猫は鳴きやまない
 拳が飛んでくる。真っ直ぐに伸びた拳の速度はあまりにも遅く、他人に痛みを与えるのには不十分だということは容易に理解出来た。
 避けるのは簡単だった。しかし僕は避けない。拳は頬を直撃し衝撃は一点に集中することなく頬全体に拡散した。
 予想通り痛みはあまりなく、殴られたという事実が残っただけだった。
 僕は喧嘩の際に必ず相手から一発受けるようにしている。
 これから暴力という最低の行為を行う自分を少しでも赦すためなのかもしれない。事実殴られることによって僕の中で罪の意識はいくらか和らいだ。
 相手は僕に一発入れたことによってよほど興奮したのか、おかしなファイティングポーズをとりまたしても向かってくる。
 男の動作は完全にスローモーションで映る。避ける避けないの問題ではなく少し身体をずらせばいいだけだ。
 全力で放たれた拳は空を裂く鋭い音を立てることもなく、空しく宙を舞う。おそらく僕を仕留めるつもりで打ったのであろう。相手は体制を崩し豆鉄砲でも食らったかのような間抜けな顔を浮かべる。その隙をついて相手の頭を掴み思い切り顔面に膝蹴りを入れる。
 しかし衝撃は顎に集中させる。そこを打てば大概の人間の意識は遠のき相当な訓練を積んだ人間でない限りしばらく動くことは不可能だからだ。
 肉と肉、骨と骨が衝突する生々しい音が波紋のように広がった。
 名も知らぬ男はたったの一撃で倒れる。しかし無意識の内に威力を弱めてしまったのか、あるいは急所を外したのか、男は立ち上がりまた向かってくる。
 僕は男に近付き頭を思い切り掴み地面に叩きつける。
 骨が砕ける鈍く痛々しい音が耳の奥で反響した。
 男はもう動くことはないが、息はあった。男のポケットから財布を抜き取ってそのまま去ろういというときに、男の視線が身体中に梅雨時の小雨のように鬱陶しい温度と湿気を持っていつまでも纏わり続けた。



 久しぶりに直樹の部屋を訪れた。施設を卒業してからお互いあまり会わなかったのだが、今日の出来事からだろうか急に誰でもいいから会いたくなってしまった。
 しかしここは正確に言えば直樹が同棲している女の部屋だ。
 暗い部屋で直樹は寝ている。暖房が部屋を暖めているからであろう、直樹は何もかけずに眠っていた。
 凛として均整のとれた直樹の顔。しかしその顔を見るたびに思う。僕も直樹と全く同じ顔をしているのだと。向かい合って話しても、二人で暴力を振るっていたときにもそんなことは意識したことはないのに、何故かこうして安らかに寝ているところを見ると双子であることを急に意識してしまう。
 自分と同じ顔、同じ体型の人間がもう一人いる。奇跡的と言えば奇跡的だ。しかし十八年も一緒に過ごすとそんな些細な奇跡は最早日常に変わる、と思っていたのだがやはりどうにも不思議と言うか奇妙な感覚がいつまでも残り続ける。
 姿形は全く同じなのに違う。たまにもしかしたら自分が弟の直樹なのではないか、と錯覚しかけることもあった。
 扉が開く音がした。
「ただいま」
 蛍光灯の眩しい白が目を刺す。
 愛子が呆然とした顔で突っ立っていた。
「あれ、直樹?」
「一樹だよ」
「本当に?」
「本当だよ」
 愛子の顔を改めて見直すと女というのは化粧でどうとでも変わってしまうものだと思う。素顔は普通の女と大して変わらないのに、いや直樹には申し訳ないが正直なことを言うと眉も薄すぎるし、鼻も妙に丸く低く、地味な田舎の中国人のような顔をしているのに、化粧をすることによって、目鼻立ちは陰影によって立体感が出て、肌はファンデーションによって白く肌理細やかなように見せかけることによって、派手な夜の仕事をしているような女へと変貌してしまうのだから。
「顔に何かついてた?」
「いや、何も」
「来るなら何か買ってきたのに」
「別にいいよ」
「ならいいけど。あ、直樹に何かかけてあげてよ」
「大丈夫だよ。暖房ついてるし」
「コンビニ弁当あるけど食べる」
「いやいらない。そんなもんばっか食べてたら体に悪いぞ」
「いいのよ、別に」
 愛子は黙々と弁当を食べ始める。仕事用の顔はそこにはなく、日常を過ごす冴えない女の姿があるだけだった。
 愛子と直樹が知り合ったのは偶然らしく、愛子の尻を撫で廻していた男がついに股間を愛撫しようとしていたところを直樹が見つけ引っ張り出し、通報した挙句に制裁を加え、それを見ていた愛子は暴力的な男イコール魅力的だという、短絡的かつ馬鹿げた思考の持ち主でその日の内に直樹を誘いセックスをして現在のような関係になっているというのが直樹から聞いた話だ。本当かどうかは分からない。本当だとしても脚色しているかもしれないし、全て嘘だという可能性もあったけれどどうでもよかった。
「やっぱり一口いい?」
 愛子は黙って食事を僕の口に運ぶ。人工的なコンビニ弁当は添加物を入れまくっているせいなのだろうか濃すぎて不味かった。
 部屋の明かりと物音で直樹が目を覚ました。
 直樹は目覚めたばかりで視点が覚束ないのか、生まれたての小動物のように目をしょぼつかせながら周囲を見渡している。
「兄貴、来てたの」
 黙って頷いた。
「起してくれよ」
「自分で起きろよ」
「愛子、帰ってたんだ」
「今帰ってきたばっかだけどね」
「何それ?」
「コンビニ弁当。直樹の分もあるよ。食べる?」
「うん」
「今日泊るでしょ?」
 直樹が弁当を口に含みながら尋ねた。
「ああ」
「喧嘩した?」
「何で分かる?」
「何となく」
「そうか」
「兄貴も食べる?」
「いやいいよ。腹空いてないんだ」
 コンビニ弁当の濃く鬱陶しい匂いがいちいち鼻をついた。その匂いを嗅いで何故だか僕は今日潰した男の事を思い出した。
「今日結構派手にやらかしたんだ」
 何故だろう。ただの報告はまるで重罪の告白のような歪な重力を持って落下した。
「兄貴が?」
「ああ」
「ごめん、俺のせいで」
「別にお前のせいじゃないだろ」
「いや俺のせいだよ。兄貴が絡まれるときって大概俺と間違われたときだろ。大体あの時以降兄貴自分から相手に絡むなんてこと滅多にしないだろ」
「まあそうだ。でもするときはする」
「本当かよ」
「本当だ。そうしないとやってられないときもあるんだ」
「そっか」
 今も耳の奥の方でさっき砕いた男の骨の音が響いていた。鬱陶しいその音はしばらく消えることはないだろう。昔はこんなことはなかった。しかし時が経つに連れて僕の耳の奥の方で肉と肉がぶつかる音や骨が砕ける音なんかがしばらく響き続けるようになった。暴力に頼るしかなかった哀れな自分を変えようと思ったときにこの音が響き始めた。
 直樹の耳の奥の方では響かないのだろうかあの音が。あの生々しく鈍い音が。いやきっと響いているはずだ。直樹もこの負の輪廻から抜け出そうとしているのなら。僕達の中に潜む暴力という名の魔物を封じ込めようとしているのなら。

 寝付けなかった。
 他人の家だからとかそういう理由ではなく、今日潰した男の視線がいつまでも身体に纏わりついて離れなかったからだ。
 結局僕は眠らず、延々と天井を眺めていた。染みが黒い鮮血に見え一瞬目をそらしたが、そこにあったのは染みでもなんでもなくただの木目だった。
 僕は眠ることが出来ずそのまま朝を迎えた。春の陽射しが目に入りこむと途端に眠気が襲ってきた。
 部屋を出ようとすると物音に気付いたのか直樹が起き上がり見送ってくれた。
「また来る?」
「来るよ。最近誰かと触れてたいんだ」
「兄貴も女作ればいいのに。一人だと淋しいんじゃない。それか一緒に住まない? 愛子も兄貴のこと好きだよ」
「いやいいよ。迷惑だろ」
「そんなことないよ」
「いやいいんだ。しばらく一人で過ごしたいんだ」
「誰かと触れてたいんじゃないのかよ」
「誰かと一緒にい続けるともしかしたらそいつに迷惑がかかるかもしれないだろ。俺達みたいなのと一緒にいたら。愛子にも結構迷惑かけてんじゃないのか」
「そうかも。でもいいんだ。あいつ馬鹿だから」
「そうか」
「うん。一緒に住みたくなったらいつでも言ってよ」
「分かった。じゃあ」
 もしかしたら、直樹の言うように僕も女でも作って同棲した方がいいのかもしれない。でもそんな気にはなれなかった。
 いくら抑えよう抑えようとしても心の底から湧きあがってくる破壊衝動を抑えきる自信がなかった。もし誰かと一緒にいたら直接的にでも間接的にでもその誰かを徹底的に破壊してしまうかもしれない。僕はそれが何より恐ろしかった。絶望的に頭が悪い僕達は他人と分かり合う術を知らなかった。言葉ではない何かでないと他人と接することが出来ない。そんな獣じみた存在が僕らだった。だからこそ僕は女と一緒に住むのをやめていた。
 その破壊衝動を抑えるという目的もあるのだが二つに僕は過去の体験で女に対して恐怖感のようなものを持っているというのもあった。この二つの理由で僕は女と付き合うのを控えていた。今まで何人かの女が言い寄ってきたこともあったけど僕はそれを全て断ってきた。だから僕は女というものを知らなかった。

 道を歩いているとヤクザ紛いのチンピラが直樹に絡んでいた。直樹は気弱でこの状況から逃れようと必死な若者を演じていたがもう演じるのに飽きたのだろうか、直樹の口元に一瞬不気味な笑みが見えたと同時に目の前にいたチンピラの顔面が壁に思い切り叩きつけられた。さらに念入りにもう一発叩きつける。
 あまりにも瞬時の出来事に残りの二人は理解出来ず断末魔とも怒声ともつかないような奇妙な叫びをあげて直樹にがむしゃらに向かっていった。しかしそんな二人を嘲笑うかのように、直樹は攻撃をあっさりと避ける。
 そして二人目の顔面に思い切り拳を叩きこむ。
 倒れた不良は目を押さえていた。おそらく拳に何か仕込んで思い切り殴打したのだろう。可哀想にもしかしたらその目が光を見ることは二度とないかもしれない。
 ここにきてやっと直樹の異常性を察知したのか三人目は逃げようとするものの直樹は逃さなかった。必死の命乞いも聞くことなく頭を地面に叩きつける。
 あまりにも野性的な眼を背けたくなるような直樹の暴力。そこにはスポーツ的な流麗さや滑らかさは微塵もない。ただひたすらに自分の持つ暴力性を相手に全力でぶつけるだけだった。
 しかしだ。僕は昔直樹のそのあまりにも野蛮で見境のない暴力を見てどことなく魂が震えていた。何故か美しいとさえ思っていた。あまりに無様な直樹の暴力にあらゆる動物が本来的に保持する野性の片鱗を見たからだろうか。
 しかし今は直樹の蛮行から眼を背けたい思いで一杯だった。
 俺達は本当にこれでいいのか? あの頃から変わらないままでいいのか? 俺達は一生この輪廻で生き続けるしかないのか? 心のなかでひたすら問い続けていた。
 呆然と立ち尽くしている僕に直樹が話しかけてきた。
「兄貴いたんだ」
「ああ」
「いたんなら助けてくれよ」
「いらないだろ」
「まあね」
 口調は少し茶化すような感じだったが、その目は精彩を欠いていた。必死に破壊衝動を抑え孤独でいる僕と、抑えることなく自らの本能に従い死にたくなるほど苦痛なのにそれでも他者と繋がっていたいという実感を得るために暴力を振るう直樹、どっちが正しいのだろうか今でも分からない。
 確かに暴力は最低の行いだ。僕達はそれをしっかりと認識していたが理屈ではなかった。僕達が他人と繋がっていくために必要なものは言葉ではなく自らの拳を痛め相手を痛めつける暴力の中にしかなかった。何故ならそうなるように育てられてしまったからだ。この呪わしく獣じみた僕達は一体どこに向かえばいいのだろう。他人と言葉で体温で接するにはどうしたらいいのだろう。道を誤った僕達双子を救えるのは一体何なのだろか。
 僕は施設を出て極力他人と触れ合うのを自ら禁止していたが、たまに直樹や愛子と一言二言喋りそして見ず知らずの不良を殴った。それも自分と同じ匂いのする暴力でしか解決出来ない最悪の奴を狙って喧嘩を売ることもあった。そういった奴らは僕の分身だった。哀れで醜い僕の。そういった奴に拳を向けることは自分に拳を向けることであり同時に破壊衝動の発散にもなるので丁度良かった。そうしないと自分自身を壊さないとたまにどうにかなりそうだった。本当に僕はこのままどこにも進めずに終わってしまうのだという恐怖感で押しつぶされそうだった。
「なあ直樹。あんなことして楽しいか」
「楽しいわけないだろ。でも抑えられないんだよ。そうしないとこのまま一人なんじゃないかって」
「そうか」
 これも運命なのだろうか僕達は孤独を恐れていた。僕達はこうでもしなければ他者との繋がりを持てない哀れな獣の子だった。



 物心ついた頃から僕達の周りでは暴力が呼吸をしていた。
 勢いで結婚した僕達の生みの親は勢いで僕達を生んだ。そして若い夫婦にありがちなありふれた悲劇が訪れた。
 虐待だった。
 若かった二人は幼い僕達を目の前にしてどうしたらいいのか分からずに、無闇に叱り、それでも言うことを聞かないと叩いた。
 最初は軽かったけれど、日を増すごとに制裁は威力と精度を増し放たれた暴力は的確に急所を捕え痛みは指数関数式に増していった。
 やがて小学生に入学し少し知恵をつけた僕達がこの二人に対する効果的な反抗、反抗と言うより抵抗を見つけた。
 それは沈黙だった。
 そうすれば打たれることはない。仮に打たれたとしても飽きてしまう。僕たちはお互いに何があっても沈黙するというルールを敷き、従った。
 最初頭の足りない二人は僕達の行為の意味を理解することなく、ただひたすらにほんの些細なことで僕達に暴力を振るった。
 しかし僕達は沈黙した。そうすればいずれ僕達の行為の意味は理解されると。この単純なことさえ守ればいずれ僕達は解放されると。
 打たれては沈黙し打たれては沈黙する。人形のような僕達。
 そしてある日を境にぴたりと暴力は振るわれなくなった。おそらく打たれてもただ押し黙る僕達に対して恐怖に似た感情が芽生えたのだろう。事実、暴力が止んだ後二人が僕達を見る目は別次元の生物を見るかのような冷淡な物に変わっていた。以前その目に備わっていた激情の炎はもう消えていた。
 歓喜した。僕達の求めていいたものはこれだったのだと。平穏だったのだと。幼い僕達は自らの手で掴み取った自由を身体中で味わった。それはどんな果実よりも甘かった。
 しかし自由を手に入れた代わりに僕達は放任された。いや放任ではない。無視だった。完全にこの世に存在しないものとして僕達は認識されてしまった。
 身体に違和感が走った。
 確かに僕達は痛みから解放され自由を手にした。でも代わりに無視された。理解出来なかった。心の底から叫んだ。
 何で何で何で何で何で何で、何で!
 こんなはずではなかった。僕達の望んだ未来はこんな無味乾燥としたものではなかった。
 確かに痛みはない。自由を手にした。貧しい国の人達があるいは極寒の地で震える路上生活者が渇望する物を手に入れた。でもその代わり体温を失った。
 確かに暴力は痛みを伴うものだが、幼い頃からの虐待によって他者を信じることが出来なくなった僕達は友達を作らず二人だけの小宇宙で生きてきたので他者との繋がりを持っていなかった。そんな僕達が他人に触れられるのは親からの虐待だけだった。いつのまにか僕達にとって暴力は他人の体温を感じられる唯一の機会であり、また愛の代理だった。
 馬鹿らしいかもしれない。でも僕達は耐えられなかった。自由と痛みからの解放よりも無視をされることが辛かった。他人と触れていないというのが辛かった。この世の者として扱われないのが何よりの苦痛だった。
 見て欲しかった。触れて欲しかった。どんな形でもいい。痛みを伴ってもいい。ただ誰かに触れているという実感が欲しかった。それがなくては僕達は自分の証明すらも出来ず本当に人形で終わってしまうのではないかと思った。
 考えた。どうすればいい。どうすればこの地獄から抜け出せるのだと。僕達の出した答えはあまりにも単純だった。悪事を働けばいい。そうすればまた前のように自分達を見てくれる。触れてくれる。
 僕達はひたすらに悪事を繰り返した。
 万引きをし、無意味に暴力を振るい、社会に反抗し、幼い僕達はその小さな頭と体で出来る限りの悪事を尽くした。
 それを知るたびに二人は僕達を痛めつけた。
 これだった。これこそが僕達の渇望していたものだった。誰かに触れられているという感触、その実感。
 痛みが加わるたびに僕達の中には二人に対する憎悪と感謝という相対する感情が蓄積されていった。
 悪事を働く。暴力を加えられる。悪事を働く。暴力を加えられる。僕達は負の輪廻に自らを組み込んだ。
 二人は勘を取り戻したのか、暴力は精密になり確実に痛みのレベルは上がっていった。
 ただ僕達は自分の存在証明をしたかっただけだった。ただそのためだけに僕達は暴力を振るわれるという極めて非効率な道を選んだ。
 しかし世間とは僕達が思っていた以上に優しいもので、僕達の様子のおかしさに気付いた誰かが児童相談所に通報した。
 相談所の人間は親身になって僕達の話を聞いた。
 しかしその優しさを受け入れることが出来なかった。今にして思えばその優しさを受け入れるべきだったのかもしれない。しかし当時の僕らは戸惑ってしまったのだ。光の中から差し延べられた手は本当に自分達に体温を与えてくれるのかという不安ばかりが勝ってしまい、拒否した。
 そのうち相談所の人間は訪問を止めた。僕達の態度があまりにも侮辱的だったから。
 救いを拒否した僕達は期待した。暴力を。
 しかし繰り返される暴力に馴れたのと同時に僕達は自分が思っている以上に身体的精神的に成長を遂げてしまい、二人に失望するようになった。
 もう生温かった。もっと幼い頃に死ぬほど食らった痛みはもうなかった。親の老いと自分達の成長を呪った。そしてその呪いは古代から堆積された地層のような憎悪を触発し、そして爆発した。
 激情が沸々と湧きあがった。何故なんだ何故幼少期の僕らにあんなことをしたんだ。何故僕達を負の輪廻の中に放り込んだんだ。何で僕達にこんな、こんな呪わしい道しか与えてくれなかったんだ!
 僕達はひたすらに呪った。自分達の宿命を。しかしいくら呪ったところで僕達はおよそ数多の人間が心の奥底に潜ませているであろう魔物を覚醒させてしまった。何もかもが遅かった。魔物はひたすらに暴力を愛を体温を求め続けた。幼いながらに僕達は気付いていた。もう無駄なんだと。僕達はどこにも抜けられないと。しかしそれでも抜け出したかった。この輪廻から。僕達を縛る宿命から。
 決意した。ここから抜け出すのに必要なこと。それは徹底的な破壊だと。
 身体が想像以上に成長した僕達は十歳にして筋力がそこそこあった。大人に対抗できる力は程々にあった。
 そして時は訪れた。僕達を生んだこの二人に復讐する時が。
 寝ている二人の顔面に思い切り皿を叩きつけた。二人は苦痛に顔を歪めたがそれでも止めることなく徹底的にに顔面を打ちつけ、腹を蹴り思いつく限りに暴れた。
 僕達はただただぶつけた。自分達の怒りを、悲しみを、憎悪を。
 叩くたびに小さい拳は悲鳴を上げた。叩けば叩くほどに自分達が惨めになった。それでも徹底的にやらないともっと惨めな場所に堕ちてしまうという直観から僕達は暴力を振るい続けるしかなかった。
それが幼かった僕達に出来る唯一の抵抗だった。
 逃げ出したその日東京には記録的な豪雨が降り注いでいたが、そんなものはどうでもよかった。僕達はただただ真夏の雨の中を走った。
 温い夏の雨は身体を温めることはなかった。

 金銭もない、食料もない、学もない、知恵もない、そんな僕達の逃避行は当然永くは続くことはなかった。
 やはり世間は優しかった。
 僕達はまたあの家に戻った。怒号と暴力が飛び交う我が家に。
 分かり合う言葉を持ち合わせていない僕達家族は理性を失くした野獣のようにひたすらに暴力でぶつかるしか互いを知る術を知らなかった。しかし何故だろう。友もない僕達にとってはそれこそが温もりだった。そこに糸屑のような小さな小さな希望を見ていた。
 暴力を振るい、逃げて、戻りを繰り返した。
 しかしそんな僕達は近所で有名になりまたしても誰かが児童相談所に通報した。
 そしてまた僕達に救いの手が差し延べられた。
 今度は迷わなかった。
 僕達はただこの負の輪廻から逃れたい一心で一杯だった。いくら精神的に成長したとはいえもう限界だった。暴力以外の何かで他人と繋がりたいその一心で今度は迷うことなくその手を掴んだ。

 カトリック系の児童養護施設で僕達は過ごした。
 入園していきなり驚いたのは洗礼を受けたことだった。キリスト教的な洗礼ではなく、上級生からの暴力という名の洗礼だった。
 しかし身体も成長し暴力という物を心得ていた僕達にとって彼等の振るう暴力は飯事にしか過ぎなかった。
 一瞬にして彼等を潰した僕達は暴力の新たな使い道を見つけてしまったのだ。抵抗でも誰かと分かり合うわけでもなく、何かを支配する、快楽を得るという極めて動物的なものだった。
 しかし僕達は見つけはしたものの無闇に振るうことはなかった。
 ただ怖かったからだ。暴力でしか他人と分かり合えない自分達はいずれ誰かを再生不能になるまで破壊してしまうのではないかと恐れていた。
 独裁者のように快楽入手や支配といったものに暴力を行使すれば本当に自分達は堕ちるところまで堕ちてしまい、二度とこの輪廻から這い出ることは出来なくなってしまうのではないかと恐れていた。
 僕達は絡んできた上級生を瞬時にして潰したことによって、園内で他の子供たちから畏怖と尊敬の目で見られるようになった。図らずとも僕達は園内で支配者のようなポジションにつく羽目になってしまった。
 支配欲は確かにあったのだが、しかしそのように他者を支配すれば目立ってしまい、結果としてまたしても暴力に頼らざるを得なくなることを予見していた僕達はそのような振る舞いをすることはなかった。
 その代わりに僕達は必死になって求めた。言葉で接してほしいと、体温が欲しいと。
 そのために良い子を演じた。
 僕達の苦労は実って友人は少しずつだができ、言葉で他者と触れ合えることが出来るようになっていた。
 養護施設での生活は非常に充実したもので(多少の規則があり、それは少し面倒だったのだが、この豊かな生活にすれば些細なことに過ぎなかった)僕達は幸せの絶頂にいた。
 これだ。やっと自分達は他の人達と同じ場所に立てたのだと心底感動した。
 教員にも気に入られ僕達の心は浄化していった。
 聖母マリアの微笑は僕達にこれまでにない幸福を約束してくれるかのように見えた。
 しかし事件が起きた。
 屠殺映像だった。
 分別がつくくらいに成長した子供にならこの程度の映像は見せても問題はないだろうと判断した教員が見せて、命の尊さ重要さを説くというありふれた御題目の授業を開きその際に屠殺映像を見せたのだった。
 他の子供達が真剣に屠殺映像を見て、ときに目を背け、外部から呼んだ女性(おそらく修道女だと思う)の熱心な講義を真剣に聞き命とは何であろうと個々で考察している間に僕達の心にあったのは、予感だった。封じたはずの暴力の復活。
 どんなに偽ろうとも、どんなに封じようとも身体中に刻まれた刻印が消失することはなく、徐々に徐々に身体を蝕んだ。
 抑えられなかった。これまでの人生からすると僅かではあるがまともな教育を受け、まともな日々を過ごしたはずなのに、それでも僕達に巣食っていた暴力と言う名の魔物は消えてはいなかったのだ。
 どうすればいい。どうすればいい。
 また負の輪廻に戻りたくはない。必死だった。
 しかし思考を重ねれば重ねるほどに身体は拒否し、僕達を最悪の方向へと誘おうとしていた。
 爆発しそうだった。僕達は自分達の心の深い深い暗闇に封じたはずの暴力がじりじりと這い上がってくるのを抑えるのに必死だった。
 たかが屠殺映像を見ただけで僕達の心はこんなに揺れ動いてしまうものなのか。
 そしておぞましい魔物はもう暗闇から出かかっていた。耐えられなかった。
 しかし人間相手にそんなことは出来ない、ましてや園内の人間には。
 僕達はこの思いを早く封じたいと思う一方、衝動をぶつけたいという動物的欲求もあった。
 僕達が出した結論は、罪の無い小動物を殺すことだった。
 規則があるとはいえちゃんとした理由を告げれば園内からは割と自由に出入り出来たので僕達は適当に理由をでっちあげて、包丁を持ち出した。
 もう抑えることが出来なかった。破壊衝動は限界にまで達していた。
 理性がそんなことをしてはいけないと幾度も告げたが、身体に刻みつけれられた業がそれを無視した。
 僕達はまたしても自分達をそして神を聖母を呪った。
 結局、僕達は何処に行こうともこの輪廻から逃れることは出来ないのではないのかと。だとしたら神は何故光明に至る道を示してくれないのか、聖母の微笑は嘘だったのか。
 彷徨った僕達は一匹の野良猫を殺すことに決めた。
 猫らしい俊敏さがまるでないぶくぶくと肥えた薄汚い野良猫をあっさりと捕まえた。
 まず僕が猫を殺すことにした。
 屠殺映像に出てきた家畜と同じく本能が猫に死を報せ必死の抵抗を見せた。
 直樹に抱かれながら必死に抵抗する猫。短い手脚は宙を引っ掻き回し、表情は死に対する恐怖と目の前にいる僕達に対する憎悪で満ち満ちていた。
 だがこの猫がどんなに抵抗しようとも運命はもう決まっていた。
 僕は猫にかつての自分を見出していた。
 抗うことの出来ない運命に必死にもがき、両親に憎悪と恐怖を抱いていた自分を。
 見ていられなかった。
 必死にもがく猫を見ていて単純な破壊衝動以外の何かが僕の心に芽生えていた。
 一思いに心臓を刺した。
 上手く心臓を貫いたのであろう。猫はぐったりとしてもう動くことはなかった。
 包丁を抜くと黒味がかった鮮血がべっとりと付着していた。
 まだ生温かい鮮血を手にしたとき、生命の律動ではなく自分達も一個の生命を屠殺場の家畜のようにあっさりと殺すことが出来るのだという狂気じみた喜びと破壊衝動を鎮めることが出来た安心感と、そして昔の自分にほんの僅かの時間だけ決別出来たような気がした。
 直樹も同じように猫を殺した。
 僕達はしばらく外を歩いた。目に映る全てを破壊したかった。
 園内に戻ったときにはもう日は暮れていて、子供たちや教員に心配をされた。
 屠殺映像と猫殺しにより僕達は己の暴力性を完全に復活させてしまっていた。園内を抜け出しては小動物を殺し破壊衝動を鎮めていた。しかしいつしか小動物では満足出来なくなり僕達は人間を狙うようにした。その狂気はか弱い子供や女性ではなく、自分達を負の輪廻へと堕とした若く強そうな男へと向かった。
 僕達は密かに園内を抜け出しては若く屈強そうな男を選び喧嘩を仕掛けていた。
 しかし今まで人間相手では両親と入園した時に絡んできた子供達にしか暴力を振るったことがなかったので、多少喧嘩の心得があるものにはあっさりと負けた。
 負けて帰ってきた僕らを見て教員は驚きの表情で何があったのかを聞きだそうとしたが、僕達は何も話さなかった。
 熱心に語りかける声を遮断し、ひたすら己の破壊衝動に従って行動していた。
 しかし園内の大人は熱心で聖書を片手に持ち神の愛を説き、己から吐き出させようとした。しかしそれでも僕達は何も言わなかった。
 そんな僕達に周囲の人は諦めたのかもう何も語りかけてくることはなかった。
 園を飛び出し己の破壊衝動を鎮める日々は地獄だった。
 しかし僕達は多くの実戦をこなし喧嘩の方法という物を身体に沁み込ませていた。
 僕達にはどうしようも出来なかった。どうしたら止められる、どうしたらこの輪廻から抜け出せる。ただただもがくことしか出来なかった。

 僕達は聖母マリアの微笑に体温を感じることが出来なくなり、ひたすらに暴力に生きていた。
 そんな僕達のことは園内で噂になり、近付く者はほとんどいなくなった。
 なかには変わり者なのか、それとも僕達と同じ運命を辿ってきたのかは分からなかったが、僕達についてくる子供もいた。
 正直言って鬱陶しくて仕方がなく来るなとは言ったしそれなりに痛みも与えたのだが、それでも無言でついてくる子供もいた。
 少数を引き連れて動く僕達はどうしても目立ってしまい派手な行動が起こせなくなっていた。
 苛立ちが募った。
 しかし子供達に暴力を振るう気にはなれなかった。
 人を引き連れて(というか勝手についてきているだけなのだが)日々園内を抜け出し謎の行動をする僕等は女子の間で少なからずとも噂になっていたようであり、特に直樹はその端正な顔立ち(双子なので僕も直樹と同じ顔なのだが、何故だか直樹の方が人気があった)から言い寄ってくる子が多数いた。
 しかし直樹はそんなものには興味がなく、ただひたすら己の破壊衝動を抑えていた。
 正直言うと少し直樹に嫉妬していたのだが、日々破壊衝動を抑えていることに必死だったので、些細なことに過ぎなかった。
 ある日のことだった。夜中どうしても小便がしたくなり目を覚まし、トイレから出たときに一人の女の子が待ち構えていた。
「どうしたの?」
「何でも」
「あ、そう」
 立ち去ろうとしたその時だった。
 不意に僕は押し倒されてしまった。
 普段ならこんなことは絶対にありえないのだが、眠気と女の子だからという油断とですっかり気が緩んでいたせいか僕はあっさりと女の子に押し倒されてしまっていた。
 女の子の目は爛々と輝き、獣のような野蛮さが垣間見えた。
 押し退けようとしたのだが、女の子とは思えないくらいに力が強くなかなか抜け出すことが出来なかった。
 幼い僕はセックスの意味が分からずただただ恐怖に震えていた。自分よりも小柄で力の弱い女の子相手にだ。
「一樹君でしょ」
「…………」
 そう問いかける彼女の身体は月光に照らされ怪しく光っていた。その身体からは十二歳とは思えないほどに成熟した女の色香が漂っていた。しかしまだ子供なのかその色香を操ることが出来ずどこかアンバランスな空気を醸し出していた。
 彼女の身体から放たれるその空気を感じている内に恐怖よりもこれから行われる未知の出来事に関する興味の方が勝ちかけていた。
「直樹じゃなくていいの?」
「うん」
「皆直樹の方が好きだよ」
「そうだね」
 それ以降彼女は言葉を発することはなかった。
 彼女の手が僕の股間に伸び優しく撫でた。
 その時の彼女の顔は聖母マリアの微笑すらを超越するような、人間が本来的に持つ慈悲と愛情が込められていた。
 彼女の手が動く度に僕の体温は少しずつ上昇していった。馬鹿らしい話だが僕は彼女に身体を預けてしまってもいいとさえ感じていた。
 しかし彼女の手がズボンを下ろし無機質な鉱物のように勃起してしまったそれを見られようという段階になって急に僕の身体に寒気が走った。
 これ以上踏み込んではいけない。この一線を越えたらもしかしたら僕は完全に堕落してしまうかもしれない。
 思考が身体を駆け巡ったと同時に僕は彼女を押し退けた。そして恐怖を打ち消すかのようにして、彼女を何度も何度も蹴った。
 彼女の顔は痛みで歪んでいたが、罪悪感からだろうか決して叫ぶことも、抵抗することもなく蹴られ続けていた。
 蹴り続けている内に破壊衝動と恐怖は収まり最後の一撃を食らわせようとしたその時、彼女は立ち上がりただ一言「ごめんね」とだけ言い残して自分の部屋に戻って行った。
 汚されようとしていたとはいえ自分よりもか弱い女の子に手を上げてしまったことに対する後悔と、もしあの時その先を越えてしまったらどうなっていたのだろうという恐怖と好奇心とでその日寝付けなかった。
 彼女の手の感触を思い出しながら、それはいけないことだと分かってはいたのだが、僕は無意識の内に自分の股間をゆっくりと撫でていた。
 翌朝、朝食の時間に彼女と目が合ったのだが、お互い何も言わずただ黙々と朝食を食べていた。
 そしていつの日からだろうか食卓から彼女の姿は消えていた。
 彼女が消えた日から僕は女性に対して猛烈に恐怖感を抱いてしまっていた。
 しばらく誰とも話したくなかった。

 彼女が消えてからというもの僕の中には女性に対する恐怖感が生まれてしまいまたその時自分よりはるかに貧弱な女の子に対して暴力を振るってしまったということを心の底から後悔して暴力を控えるようになっていた。
 直樹はそんな僕を不審に思っていたがそれでも一人で出かけ誰かに喧嘩を売って帰ってきては弱々しく縋りつくように「兄貴と一緒じゃなきゃ駄目なんだよ」と言った。でもそれを聞いても一緒に行こうとは思わなかった。でもどんなに暴力を恐れようが身体に刻まれた刻印は消えることはなく放っておけば疼き求めた。
 どうしても抑えられなくなったとき僕は密かに園を抜けて小動物を殺し、男を殴った。しかしもう十五になった僕は理解していた。こんなことではいけないと。他人とこんな風に最低の行為でしか繋がることが出来ない僕達は永遠にこのままだと。変わろう変わろうと必死になったがもがけばもがくほどに嵌っていった。
 一度呪ったはずの神に祈りを捧げた。どうかこの哀れな僕を変えて下さい、この輪廻から僕達を逃してくださいと。しかし不可視の神は何一つ情況を変えることはなかった。祈りを捧げる内にそれはおそろしく無意味な行為であるということに気付き止めた。不可視であろうと具象化された神であろうと根本から腐っている人間を救うことは不可能なのだと。
 そんな風に過ごしている僕はいつのまにか孤独になっていた。暴力を身近な人間に放つことがなく安心していたというのもあった。しかしそれ以上に僕は他人との触れ合いを求めていた。誰でもいい僕を殴ってくれと。
 そんな僕に一人の教師が熱心に語りかけてくれた本町という名前の教員というよりも神父がいた。
 神父が良かったのは人との距離の取り方とりわけ児童養護施設にいる心に何かしらを抱えている子供との距離の取り方が絶妙だった。つかず離れずで触れ合っても温か過ぎず、かといって冷たすぎずといいうのを体で分かっているような感じの男だった。
 神父は一度ぼくに告解室(小さいとはいえカトリック系だったので教会があった)で告解をするよう勧めてきた。
 しかし経験からそんなことは全くもって無駄だということは理解していたので断った。すると神父は特に残念がることもなく去っていった。今にして思えば例え無駄だったとしても、あの時告解しておけば蚤程度の小さなものだけど僕の人生は変わったかもしれない。

 月日が流れ十七になった僕達は相変わらず成長していなかった。直樹は日々暴力を振り誰かと繋がっていることを必死に求め、僕は半ば諦めてはいたがそれでもたまに孤独に押しつぶされそうなときはどこかにふらりと出掛け他者と繋がった。必死になろうが諦めようが結局僕達はあの輪廻から一歩も外へ抜け出すことは出来なかった。
 そして僕達は誰の手も借りることなくひっそりと卒業し生活を始めた。



 気付くと昼になっていた。昨日なかなか寝付けなかったせいだろうか。最近なかなか眠れないでいる。孤独には慣れているはずなのにいざ本当に一切の繋がりを経った状況に自分を置くと途端に他者との繋がりを求めていた。
 まだ冬の空気を残しているのだろうか部屋は妙に冷えていて暖房を点けたのだが、部屋はなかなか暖まることはなかった。
 本当に僕は女でも作って一緒に暮らした方がもっとまともになれるのかもしれない。しかし自分の中に眠る破壊衝動はそれを許すだろうか。本当にその人に危害を加えないだろうか。ただそれだけが心配でそれを思うと赤の他人と一つ屋根の下で共に生活をするということは出来なかった。
 適当にテレビを点けると普段お調子者のキャラクターで通っているアナウンサーらしき男が三文芝居で最近の若者の心の荒れ具合だとかそんなことを論じていた。何だか分からないけどあまりの嘘っぽさに少し笑えてきた。
 腹が鳴った。どんなに寝ていても人間腹が空く物なのだろう、適当に冷蔵庫を漁っても何もなかった。

 白色の蛍光灯が目に痛いコンビニに入り適当に弁当を選んでいると店におそらく授業をさぼったのであろういかにも不良という感じの高校生三人組が入ってきた。その三人を見ていると無性に破壊衝動が湧きあがってきた。しかしただの悪ぶっているというだけで暴力で何かを解決しようと思っているような僕と同種の屑ではないので何とか気は治まった。
 適当にぶらついていると何者かが肩を叩いてきた。直樹かと思い振り返ってみるとそこにいたのはさっきの不良三人組だった。三人組は誰も彼も同じような胸糞悪くなるような甘ったるくそれでいて下卑た含み笑いを浮かべていた。そのまま黙って去ろうとすると囲んできた。
「お兄さんさあ、金持ってるんでしょ」
「…………」
「持ってんでしょ。出してよ」
「…………」
「黙ってないでさ何か言ってよ」
「……うるさい」
 そうぶっきらぼうに答えたと同時に一番体格の良い男が襲いかかってきた。少しは喧嘩慣れしているのであろう拳を受けてみると重かった。頬に広がる痛みを感じながら僕は男の懐に潜り込み腹部に思い切りパンチを放つ。男は蹲るがそれを見逃さず拳に鍵を仕込んで目を打つ。
 焼死体のような姿勢で蹲る男を見て他の二人はそそくさと逃げて行ったが追う気にならなかった。
 蹲っている男を見ていると僕は初めて殺した猫のことを思い出した。この男もあの猫と自分と同じなのだと。第三者によって運命を決定される弱く脆い存在。そう思っているとどこからか猫の鳴き声が聞こえてきた。その声は低く憎悪を含んでいて耳の奥の奥の奥のほうで渦を巻きながら繰り返し再生された。それを聞いていると吐き気を覚えて道端に少し吐いた。

 延々と続くライン作業をこなしていると全てを忘れることが出来るのだが、今日は叩いた男と猫の鳴き声とがいつまでも脳に焼きついて離れなかった。そのせいで絶対にやらないような凡ミスを連発しては上司に怒られた。
 いっそ全てを壊したい。全てを壊せば何もかも元通りになるんじゃないかという淡い期待ばかりが浮かんでは消えた。嫌な事を忘れさせてくれる断続的に続く機械音とオイルの匂いは今日だけは鬱陶しくて仕方なかった。
「今日調子悪いじゃん。どうしたの?」
 そう聞いてきたのは僕より少し上の中本という男だった。
「なんか調子悪いみたいです」
「珍しいね。体調悪いんなら早く帰りなよ」
 普段ギャンブルと女の話しかしないようなしかも僕と殆ど会話もしないような男が心配をするとは到底思えなかった。もしかしたら何か要求してくるかもしれないと警戒し始終いらつきを覚えながらも仕事をこなした。

 春だというのに外は恐ろしく冷えていた。東北地方では季節外れの雪も降っているというのを天気予報で聞いた。
 何故だろう寒さのせいだろうか、それとも孤独のせいだろうか。最近本当に誰かと触れていたいという思いが強くなっていった。出来るなら暴力以外の、人間らしく言葉や体温で他人と分かり合いたかった。昔の僕はとてもじゃないがそんなこと考えていなかった。孤独でいる方が楽だった。誰かに危害を加えることはなく安全に生きていられるから。でも今は違っていた。壊したいと壊したくないの間で揺れ、死ぬほど他人を求めていた。三十六度の体温を言葉を求めていた。
 気付いたら愛子の家の目の前に立っていた。しかし何故だろう入る気にはならずにそのまま去ってしまった。

 その日愛子の家にもう一度行ってみた。誰かと話したくて仕方なかった。ノックを三回ほどすると愛子が出てきた。
「直樹?」
「一樹だよ」
「どうしたの」
「急に来たくなった」
「そう」
 嫌がることなく愛子は僕を部屋に入れてくれた。暖房の熱が部屋を暖めていて冷え切った身体を瞬時に温めた。相変わらず愛子の部屋は散らかっており女らしさがあまり感じられなかった。
 適当に散らかったゴミに化粧品、しかしその雑然とした有様は僕達の家とそっくりでどこか懐かしさを感じた。
「何か飲む?」
「いらない」
 そう言ったのにも関わらず愛子は何か温かい飲み物を用意している。
 僕の前に温かいコーヒーが差しだされた。苦くほのかに酸味がある味が口の中に広がり胃へと溶けていった。
 テレビからは名前も知らないような国の紛争を伝えていた。僕は想像した。僕の名も知らない国で名も知らない人達が次々と血を流し圧倒的な暴力の前に平伏していく様を。想像力の乏しい僕がありありとその様子を思い描けたのは遠かろうが何だろうが、暴力というものが身近な存在だからだろうか。今こうしてコーヒーを飲んでいる時でさえ罪の無い人が血を流し骨を断たれ不可視の神に救いを求めている。その光景はもしかしたらカーテンを開けたら目の前に広がっているのではないかと思い、そう思うと同時にもうコーヒーを飲む気が失せてしまった。
「もういいや。ありがとう」
「コーヒー苦手だった?」
「いやそういうのじゃないんだ」
「そう」
 流しに捨てられる黒い液体は今日潰した男の血にどことなく似ていた。それを見ていると無性に自分のした行いが最低なのだと痛感させられる。しかし後悔しようがもう消去することはできないのだが、それでもとっくに消えたはずの拳と頬の痛みが蘇ってきた。
「そういえば直樹は?」
「知らない。パチンコで行ってんじゃないの」
「そうか。なあ」
「何」
「何で直樹みたいなのと付き合おうと思ったんだ」
「何でって、直樹が話した通りよ」
「嘘だろ。あれ」
「本当よ」
「お前はそんな馬鹿には見えないんだ」
「…………」
 沈黙だけが流れた。暖房の音が聞こえてくるだけだった。何でこんなことを聞いたんだろう。別に直樹と愛子の出会いなんてどうでもいいのに、直樹はまだ他人と少なくとも愛子と会話をしていたが、僕はまともに誰かと長話をしたことがないので何をきっかけに会話を展開すればいいのか分からなかったからこんな阿呆な事をいきなり聞いてしまったのだろうか。
「ごめん。別にどうでもいいんだ」
「本当のこと言うとさあいつボコボコにされてたんだよね。怖くてただ見てるだけで。で、された後にこれヤバいなって声かけてみたら私の顔見るなり泣いてさ。それ見てたら、あ、この人なんか助けてあげないといけないんじゃないかなって思ってさ」
「そうか。でもあいつがボコボコにされるなんてことないと思うんだが」
「今の直樹見てたらね。でも何ていうのかなあの時の直樹わざと殴られてる感じだった」
「そうか」
 そうか。あいつもそんなことをしていたのか。
 これで直樹と愛子の本当の出会いを知ったわけだけど、そこからどうしようかとか何にも考えていなかった僕はただ適当にうなずくくらいしか出来なかった。でも直樹が僕と同じ行為をしていたという事を知ることが出来てどことなく安心した。おそらく今も殴り殴られているはずだ。この狭い街のどこかで。
 そして感情的な直樹にそこまで感情を爆発させた愛子という女は一体何者なのだろうかという疑問が改めて湧いてきた。直樹は馬鹿だと言っていたけれどどうにもそんなに頭の悪い女には見えなかった。
「さっきのだけどさ、直樹のこと助けてくれてありがとう」
「いいよお礼なんて言わなくて。ただあの時の直樹見てるとなんていうかさ捨て猫みたいだったんだよね。何かに助けを求めてる捨て猫。このまま死ぬって分かってるのに必死になってもがいてさ。そんなの見てたらなんか助けないとなって本能っていうのかな、そう思っちゃってさ」
「そうか」
 捨て猫という表現が妙にしっくりきた。暴力という輪の中でしか生きられず獰猛な獣のような僕達は、なるほど他人から見たらか弱い猫だったのかと。そう思うと少し笑えてきたし哀しくもなった。何故なら僕達はあの時殺した猫と同等だからだ。死ぬ運命にあるのに必死にもがき続ける哀れな猫。でもただの獣じみた存在だと思っていた僕達にとってそんなか弱い存在に見えるというのは脆弱だけれど救いのようなものだった。
「今日泊ってく?」
「そうする」
「その方がいいよ」
 駄目だと言われても無理矢理にでも止めてもらうつもりだった。一人夜を過ごしたら昼間の出来事はきっといつまでも頭に貼りついて離れないだろうから。
 床に座り適当にだらけていると隣に愛子が座ってきた。
「そういえばさ、一樹は女の子と付き合わないの」
「ああ」
「付き合えばいいのに。だって一樹モテるでしょ。直樹と違って大人しいし」
「モテないよ。まともに話せるのって本当に片手で数えられるくらいしかいないんだ」
「もったいないね。格好良いのに」
 そう言うとそっと愛子が手を伸ばして僕の顔を見つめてきた。細目から見える深い黒色の瞳は全てを見透かすような子供のように真っ直ぐだった。
「本当はさ、女が怖いんじゃないの」
「違うよ」
 そう言うとますます黒色は深くなった。どんなに嘘を張り巡らそうとも、どんなに甘い言葉をかけようとも決してその瞳が動くことはないだろう、そう思うと嘘を吐くのが途端に馬鹿らしくなりそしてもう、ああこの女にはどんな嘘も通じないなと直感で分かった。
「本当のこと言っていいんだよ」
「怖いよ」
「やっぱり」
「気付いてたの」
「分かるよ、それくらい」
「そうか」
 愛子の口調には人を馬鹿にしたり見下したりするような胸の底からむかむかしてくるような不快感はなく、優しく守る温かみがあった。
「昔色々あったんだ」
「話したくない?」
「ああ。複雑なんだ」
「そっか」
 そう言うと再び沈黙が訪れた。ただ暖房の音だけが静かに聞こえてきた。すると急に愛子が僕の太股を撫で始めた。その柔らかい感触は否応なく僕にあの日のことを思い出させた。愛子の姿があの名前も知らない女の子と重なった。気付くと僕は愛子から距離をとっていた。するとすぐに近付いてきた。
「ごめんね、やっぱり駄目?」
「……かもしれない」
 それでも愛子は僕の太股を撫でてきた。
「どうしたんだ急に」
「何か急にね」
 そうやって撫でられていくうちに、恐怖感よりもあの夜越えられなかった一線を越えてみたいという衝動に駆られた。どうしたというのだろう一体。以前の僕はこんなことはまるでなかった。恐怖に駆られて女の子を蹴ってしまった僕だとは自分自身とても思えなかった。何だろう僕はここまで他人を求めていたのだろうか。
 撫でられていく内に徐々にあの日の出来事は薄らいでいき代わりに純粋な性欲が湧きあがってきた。獣じみてはいたがそれでも暴力よりは幾分かはマシだろう。気付くと僕は愛子に身体を預けていた。
「怖かったんだ」
「大丈夫だよ」
 そう言うと今度は頭を撫でた。その手は穢れを知らない美しい鳥の羽のように柔らかく性欲と同時に純粋な少年が抱く母性のようなものを求めていた。
 するとその手は股間に伸び優しく時に激しく撫でた。緩急を点けた愛撫は身体を熱くしその熱は逸物へと真っ直ぐに伸び即座に勃起した。ズボンの中で暴れるそれは行き場を求めていた。愛子の顔は物を知らない少女のような、それでいて大人の持ついくらか理屈めいた優しさがあった。その顔は僕があの日必死になって救いを求めていた聖母マリアより美しかった。
 ズボンを下ろすと鉱物のように固くなったそれが露わになった。一瞬羞恥心が身体中に駆け巡ったがそれを感じて間もなく愛子は手で愛撫し始めた。それまで僕はAVやエロ本といったものを全く読んだことがなく、正真正銘どうしようもない童貞だったのにも関わらずこの先どうすればいいのかがはっきりと分かっていた。愛子が手を離し顔をじっと見つめてきたその時僕は愛子を押し倒し服を乱暴に脱がした。あれほど女に恐怖を感じていた僕がこんな行動を取るなんて自分でも信じられなかったけれど、ここ最近きっと何かが僕の中で起こっているんだろう、無性に他人が欲しくなっていた。
 初めて触れる女の肌は男の肌のようなごわついた感じもいくらかあるものの基本的には滑らかでその感触に恥ずかしながら少し感動を覚えてしまった。
 乳房と股間を優しく撫でると愛子の顔は今までに見たことがないくらいに恍惚とした表情になりその先を求めてきた。もう頭ではなかった。身体に従ってただひたすらに愛子と交わった。暖房の熱と身体を動かすことによって発生する熱とによって、冬だというのに身体中からは真夏の昼間にかくようなねっとりとした汗が噴き出てきた。
 しばらくすると今度は愛子が僕の物を口に含んできた。手で撫でられるのとは全く別種の快感に身体中に電流が走った。耐えきれなくなり僕は愛子の顔面に白濁をぶちまけた。その液体は普段想像による自慰によって放出されたものと違い、濃く生臭く生命が絶えず生き死にを繰り返しているかのように感じられた。
「ごめん」
「いいよ別に」
 特に気にするでもなく愛子は白濁を手で拭き取った。少し時間が経ったにも関わらずその濃厚な匂いが鼻をついた。
「初めてだったんでしょ」
「ああ」
「気持ちよかった?」
 黙って頷いた。愛子は優しそうにほほ笑んだ。
「ごめんね。何だろう急に一樹のこと愛しくなっちゃって。怖かったでしょ」
「うん。でも途中からそういうのなくなったよ」
 完全になくなったわけではなかった。しかし女というものに対する恐怖心が薄くなったのは確かだし、初めて誰かと暴力以外の何かで繋がることが出来たという実感を感じることは出来た。
 ものの十数分の出来事なのにまるで何時間も経過したかのように感じられひどく疲れてしまった。
 しかしこの出来事は明らかに悪事だった。僕は直樹の知らないところで直樹を裏切ってしまったのだ。目を閉じるとただひたすらに後悔の気持だけが浮かび上がってきた。僕は直樹に徹底的に打たれるべきだろう。しかしそれでも初めて他人と暴力以外の何かで繋がれたのだと思うと、たとえその行為が裏切りであるとしても完全に許してもらいたいという自分勝手な欲望が湧きあがってきてやはり言うのはやめておこうと決意した。

 どれくらいの時間が経ったのだろう。目を覚ますとそこには直樹がいた。寝ぼけ眼に映る直樹の顔は僕に対する軽蔑と憎悪が露わになっていて、ああこのまま徹底的に痛めつけられるのだろうと覚悟していたのだが、目がちゃんと開き靄が取れるとその顔はいつも見る無邪気な直樹の顔だった。
「目、覚めた?」
「ああ」
「晩御飯あるけど食べる」
「もらうよ。どこ行ってたんだ」
「適当にぶらついてた」
 そう答える直樹の右手にはかすり傷があった。
 テーブルに並べられたコンビニ弁当はセックスで体力を使い果たしたからだろうかとても美味そうに見えた。しかしその強烈なにおいに負けず僕の手からは先程の生命の匂いが漂ってきた。やはりどんな甘美な匂いもあの生命の匂いには勝てないのだと思った。
 目の前にあった安物のコンビニ弁当を僕は貪るようにして食べた。今まで嫌悪していた濃く人工的な味は口を胃を満たした。

 目を開けるとそこは養護施設だった。校庭を見てみるとそこでは子供達が無邪気に遊んでいた。その中に包丁を持って寂しげな顔をしている男の子が二人いた。僕と直樹だった。窓を開け二人に駆け寄ろうとすると途端に夜になった。するとそこには誰もいなくなり僕一人だけがぽつんと暗闇に立っていた。
 諦めて部屋に戻るとそこには背の高い顔のない女性が立っていた。僕はその女性があの時の女の子だとすぐに分かった。
 その人は何も言わず僕に駆け寄り押し倒した。
「欲しかったんでしょ」
 その言葉には鎖のような強制力があり僕は素直に従った。
 女性が僕のズボンを下ろし股間を見ようとしたそのときに一気に現実に引き戻された。
 こんな夢は初めてだった。たった一回のセックスで僕はこんなにも求めてしまうほどに弱かったのだろうか。何だか情けないような、それでいて男としての本能に目覚めた誇らしさのようなものも同時に心の中にあった。しかしそれでも他者を痛みを与えたい与えられたいという欲求の方がまだ強かった。どちらも同じ動物的な欲求なのにこんなにも違うのはやはり何か僕の想像を超えた存在がそう運命づけているのだとして思えなかった。
 どこからか猫の鳴き声が聞こえてきた。

 直樹の顔はいつもと違い真剣だった。
「何だ話って」
「…………」
「黙るなよ」
「一緒に殺さないか?」
 小声でそう言う直樹の声は微かだが震えていた。
「殺すって誰を」
「あいつらを」
「あいつらって誰だよ」
「あいつらだよ。俺達を生んだあいつら」
 語気が荒くなりその顔は今まで見たことがないくらいに必死で目は血走っていた。
「殺してどうなるんだ」
「分かってるよ。どうにもならないってことくらい。でもそうしないと、そうしないと俺達」
「殺しなんかしたら俺達は堕ちるところまで堕ちるだけだぞ」
 偉そうに説教を垂れていたが事実あの二人を殺したいという思いは強烈にあった。あの二人さえいなければ僕達はもっと、きっと人並みの幸せを味わうことは出来たのかもしれないのだから。それでもあの二人を殺す気にはならなかった。屑同然のあの二人を殺したところで事態は何も変わりはしないからだ。
「兄貴は憎くないのかよ。あいつらさえいなければ、きっと俺達」
「分かってるよ。でもな、殺したところで俺達はどこに行きつくんだ。永遠に彷徨うだけだぞ」
「…………」
 沈黙が流れた。外ではぽつぽつと小雨が降り始めていた。



 今年の寒さはどうやら長引くらしく四月の終わりになったというのにまだ寒さが残っていた。住んでいる街自体が山間部に近いというせいもあるのだろうがそれを差し引いてもとても春先とは思えない寒さだった。街を歩く人々はまだ分厚いコートを羽織っていた。
 あと一月半ほどで十九になるというのに状況は何一つ変わっていなかった。直樹はチンピラに絡み喧嘩をし、僕は孤独に耐えながら破壊衝動を必死に抑えていた。
 そんなときに僕の目の前に現れたのが僕がまともな会話を出来る数少ない人の内の一人本町神父だった。

 久しぶりに会う神父は時の経過のせいなのか、精神的なストレスによるものなのかは分からなかったが白髪が増え、皺が増え以前よりも貧弱になったような気がした。その代わりに以前よりも表情錠が柔和になったというより前以上に優しさのようなものが滲み出ていた。
 正直に言うとこんな何もない部屋に入れるのは悪いとは思っていたが神父がここで問題ないと言うのでここにした。
 こんな寂れた部屋に不釣り合いなほどに神父は何か光明のような物を帯びている感じがした。
「久しぶり」
「久しぶりですね。どうしたんですか、急に」
「何となくな」
「何となくじゃ来ないでしょ」
「気になったんだよ。中々の問題児だったからなお前ら双子は」
「見ての通りですよ。一応まともな仕事にありつけて、屑みたいだけどなんとかやっていってますよ」
「立派じゃないか」
「どこが」
「立派だよ。世の中には働かずに寝てばっかの屑もいるんだ」
「そうですかね。何か役に立ってるんですかね。僕は」
「そんなに卑下するなよ」
「でもよく分かりましたね。なるべく目立たないようにしてたんですけど」
「分かるよ。それくらい。世の中便利になったもんだよ」
「直樹の所には行ったんですか」
「行ったよ。でもいきなり殴られたよ」
「そうですか。すいません」
「謝るなよ。別にお前が悪いんじゃないだろ」
「でも」
「いいんだよ。予想してたから」
 そう言う神父の顔は少し寂しそうだった。
 昔からそうなのだがこの人を見るといらついてきた。僕達のような欠陥品に真摯に向き合うその様は正直言って滑稽だった。しかしそれは演技でもなんでもないということが幼なながらに分かっていたので、僕達が持てるはずのないその純粋な熱意みたいなものが余計にいらつかせた。見た目こそ変わりはしたものの中身は変わらないままだった。
 限界だった。何だというのだろう。僕の心は崩れかけてた。心の中で祈り続けた。誰か助けてくれと。
「でも本当にどうしたんですか。ただ気になったっていうだけじゃ来ないでしょ」
「いや本当に気になっただけなんだ。でもこうして立派にやってけるのみて安心したよ」
「ありがとうございます」
 全然立派なんかじゃなかった。盗みを繰り返し他人と繋がりを持ちたい、安心したい、という目的に他者に暴力を振るう僕は死ぬべきだろう。でも心のどこかでは救いを正確に言えば赦しを求めていた。こんな僕でもだ。
 僕は告白すべきだろうか。過去を、現在を。しかし同時にそんなことをしたところで何になるのだろうとも思った。ただ言っただけで何かが変わるなんてことはありえないと経験で知っているのに。でももしかしたら何かが変わるかもしれない。本当に小さい目に見えないくらい小さいかもしれないかもしれないけど、何かが変わるかもしれない。そんな濡れた砂糖菓子のように脆い希望が心の片隅にあった。
「こうしてちゃんとやってるの見て安心したよ」
 立ち上がろうとする神父の裾を引っ張っていた。
「どうした」
「いえ、ただ……」
 決意した。何もかもを言うべきだろう。不可視の神は自分を救ってはくれない。だったら自分で自分を救うべきなんじゃないのか。
「聞いてほしいことがあるんです」
「何だ」
「昔と今について」
「いいよ。て言ってもお前ら何してたかは大体分かってるよ」
「そうですか。だとしたら僕達の行為は許されるんですか。僕はあの時必死になって神に祈ってました。でも事態は何も変わらなかった。だから諦めたんです。でも今になって、本当に一人になってみてただまともになりたいんです。暴力なんて使いたくないんです。ただ誰かと普通に、普通になりたいんです」
「そうか。でもお前は充分だよ」
「違うんです。黙ってると何かを壊したくなって仕方ないんです。だから昔施設を抜けて直樹と見ず知らずの大人に暴力を今でもしてたんです。僕達はこんな僕達でも赦されたいんです」
「大丈夫だよ。お前らならいつだって大丈夫だよ」
 それだけ言われると何かが弾けたような気がした。誰にも言うことが出来なかったのに今更になってこんなことを言えるのはきっと僕が死ぬほど他人を求めていたからだろうか、孤独な生活、愛子とのセックスそれらが重なり合って僕の精神はきっと自分の知らないところに言ってしまったのだろう。もしかしたら僕の中の魔物はもう消え去ってしまったのではないかとそう感じさせるほどに。何かが変わったわけではない。しかし初めて他人に自分の抱えているものを語ることが出来た。決して赦されたわけではない。しかしやっとまともに立ちあがることが出来たんじゃないかと思った。
 ふと気付くと夕焼けが部屋に差し込んでいた。

 人と人は日々身体をすれ違いながら生きている。たまに思い切りぶつけることもあるけど大抵は謝れな何とかなる。しかし見ず知らずの他人と身体はすれ違っても心まではすれ違うことはない。もしそんなことが起きたらきっと人間の魂は徐々に小さくなっていきやがて消滅してしまう。だからこそ神は心というものを見えないところに創ったのではないだろうか。そして一番身近な人間とだけすれ違えることが出来るようにたまに見えないけれど本人の力次第で露出させることが出来るように工夫もしたんじゃないだろうか。
 しかし僕は一番身近な人間とも心をすれ違わせることが出来なかった。あの時僕は止めるべきだったんだ。もっと真剣にもがき苦しみ直樹と同じ気持ちになるべきだった。そうすれば最悪は免れたはずだ。しかしどんなに後悔してももう遅かった。
 その事件を知ったのは夕方のニュースだった。
 都内某所で竹森順平と竹森恵子夫妻が何者かによって殺害されたというものだった。しかも犯人は丁寧に何カ所も何カ所も刺していたということだ。
 僕には全てが分かっていた。そして自分で片をつけなければいけない。自体が直樹がもっと最悪の方向に行く前に。

 愛子は泣きじゃくっていた。今までに聞いたことがないくらいに低く悲しげに。
 近付き肩を撫でると頬を叩かれた。今まで感じたことがないくらいに重かった。
「……ごめん」
「いいんだ」
 愛子をきつく抱き締めた。
「行ってくる」
 そう言って部屋を後にした。

 一体何処を逃げ纏っていたのだろう。部屋に直樹がいた。その顔からは生気を感じることは出来なかった。そしてそんな直樹を見ていると一種諦めに近い感情も湧いてきた。結局僕達はどんなに必死にもがいても、浄化しようとも、また同じ場所に行きつくのではないかと。そういう運命の元に生まれてきたのではないだろうかと。
「なあ信じられるか。あいつらさ真面目に働いてたんだよ。一生懸命さ。言い訳にしか聞こえないだろうけどさ、まだ屑みたいになってたらきっと殺さなかったと思うんだ。でも真面目に働いてるってどういうことなんだろうな。もうわけが分からなくなったよ。それでいざあいつらの前に現れたら必死になって謝ったんだ。俺結構大きい包丁持ってたのに命乞いなんてしないでひたすらに謝ってきたんだよ。それ見てたらさ何か何もかもどうでもよくなって、気付いたら刺してたんだ」
 誰に語るでもないその温度を持たない独白は寂れた僕の部屋と心に音もなく沈んでいった。
 直樹が僕のことを思い切り殴り飛ばした。倒れる僕に思い切り蹴りを入れてきた。その顔は狂気と悲しみが混じった今まで見たことがないようなものだった。
 僕に抵抗する権利はない。直樹と一緒に苦しまなかった僕に抵抗する権利などないのだ。ただ受け痛みに耐えるだけ。それが僕に唯一出来る償いだった。やがて力尽きたのか蹴りを止め宙を眺めた。
 数十発の蹴りとその直樹の顔を見ていると破壊衝動と同時にある思いが芽生えてきた。全てをここで終わらせなければいけないと。僕達はあの時の猫だったんだ。決して変わることのない運命を諦観したり変えようと必死にもがいて抵抗したあの時の猫。どんなに浄化されようともまた同じ場所に戻ってしまうのだ。
 気付くと僕は直樹のことを蹴っていた。
 それに抵抗して直樹も殴った。
 僕達は本能のままに殴り合った。己の破壊衝動を発散させるため。やり場のないこの思いを爆発させるために。
 気付くと僕と直樹の頬に温い物が伝った。
 部屋を出る時どこからか猫の鳴き声が聞こえてきたような気がした。



 結局私に出来たのはなんだったのだろう。あの二人をただ見ていることしか出来なかった。
 施設であの捨て猫のような二人を見ていて、なんとしても助けてあげたいとそう本気で思っていた。でも出来なかった。そして月日が経ち直樹に出会えた。でも私の声はあの二人に届くことはなく事態は最悪の方向へと向かった。
 その事件を知ったのは警察が家に来てからだった。
 都内で三十代の夫婦が殺害されその犯人と思われる二人組の男が自殺していたということだった。
 最初は信じられなかった。でも事実だった。
 何故だろう。ただあの二人は人と普通に接していたいだけだったのにそれなのに何でこんなことになってしまったんだろう。
 二人が出した結論がこれだったのだろうか。自分を殺すことによって全てを終わらせる。だとしたらあまりにも残酷ではないだろうか。そんな道しか与えてくれなかった人達や救えなかった人間をもっと罰するべきなのではないだろうか。そして安易な気持ちであの二人に接してしまった私も平等に罰せられるべきではないのだろうか。
 色々な思いが錯綜し、気付くと雨が降る街を一人歩いていた。
 そういえば明日あの二人は十九になるはずだった。もう敵わないけれど。
 どこからか猫の鳴き声がして後ろを振り向くとそこには二匹の野良猫がいた。私が駆け寄るとどこかへと走って逃げて行った。
 気がつくと誰かに電話をしていた。
「もしもし、大沢だけど。うん、うん。今日買い物でも行かない?
 え、私? 今どこにいるのかって? どこだろう。とにかくどこか行こうよ。どこか知らないところに」
 私は今一体どこにいるんだろう?
永本
2011年03月11日(金) 14時40分56秒 公開
■この作品の著作権は永本さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
初めまして永元と言います。
自分の書いた作品が初めて他人の目に触れるということもありとても緊張しています。
副業でですが本気で作家を目指そうと思い現在色々書いています。
この作品は自分のことをモデルにして書き上げました。色々考え「まず自分のことを書いてみて、書きあげることが出来たら、そこから100%想像の物語を書こう」という結論に達しました。
自分をモデルにしたと言っても私は双子ではないですし、施設育ちでもないですし、他人に暴力を振るうなんてことしたことがないのですが、虐待を受けていたというのは事実でその時の心情をこうして小説という形で表現しました。(今では両親とは和解し親子仲良くやっています。本当に幸福なことだと思っています)
是非感想・批評をお願いします。

この作品の感想をお寄せください。
No.8  らいと  評価:30点  ■2011-05-04 12:47  ID:iLigrRL.6KM
PASS 編集 削除
拝読させて頂きました。
他の方達も指摘しているように、説明が多いと思いました。そしてその説明があまり説得力がないように感じられました。というのも、主人公や主人公の弟の暴力の理由があまり深いものではなく、行動に対する説明も浅くてどうにも納得のできる話ではありませんでした。もう少し、人間の動機や行動に対する深い説明があったら、この作品はおもしろくなったと思います。
拙い感想失礼しました。
No.7  永本  評価:0点  ■2011-03-24 03:12  ID:l0JpXo/GvK6
PASS 編集 削除
>>ねじさん
感想ありがとうございます。
細かい指摘ありがとうございます。こうして丁寧に批評してもらえるとこの作品をしっかりと読んでもらえたのだと嬉しいのと、ああやはり自分は全然未熟なのだと痛感します。
この作品の欠点を完璧に指摘し、さらにアドバイスまで戴き作者冥利に尽きるとはこのことです。確かに読み直してみると自分の作品ですが読後感が全く得られないことに気付きましたし、変に削ってしまったせいでスカスカの物語になってしまったなと思いました。直樹、一樹との向き合い方が全然足りないし、この二人を人間として描けておらず反省するばかりです。しかし思いなおしてみると何故削ったのだろうと自分でも不思議に思うばかりです。長編のまま投稿したほうが良かったかもしれません…

>>小説としてきちんとした骨格をもった作品だと思います
ありがとうございます。それが出来ただけでも良かったです。書いているときは夢中でそれが出来ているかどうか、肉付けが出来ているかどうか(この作品ではそれは出来ていませんでしたが)もうあやふやだったのでそう言っていただけて、ああとりあえず骨は出来ているのだとほっとしました。
現在二本長編を執筆しています。次回作はこの作品の失敗を活かし、もっと人間というものを描きたいと思っています。
感想ありがとうございました。
No.6  ねじ  評価:30点  ■2011-03-23 00:47  ID:2bPxoi6yunY
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読みました。

個人的にはあまり感情移入できなかったです。
他の方も指摘していることですが、細部の描写があまりなく、説明で済まされているために、具体的なイメージがなかなか沸いてきませんでした。特に屠殺のシーンは主人公たちの暴力性を再び覚醒させるシーンなので、ここは詳しく描写がほしいなと思いました。
この小説は一場面を切り取ったものではなく、主人公たちの魂の変遷の物語なので、もしかしたら当初の枚数である250枚ぐらいは必要なのかもしれない、と思います。直樹が一体何を思い両親に会いに行ったのか感じ取れなかったり、愛子と直樹のつながりも、一体どんなものだったのかよくわからない。私はそういう部分をこそ、読みたいと思います。彼らが具体的に何を食べ、何を見、どんなふうに眠り、どんなふうに愛し合ったのか。そういう日常の救いを書くことで、取り返しのつかない、暖かい場所から見放されてしまった猫としての主人公たちのラストがより活きてくるように思います。
口幅ったいことを言ってしまいましたが、肉付きは足りなく感じましたが、小説としてきちんとした骨格を持った作品だと思いますし、直樹の語る動機の不思議なリアリティには驚きました。復讐の動機をこういうふうに書くことができる方は、なかなかいないと思います。次の作品があれば、ぜひ読んでみたいです。楽しみにさせていただきます。
No.5  永本  評価:0点  ■2011-03-21 12:55  ID:l0JpXo/GvK6
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>>ゆうすけさん
感想ありがとうございます。
この作品と向き合い、直樹と一樹というキャラに向き合ってみるとこの作品はハッピーエンドで終わらせるより、バッドエンドで終わらせたほうがよいのではないか、むしろそのほうが下手な救済より救われるのではないかと思いこの作品は「救済なき物語」にしました。
台詞に関しては全くもってその通りだと思い反省しています。元々脚本家を目指していたので、どうしても台詞に無駄を排除しなるべく自然な会話を目指したのですが失敗してしまったようです。今一度小説の文法を学びなおしたいと思います。
ラストは愛子の独白だったのですがやはり分かりにくかったでしょうか。これで締めることによって作品の虚無感や救いのなさを前面に押し出したかったのですがやはり失敗してしまったようです。
感想ありがとうございました。
No.4  ゆうすけ  評価:40点  ■2011-03-20 15:08  ID:4Hh/JuyXG06
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拝読させていただきました。

熱意、この作品に込めた熱い想いが伝わってきました。これでもか、これでもかという主人公の記憶の述懐が壮絶であり、ぐいぐい引き込まれました。
結局悲劇で終わってしまい、一切の救済がない、これがこの作品の本筋だとは思いますが、どこかに救いがあった方がいいかな、これは好みの問題ですね。

会話が続く所が会話のみの連続になっておりますが、淡々としすぎていると思います。誰がどういう感じで喋ったか、分かりやすく描写した方がより多くの人に受け入れらると感じました。
ラストは、神父さんの独白でしょうか? この部分の意味が分かりませんでした。
捨て猫がテーマとしてありますね。殺してしまった猫と自分を重ね合わせる部分、秀逸であると思います。

自分をモデルにしたとのこと、虐待と向き合い、そして乗り越えているのですね。

私も、悲しい記憶、切ない記憶、それらを題材に書くことが多いです。過去の切ない思い出を、笑いにして昇華するのが私は好きなのです。
ではまた。
No.3  永本  評価:0点  ■2011-03-17 14:58  ID:p5LYep6bafE
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この非常時に感想本当にありがとうございます。

>>鮎鹿ほたるさん
「魂のようなものがにじみでる」そう言ってもらえるとこの作品を書いて本当に良かったと思います。
『不夜城』はまだ読んだことがなくなんとも言えないのですが、今度必ず読みます。
傑作、是非書いてみたいものです。多分相当な時間がかかると思いますが、頑張ります。現在これ以外で長編の構想が2本ありそれらは今回のような私小説的なものではないのですが、もしかしたら「自分」というものをどこかに盛り込むかもしれません。というより微妙にでも自分というものを盛り込まないと自分は一つのものを書けないのだと思います。正直言うとどこに行き着くのかは自分にも分かりません。
蘊蓄を入れたのは意図的なもので、そうしたほうがより読者の興味を引けるのではないかと思ったのですが、確かに自分で読み返してみると「うざったいなあ…」と思いました。自分で思ったのですから読んでくださった皆様はそれ以上の物を感じてしまったと思います。気をつけていきたいと思います。
ラストは愛子の視点で事後報告的なことをして物語を締め、読後感のようなものを出したかったのですが、失敗してしまったようです。お見苦しい結果になり申し訳ありません。今後改良をしていきます。

>>zooeyさん
文体に関しては工夫をしたというより、私は古典が好きで特に日本の作品が大好きなのでそれに影響を受けてこのような文体になったのだと思います。思いますというのも変なのですが、書いてるときはそういうのを意識せずがむしゃらに書いているので自分でもよくは分からないのですが…何だか無茶苦茶ですねw
私には双子の友人が二組ほどいてその両方の弟君がお兄ちゃんのことを「兄貴」と言っていたので、もしかしたら「兄貴」って言うほうが名前で呼ぶよりも親近感みたいなものが湧くのかなと思いこの作品では直樹に一樹のことを「兄貴」と呼ばせることにしました。生の双子の貴重なご意見本当にありがとうございます。
それと純粋な疑問なのですが、傍から見ると双子というのはとても妙、というより不思議な存在で、お互い合図しているわけでもないのにどう見てもシンクロしているとしか思えない行動をとったりするのですがzooeyさんの場合はどうなのでしょうか?
ラストに関してはその通りです。そしてまんま『ノルウェイの森』を使いました。『ノルウェイの森』は大好きな作品で、特にラストのあの虚無感を表現したいなと思い、今回使いました。こちらの意図を伝えることが出来て良かったです。最初読み返したとき自分では「うわ、なんじゃこりゃ…」と思ってしまったので^^;

お二人から戴いた「描写が足りない、説明的になっている」という意見とても参考になりました。
言い訳を許してもらえれば、最初この作品は原稿用紙約250枚の長編だったのですが、最初書いたときはそういった描写をふんだんに盛り込み各シークェンス、シーンを綿密に細かく書き込んでいたのですが、読み返してみると自分で「どうにも長すぎるんじゃないか、もっと纏められるのではないか」と思い推敲し、このような悲惨な結果になってしまいました。
お二人の意見を聞くとやはり直さず長編のまま投稿したほうが良かったのかー! という後悔ばかりです。

最後に今震災や原発のことで混乱しているなか、このような意見を下さり本当にありがとうございました。
No.2  zooey  評価:40点  ■2011-03-17 12:45  ID:qEFXZgFwvsc
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初めまして、読ませていただきました。

面白かったです。特に、文体が。
冒頭を読んだだけで、その文体から迫力が感じられ、
ぐいぐいと引き込まれました。
夜中に読んだのですが(四時くらいから)、
途中でやめられなくて最後まで読んでしまいました。
すごくパワーのある作品だと思います。

文体で作品を表すのは、私がやりたいと思っていて、全然できないことなので、本当にうらやましいです。

双子を扱ってらっしゃいますが、実は私、双子です(^_^)/
で、たぶん、家庭によるのかもしれませんが、双子同士で「兄貴」とか呼ばない気がしますが……、どうなんでしょうね。
私の感覚かもしれません^_^;

あと、双子であることを不思議に感じたことも、ないんですよね。
生まれてこのかた、双子じゃなかったことがないので。
みんな双子じゃないことが不思議だったことはありますが(笑)

スミマセン、あんまり作品と関係ないですね(-_-;)
一つ一つのエピソードがそれぞれ興味深いものでした。
両親へのゆがんだ愛情は迫力がある一方で切なくもありますね。
迫力を感じるからこそ、切なさも一入です。

ただ、興味深いだけにそれぞれの描きこみが薄いというか、説明的なのが
もったいなかったです。
もっと、その場面を描きこめば、読みごたえもさらに増すし、
満足感たっぷり、おなか一杯の作品になると思います。
ラスト、良かったです。
この人は愛子ですよね? で、施設にいた少女が愛子だったんですよね。
ラストの言葉もいいと思います。
やりきれなさが、表われていました。
ヘミングウェイ的虚無を感じました。

また読ませてください。ありがとうございました。
No.1  鮎鹿ほたる  評価:30点  ■2011-03-15 20:46  ID:O7X3g8TBQcs
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こんにちは。
自分のことをモデルに書かれたそうですね。自分をモデルに書いた作品はすぐそれと分かります。作品の出来栄えに関係なく

のようなものがにじみ出ますから。
結構ハードボイルド系ですね。ハードボイルドと言うとちょっと違うかもせれませんが私は 不夜城 ってのはハードボイルド系の最高傑作だと思っています。いかがでしょうか?
永本さんは今回のような作品をいくつも書いているとその内に傑作が書けると思います。ただ、その後どこへいくのかな?ってのが気になります。えらい気の早い話ですが。私小説的なのとは別なものを平行して書いていったらいいんじゃないかと思います。
今回の作品は薀蓄が多く、薀蓄が嫌いな私には多少辛かったです。でも、薀蓄の好きな人もたくさんいます。他の人の意見を待ってみたらいいと思います。薀蓄の部分を書かずにどういうシーンを持ってきたら主人公の過去や経緯や中身を表現できるかを考えて言ったほうが読者の心にグッとくるんじゃないかと私は感じました。
あと、残念ながら最後のところの意味が分かりませんでした。
色々と言ってしましました。悪しからず。
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