうこそ、生産工程ラインの統括などでお力を存分に発揮なさっているそうじゃないですか」
「工場というものはだね、ラインの管理が命なのですよ。ラインが止まれば、生産が止まります。生産が止まるというのは、人間でいうところの出産がないということですね。<人口の限界>という本をお読みになったことはありますかな。はっ、はっ、はっ、読んでいなくても一向にかまいませんよ。欲望特殊工場は、人間の人口の限界にも対応した、素晴らしいシステムですからなあ」
「はい。その素晴らしいシステムの中で、わたくしどもが採用した人間を是非使ってください」
「さて、ラインの統制から漏れる人間が出てくるのが楽しみですねえ」
「カーネギー次郎工場長。外に声が漏れてしまいます」
「声は、漏れてはいけない。漏れるのは、欲望心の強すぎる人間だけで充分ですからなあ。はっ、はっ、はっ」

 *

 ガガーリン黒丸とカーネギー次郎工場長が、面会室から退室し、欲望ベルトコンベアーの前で話をはじめました。
「みなさん。わたしが、欲望特殊工場の工場長、カーネギー次郎でございます。今までに、欲望に溢れた人間どもを誰よりも見てまいりました。欲望にまみれた顔立ちというのは、共通のお約束のように似てくるものです。そう、皆さんも、ご自分でお気づきではないかもしれませんが、最高品質の欲望顔をお持ちでいらっしゃいますね。よく研磨された宝石よりも輝かしい欲望の光を放っています。その欲望の光を管理するのが、工場長であるわたしの仕事です。みなさんには、欲望の光をあますことなく出していただきたいのですが、より具体的なお仕事の内容については、ガガーリン黒丸さんにお話してもらいます。では、ガガーリン黒丸さん」
「はい。これから皆さんが一番はじめにすることは、ベルトコンベアーに流されてもらうことです。ベルトコンベアー上で仰向けになり、事務員から手足を鎖で固定してもらいます。事務員が作動スイッチを押し、ベルトコンベアーが動き出したら、しばらくなにもありません。そのまま移動していきますと、検査地点を通過することになります。その検査地点で、検査員の指示に従って適切なアクションを取ってください。説明は以上です」
 ガガーリン黒丸が説明を終えると、事務員が番号札を全員配り始め、
「番号札1番の方、ベルトコンベアーにお乗りくださいませ!」
 ガンジー太郎くんは、受け取った番号札を見て、
「ぼく、1番です! の、乗ります! 中央に乗っていいんですか?」
「いいえ。ベルトコンベアーの右側にお乗りください。欲望ベルトコンベアーは2名で流す仕組みになっております。続きまして、番号札2番の方、ベルトコンベアーにお乗りくださいませ!」
 すると、傷だらけの赤いランドセルを背負っていた殺し屋風の目を持つ少女が、やってきました。
「2番…………ん、ん、ん、ん……」怪しい尻取り遊びが続けられないようです。
 ガンジー太郎くんは、リラックスした状態を作ろうと、仲良し作戦に打ってでました。
「あっ、ぼく、ガンジー太郎っていうんだけど、よろしく。ずいぶん若いよね。まだ中学生くらいかな。でも、ランドセル背負ってたから……小学生かな?」
「なにが、ぼく、よ。仕事と関係ない話は、しないで」
「すみません」
「それでは、欲望ベルトコンベアーを稼動させます。事務員が器具を用い、身体を固定させますので、無駄な身動きをしないようにお願いいたします」
 ガンジー太郎くんと少女は、ベルトコンベアーに固定されました。二人とも工場の蛍光灯を見つめる眼は、不安の色が見えます。
「欲望ベルトコンベアー1号機、稼動開始まで5秒……4秒……3秒……2秒……1秒……稼動開始!」事務員が作動スイッチを押しました。
 ギュイン、ギュイン、ギュイン、シュウー、シュウー、ガラッ、ガラッ、ゴロッ、ゴロッ、カタタタタ、カタタタ……
 欲望ベルトコンベアーが複雑な機械音を鳴り飛ばし、ゆっくりとスタートしました。


 *

 これ以上の放送は局内での方針により放送禁止となりました。
ホワイト下村
2011年12月19日(月) 02時34分45秒 公開
■この作品の著作権はホワイト下村さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
小説っぽくないですが、少しでもお楽しみいただけたら幸いっす。
筆力足りないので、頑張ります。

この作品の感想をお寄せください。
No.2  ホワイト下村  評価:--点  ■2012-01-03 07:15  ID:AHDXDYyLKo2
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ご感想ありがとうございます。
ミクスチャー的な感覚は、今後も大事にしていきたいと考えております。
アルバイト紹介で終わらず、内容に踏み込んだ展開も記述していくことを課題として得ることができました。
投稿し、学習することができ、よかったです。
No.1  橘 カオル  評価:30点  ■2012-01-02 17:43  ID:QxsvLmLLD3Q
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拝読させていただきました。

なかなかおもろかったです。
なにが飛び出してくるかわからない闇鍋ごった煮ミクスチャーオルガン &#160;てなアルタードで、レオタードな、お小説ですたね。

ただ惜しむらくは、アルバイトの照会で終わってしまっていますので、そのバイト先でのテンヤワンヤのハチャメチャ顛末を
描いていただけたならなあ、と思いました。
総レス数 2  合計 30

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