祭りのあと
大阪府立元町高校26期2年7組同窓会は、ここ大阪プラザホテルで開催されている。
頭髪に、白いものが目立つ者、はっきりと染めていると判る者、薄くなっているあるいはすっかり後退してしまった者、そして一様に丸みをおびた体つき・・・・・・面影はあるものの、みんな、すっかりおじさんにおばさんだ。
あらためて思うと高校を卒業してから32年もの年月が経過している。
時は流れた・・・・・・。つくづく思いいってしまう。
腕を組んでいるのは円藤 キと松元 恵美か? そういえば高校の時、あいつらいつも腕を組んでいたっけ。たしか水泳部だよな、いい年なのに・・・・・・
担任の染田がいる。たしか今年70歳のはずだ。年とったなぁ、爺さんだ、女性陣と話しに花が咲いているようだ。しゃべっているのは深本、五十嵐、それから室田かな? 賑やかだ、先生は相変わらずよくしゃべるみたいだ。
32年前は、何の変哲もない普通の光景だった・・・・・。今は不思議な違和感を感じる。
みんな楽しそうだ。いい笑顔をしている。
32年か・・・・・・、あの頃は、本当に楽しかったし時間が経つのも早かった。
放課後、覚えたてのフォークギターを一生懸命にかき鳴らした。用もないのに、いつも暗くなるまでみんなで教室にいた。何をしても楽しかった。
思いを寄せる女の子がいた。声をかけることすらできなかった。見ているだけでいい、そう思い込んでいた。本当はしゃべりたかった。好きだって言いたかった。でも何もできなかった。胸がいっぱいだった。どうしてあんなに時めいていたのだろう。かけひきなんてあるはずもなかった。
友達の家で恋愛論とか人生論とかを時間を忘れて夢中になって、夜通し話し込んだ。どうしてあんなに熱く語り合うことができたんだろう? 誰もが物事をまっすぐに見ていた。世界は自分中心に回っていると思っていた。本当に毎日がキラキラと輝いていた。
今、ここにいるみんなは、誰もがあの頃をいとおしく思い、あの頃の自分に思いを馳せているはずだ。
あの頃、僕たちは元町高校というひとつの枠組みの中で同じ日々を過ごしていた。その枠組みの中では全員が平等だった。だからこそ同じ感覚で、同じ目線で見たり感じたりできた。同じ思いで日々を過ごすことができた。
そして、時が過ぎ、それぞれが違った枠組みに巣立っていった。大学、就職、結婚、出産・・・・・・次から次へと違った枠組みに僕たちは身をゆだねてきた。
嬉しかったこと、幸せだったこと、悲しかったこと、諦めてしまったこと・・・・・・ 数え切れないほどのいろいろな出来事を僕たちは通り過ぎてきた。
あの頃の僕たちと今、現在の僕たち・・・・・・、外見上の面影は、少なからず多からず留めてはいるけれど、心のうちは見る影もないほど変わりはててしまっている。
過去に戻ることができないことはみんな承知している。ただ、この「楽しいお遊び」に今は酔いしれていたい、それが今の自分が暮らしていくうえでのエネルギーになる。多くの人がそう思って、この同窓会に参加していると思う。
あの頃の輝きは、あの時代だからこそいい、そう思う。あえて「今」を見たいとは思わなかった。それで出席を逡巡していた。だが、何より懐かしい気持ちが優先した。そして、幹事の労を思った。結果、出席を決めた。
自分も含めてだけれど、こうして同窓会に集ってくる人たちは、今の自分の在り様にそれなりに納得している人たちだ。だから過去を、よき時代を振り返ることができる。思うような人生を送れていないと自分を恥じている人は、今の自分が惨めになるから決して過去を振り返ろうとはしない、だから同窓会にはきっと出席はしない。

「祭りのあとの淋しさが嫌でもやってくるのなら・・・・・・」
ふと、吉田 拓郎のメロデイが浮かんだ。
あの頃は特別なのだ。2度と訪れることのない特別な時代なのだ。
だからこそ、こんなにもいとおしくそしてすきま風にさらされているような淋しさを感じるのだろう。
元町高校26期2年7組の同窓会はまさに宴たけなわである。宴会場の片隅でウィスキーをちびちびやりながら物思いに耽っている。
あや あつし 
2011年02月19日(土) 01時23分16秒 公開
■この作品の著作権はあや あつし さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
人生の酢酸を舐めた人は、自らが青春と定義づける季節を振り返るたびに懐かしくそしてうすら淋しい気持ちになります。

この作品の感想をお寄せください。
No.2  言葉に惹かれて  評価:20点  ■2011-03-04 21:20  ID:sDqO84/iyOU
PASS 編集 削除
はじめまして。

回顧録みたいなエッセイみたいな感じですね。私もおばさんになれば分かるのかなーと思いながら読みました。

印象に残った部分を。
「自分も含めてだけれど、こうして同窓会に集ってくる人たちは、今の自分の在り様にそれなりに納得している人たちだ。だから過去を、よき時代を振り返ることができる。思うような人生を送れていないと自分を恥じている人は、今の自分が惨めになるから決して過去を振り返ろうとはしない、だから同窓会にはきっと出席はしない。」

おばさん世代になるまで約30年。自分が納得できる人生を送りたいと思いました。
No.1  永本  評価:20点  ■2011-02-27 13:43  ID:HLn.vwP7l/s
PASS 編集 削除
初めまして。作品読ませていただきました。
一言で言ってしまうとだからどうしたという印象がまずあります。中年男の過去のありふれた回想など読んでもあまり印象に残らないというか、そのまま通り過ぎてしまいました。何かその回想の中に事件事故があるのなら話は別ですが、特にそういったものもなく淡々と進んでいくだけ。薄味の味噌汁を飲んでいるような感じでした。もう少し長くしてその中に事件等を放り込んだらもっと面白い作品になったと思います。しかし中年男の過去を羨む心情は細かく描写されていて、まだ二〇年しか生きていない自分もあと二〇年、三〇年経てばきっとこんな風に思うんだろうなとこの作品を読んで感じたので中高年の方が読めばその思いはひとしお身に滲みることだと思いました。
それと細かいことなのですが…がやたらと多いと思います。確かに…を使えば寂しさ等の感情が簡単に伝わると思いますが、せっかく文章力があるので文章でそういったことを伝える工夫をしたらもっと良くなるのではと思いました。
総レス数 2  合計 40

お名前(必須)
E-Mail(任意)
メッセージ
評価(必須)       削除用パス    Cookie 



<<戻る
感想管理PASSWORD
作品編集PASSWORD   編集 削除