恋の段階


 雲ひとつない青空。快晴。海を渡ってくる風は潮の匂いを含んでいつまでも町の上空を漂う。夜も昼も繰りかえし波に洗われる砂浜は黄金色に輝き、打ち寄せる波の音はここに住む人々の子守唄にすらなる。三両編成の電車が民家の密接した狭い線路を走り、坂の多い町のあちらこちらで、苦労して自転車をこぐ人の姿が見られる。
 私、折川なぎさがこの渚海岸町に越してきてから、半年がたとうとしていた。馴れ親しんだ友だちと泣く泣く別れなければならなかったのも、新しい学校でクラスに溶けこめず、登校拒否をする羽目になったのも、もとはと言えば父のわがままが引き起こした、この引っ越し騒動のせいだった。


「え、どういうこと?」
 夕食の席で私と母は異口同音に訊きかえした。
「だから、会社を辞めてきた」
 父がこともなげに言う。
 辞めてきた? 会社を? いつ? 誰が?
「ずっと考えていたんだ。このまま東京でこんな暮らしをしていて本当にいいのか、ってね。仕事は忙しいばっかりだし、職場の人間関係はぎすぎすしていて心休まるひまもない。家族との時間だってろくに持てない。だから俺は決めたんだ。故郷に帰って、長年の夢だった喫茶店を営もうってな」
 私は自分の耳を疑った。突然何を言いだすのかと思えば、父は頭がどうかしてしまったんじゃないだろうか。母も寝耳に水だったようで、驚きに声も出せずにいる。
「ちょ、ちょっと待ってよ。それって引っ越すってこと? 学校はどうするのよ? せっかく高校入ったのに、私に辞めろって言うの?」
「そんなの、編入すればいいじゃないか。渚海岸町にもいい高校はあるぞ。なに、なぎさなら大丈夫だよ。編入試験なんてちょちょいのちょいさ」
 そういう問題じゃない。
 父が生まれ育った渚海岸町は、本州のどこか西の方にある。父が生まれ故郷をこよなく愛しているのは知っていた。ひとり娘に町の名前をつけるくらいだから、その思いの入れようはすごい。だからって、家族に何の相談もなく勝手に会社を辞めて、片田舎の訳のわからない辺鄙な町に引っ越そうだなんて、そんな馬鹿な話、通用するわけがない。第一、母が承諾するはずがない。はずがない……と思っていたのに、その夜、父と母は夫婦でなにやら密談めいたことをし、翌朝、ふたを開けてみたら、母は上機嫌で父の決定に従うようになっていた。どうやらうまく丸めこまれたようだ。
 父も母も、私のことなど少しも考えてくれていない。私は泣いて怒った。一時は本気で家を出ようかとも思った。近所の不動産屋を何件か訪ね、アパートも見てまわった。けれど、しょせんは無理な話だった。
 高校生になったばかりの私が、たったひとりでここに残って一体何ができるというのだろう。父も母も学費とは別に生活費を仕送りするだけの余裕はないと言う。アルバイトをしたところでたかが知れている。いくら時給がいいからといって夜の仕事をする度胸は私にはなかったし、長い時間を労働に費やせば当然学業がおろそかになる。成績もさることながら、出席日数が足りなくなれば留年する可能性だって出てくる。そして、高校留年なんてしようものなら、今から私の人生お先真っ暗だ。


 そんなわけで、両親とともに私はいやいやこの町へやって来た。新たな希望に燃えている彼らとはうって変わって、私は不機嫌をそのまま絵に描いたような顔をしていたはずだ。口数が少ない。愛想も悪い。そんな私に友だちができるはずもなく、いつの間にかクラスからも孤立していた。東京からやって来た編入生に歓喜したクラスメイトも、そのうちに私をただの異邦人と見なすようになっていた。
 学校が嫌いだった。この町も、新築の家も、お洒落な父の店も、母も大嫌いだった。そして何よりも、私は父を憎んでいた。新しい学校で新しい友だちができなかった私は、いつまでも以前の学校とそこでの友だちを追い求めた。週に何通もの手紙を書き、夜遅くまで電話で話しては今の生活の愚痴をこぼす。だが、やがて彼らも離れていった。どちらがどうというわけではなく、距離と共有していない時間のせいで自然にそうなってしまったのだ。学校でも家でも、過去の想い出の中ですらひとりぼっちになった私は、なんだかとても孤独だった。周りのものと周りの人、すべてが憎かった。こんな運命を与えたからと言って、いるはずもない神様や仏様や天神様を呪ったりもした。
 こうして私は、小さな美しいこの渚海岸町での最初の三ヶ月を、自らの意地で無駄に過ごしてしまったのだった。

   *

 二階へ上がる階段の壁を叩く音が聞こえた。続いて母の声がする。
「なぎさ、聞こえる? 彩ちゃんから電話!」
 廊下に出て親子電話の受話器を取ると、クラスメイトの彩ちゃんこと森田彩子の陽気な声が耳に届いた。そのまま廊下で二十分ほど話しこむ。そこへ父が階段を上がってきた。
「じゃ、明日ね」
 そう言って私は電話を切る。自室へ引きとろうとする父と目が合った。
「明日、どこか行くのか?」
「彩ちゃんと買い物。北桜町の方まで行くんだ」
 そうか、と言って父は奥の和室へ入っていった。大人しいものだ。以前は長電話が過ぎると言ってよく怒られた。今の学校の子とうまくいかなくて、前の友だちとばかり話していた頃のことだ。
 電話にかぎらず、最近の父は前ほどガミガミと小言を言わなくなった。理由はわかっている。気のないふりをしてはいるが、私に新しい友だちができたことを喜んでいるのだ。過去にしがみつかず、今を見つめはじめた私に安心している。確かに私自身も近ごろ人間が丸くなったなと思う。ヒステリーに怒鳴ったり泣き喚いたりしなくなったし、父に恨み言をこぼすこともなくなった。それが現在を満足に過ごしている証だ。でもそれは、もしかしたら恋のせいかも知れない。


 翌日、朝早くに家を出た私は、彩ちゃんと一緒に隣町へ向かうバスに揺られながら彼のことを話した。彼というのは私たちの間で今いちばん話題になっている上級生で、名前を佐伯啓介さんという。私が初めて彼を見たのはかれこれ四ヶ月ほど前で、父や学校のことでまだ拗ねていた時期だった。
 ある日、ひとりきりで浜辺にいた私に、毛むくじゃらの大きな犬が襲いかかってきた。悲鳴をあげて砂浜を転げまわり、必死に逃げようとする私を、犬はなかなか解放してくれなかった。けれどそのうちに、犬が唸りをあげて噛みつこうとしているのではなく、尻尾を振りながらじゃれてきたのだと気づいた。よくよく見ると、大きな口から今にもよだれを垂らさんばかりにして、私の顔を舐めようとしている。その顔があんまり間抜けで可愛らしかったので、思わず私は大声で笑ってしまった。
 そこへ彼がやって来た。白いウィンドブレーカーの裾を風にはためかせ、同じように風に髪を踊らせながら爽やか少年そのままに走ってきた。手に持っていたのは犬用のリードで、彼はひどく慌てていた。彼の方からも私が犬に襲われているように見えたらしい。
「大丈夫?」
 開口一番、爽やか少年はそう言い、砂だらけになった私を助けおこしてくれた。その腕の力強かったこと。
 事情を説明すると、彼も自分の誤解を知って大笑いした。
「やっぱりそうか。こいつが人を襲うなんて、そねぇな狂暴なわけないと思ったんっちゃ。やけぇ悲鳴あげちょったし、まさかと思ってさ。こいつ、ロンっちゅうて、俺の犬やないんやけど、この辺りに親戚が住んじょって、そこの犬なんよ」
 彼は、その容姿よろしく爽やかに、本当に清々しく微笑んだ。その笑顔にドキリとしてしまった私は、その後はしどろもどろになってろくに話もできなかった。
 いくら犬になつかれたとはいえ、そこはしょせん今初めて会ったばかりの他人同士、それじゃ、なんてよそよそしい挨拶をしてそのまま別れた。あなたの名前は何ですか? 迷子の子猫を拾った犬のお巡りさんじゃあるまいし、そんな台詞を彼に言うことはできなかった。
 その後、学生服姿の彼をたまたま近所で見かけ、同じ渚東高校の上級生だと知った。学校で会えるかも知れないと考えたとき、私の登校拒否児汚名返上の闘いが始まった。
 とりあえず学校に行った。行くだけ行って、四六時中、彼のことばかり考えていた。そうすれば、ひとりで食べるお昼ご飯もつらくなかった。秘密調査の甲斐あって、数日後には佐伯啓介という名前と、小室町に住んでいるらしいことを突きとめた。小室町から来るバスが停まる渚東高校前の停留所は要チェックだ。毎日同じ時間にそのバス停で会えるとわかると、登校どころか、苦手な早起きをさえするようになった。
 われながら単純だと思う。一目惚れのうえに偶然を装った待ち伏せ。恋ってすごいかも知れない。ところが、残念ながら彼は私には全然気づいてくれなかった。日曜日の浜辺でのあんな些細な出来事など、彼にとってはとるに足らないものだったのだろう。彼は私のことなど完全に忘れているようだった。悔しいけれど、アウト・オブ・眼中というやつだ。
 そうして健気に片想いをする私に、最初に気づいて共感してくれたのが彩ちゃんだった。最初はおもしろ半分に詮索してくる好奇心旺盛な子かと思ったけれど、話してみるうちにそうではないことがわかった。私の片想いを知ったことは、話しかけるきっかけに過ぎなかったと彼女は言う。艶やかな黒髪をショートカットにしている彩ちゃんは、私のような栗色のロングヘアにずっと憧れていたそうだ。また、彩ちゃんはこうも言った。
「うちね、折川さんが転入生って紹介されたときから、ずっと目ぇつけちょったんよ。仲良くなりたいな、っていつも思っちょったん。けど、折川さん、ちいと恐かったし、東京から来たけぇ、こんな田舎者とは付き合いちょうないのかなって」
 彩ちゃんと話すようになって、初めて私はその頃の自分を反省した。片意地を張らずに周りを見てみると、私と友だちになりたいと思ってくれていた子たちが、ほかにもいたことに気づいた。そして、編入三ヶ月目にしてようやく私はクラスの輪の中に入ることができたのだった。
 窓の外を、のどかな日曜の朝の風景が流れてゆく。すいた道路、横断歩道で信号待ちをする歩行者、民家、その間から見え隠れする田畑、そして、その向こうに広がる山々。最近私は山と海に囲まれたこの小さな町が好きになりつつある。そのうえ、少しばかり父に感謝していたりもする。
 近江台三丁目の角を別のバスが曲がってきた。すれ違う一瞬に交わされる運転手同士の軽く手を上げた挨拶。不意に隣の席から彩ちゃんが囁いた。
「あのバス、小室町から来たっちゃね」
 咄嗟に私は行きすぎたバスを振りかえった。小室町の文字がかすんで見える。先輩の町から来たバス。彼が毎朝毎夕乗り降りする停留所を通りすぎ、彼がよく知っている道路を走ってきたのだろう。そう思うと、なんだか胸がドキドキした。そんな私の反応を見て彩ちゃんが笑う。そういう気持ちってわかる、と言って、再び彼女は微笑んだ。片想い同士の共感だ。
 彩ちゃんの片想いの相手は、中学校のときのクラスメイトだった。高校は別々になってしまったので、私はその人のことを知らない。でも、写真を見たことはあった。話も聞いている。だから、今は知らない人のような気がしない。
 違う学校で自分を思いつづけている女の子がいることや、その子から聞いて、会ったこともない私が彼の存在を知っていることを、その人はきっと知らない。それが切ない気がするときもあるし、おもしろいと感じるときもあった。
 北桜町の駅前の停留所でバスを降りた私たちは、そのまま商店街を気の向くままに歩いた。彩ちゃんがよく行く雑貨屋を覗いたり、私のお気に入りのカフェで軽食をとったり、ショーウィンドウを眺めたりした。そうしながらときどき学校の話をして、彩ちゃんの好きな彼のことや先輩の話をした。片想いという悲しい立場にあっても、実現させるつもりもない憧れを語るのは楽しかった。こういうのは女の子の特権だと、私は思う。
「なぎさちゃんさ、告白とか、考えたことある?」
 赤いリボンを首に巻いた熊のぬいぐるみを手に取りながら、唐突に彩ちゃんが訊いてきた。
「何、いきなり? ないよ、そんなの」
「なんで? 両想いになりたいとか思わん?」
 少しの間だけ私は考える。先輩ともっとたくさん話をしたいと思った。海岸で会ったことを覚えていてほしかったし、どこかですれ違うときには言葉を交わしたかった。もう一度あの砂浜で犬と散歩している彼が見たかったし、そこで彼に会う偶然が欲しかった。けれど、そういった些細な願いを『両想い』という言葉に置き換えてしまうと、どこか違う気がする。
 けっきょく私はその気持ちを素直に答える。
「たぶん、両想いになりたいわけじゃないと思う。それってすごく飛躍してるかも。私はただ、もうちょっとお近づきになれたらな、と思ってるだけ」
 彩ちゃんがテディーを胸に抱いて微笑む。
「彩ちゃんは? 彩ちゃんはあるの、告白したいって思うこと? やっぱり、両想いになりたいって思う?」
「ときどきっちゃけどね。学校違うからあんま会えんし、会って一緒にどっか行ったりしたいって思うのは、やっぱり両想いになりたいっていうんと同じことっちゃろ?」
 そう言って照れ笑いを浮かべた彩ちゃんは、熊のぬいぐるみを手放すのが惜しくなったようで、それをそのままレジへと持っていった。
 距離の差かも知れないな、と思う。先輩は私の存在すら知らない、まだまだとても遠い人で、彩ちゃんの好きな人は元クラスメイト。彩ちゃんの顔も名前も存在も知っているし、会えば話もできる。わかりやすく言えば、私の片想いは片想いの中でも一番ランクが低い第一段階で、彩ちゃんの恋は第二か、もしかしたら第三段階だ。片想いでも両想いでも、恋愛のランクが何段階まであるのかは、私にも謎だけれど。
 大きな紙袋を下げた彩ちゃんが戻ってきた。
「衝動買いしてしまった」
「いいじゃん。それ、かわいいよ」
「でも、またこれで今月は貧乏じゃけ。うちっていつもこうなんよ」
 さらに何か言おうとした彩ちゃんの言葉が不自然に途切れる。何かに驚いているようだ。
「どしたの?」
 あれ、と彩ちゃんが指をさす。私が振り向いて確認する前に、興奮を抑えきれない様子で再び彩ちゃんが口を開いた。
「あれ、先輩やない? そうよ、なぎさちゃん! あれ、佐伯先輩っちゃ!」
 彩ちゃんが言ったことは本当だった。振りかえると、パズル売場の辺りを佐伯先輩と数人の友だちらしき人が歩いていた。
「ラッキーやね、なぎさちゃん。こんなとこで会えるなんて、全然思うちょらんかったじゃろ? しかも日曜日に。なぎさちゃん、ぶちついちょるけ」
 『ラッキー』や『ついている』はこういうときに使う言葉だと知った。最初に会った日以来、私服の彼を見たのは今日が初めてだった。この数ヶ月の間にすっかり制服姿を見慣れてしまっていたけれど、私服姿の彼もしっかり記憶に留めていたらしいことに今気がついた。制服を着ていなくてもすぐにその姿を見つけられたし、違和感もなかった。白いウィンドブレーカーは今の季節には寒すぎる。彼は、グレーのリブ編みセーターの上に黒のダッフルコートを着ていた。こんなときに自分に気づいてほしいと思うのは、やはり両想いになりたい欲求とは違う。そんな贅沢なことではない、と思った。
 先輩と肩を組んでいた人がこちらを見た。慌てて私は目をそらす。彩ちゃんも同じ反応をした。私たちが見ていたことに気づいただろうか、と内心で焦っているところへ、不意にその集団が近づいてきた。
「君たちは、うちの学校の後輩くんっちゃな」
 先輩の肩に今も触れている人が突然そう言った。
「あ、そうなん?」
 と、別の友だちが答える。
「なんやお前、薄情っちゃな。後輩の顔ぐらい覚えちょけよ」
「あ、俺は知っちょるよ。前、体育館の前でぶつかったことあるよな?」
 さらにもうひとりの友だちが言って、彩ちゃんを見てにっこりする。
 彩ちゃんは知らないと首を振る。
「覚えてないってよ。それも冷てえ後輩じゃな」
 笑い声が交差する。
「啓ちゃん、全然知らんの?」
 啓ちゃん。佐伯先輩は友だちにそう呼ばれていた。なんだかかわいい、と私は彩ちゃんと顔を見合わせる。くすくす笑いをもらしている私たちを、彼が交互に見た。目が合った。胸が高鳴る。私は急に恥ずかしくなって、まともに顔を上げていられなかった。
「この子、見たことあるよ」
 彼が悪戯っぽく笑いながら私を指さした。
「バス停の辺りでよく会う、よな?」
 先輩の口から出たその台詞に、私は大口を開けて茫然としてしまった。今、バス停でよく会うって、そう言った? 知っていたんだ!
「なぎさちゃん、なぎさちゃん!」
 何が言いたいのかもよくわからないまま、彩ちゃんが私の名前を連呼する。小声ではあるがすっかり興奮している。私の腕を小突く彼女の指先を伝って、私の中にも興奮が流れこんできた。それでも私は必死に平静を装っていた。嬉しさよりも、ただただ恥ずかしくてたまらなかった。毎朝バス停で会うのが偶然ではなく待ち伏せだと、今にも指摘されそうな気がした。気がつくと私は、なんだか言い訳に聞こえなくもないようなことを、もごもごとつぶやいていた。
「あの、渚海岸町に住んでて……学校までは歩きで、バス停の前を通っていくんです。あのぐらいの時間だとちょうどよくて……ギリギリって好きじゃないし」
 そこまで言ってから、自分もしっかり先輩の存在を知っていたと認めてしまったことに気がついた。ますます恥ずかしくなって下を向いたとき、先輩の友だちのひとりが口を挟んだ。
「なんや、お互い毎日顔合わせちょるんなら、挨拶ぐらいすればええやろ。友だちの輪っちゅうのはそっから始まるもんやないか」
「俺もそう思ったけど」
 佐伯先輩の答えにはっとする。先輩が挨拶しようと思っていた?
「けど、この子、いっつも前ばっか見て、おっかな顔して歩いちょるんちゃ」
 途端に笑い声が爆発する。彩ちゃんも笑っていた。
「私、そんな恐い顔してました?」
「しちょる、しちょる」
 再び笑いの渦だ。ガーンとショックを受けている私をよそに、彩ちゃんも含め、皆はやけに楽しそうだ。私は、恐い顔をしているところを好きな人に見られたばかりか、その張本人にそれを指摘されて楽しいはずもない。きっと、先輩を意識するあまり、そちらを見ないようになるべくさり気なく通りすぎようとして、逆に顔が強ばってしまっていたに違いない。
 恥ずかしい。でも、先輩がそこまで私を見てくれていたなんて、感激しないこともなかった。
 けっきょくほとんど何も話せないまま彼らと別れようとしたとき、不意に先輩が声をかけてきた。なぎさちゃん、と。
 びっくりした。どうして名前を知っているの? その問いがそのまま顔に出てしまったようで、佐伯先輩は決まりが悪そうに少し笑った。あの子がそう呼んでたから、と彩ちゃんを指さす。一瞬でも都合のいい期待をしてしまったことで、顔から火が出そうなほど恥ずかしかった。それから、そんな反応をした自分を呪った。というのも、確かに何かを言おうとしていた先輩の気を変えてしまったようだったからだ。
 またね、と彼は言った。本当は何を言うつもりでいたのか、もう一生わからないかも知れない。そう思うと残念でならなかった。


 翌朝、いつもの時間にバス停で彼に会い、今度こそきちんと挨拶できるものと思っていたのに、先輩はいつまでたっても姿を見せなかった。がっくりと肩を落として登校したその日の昼休み、彩ちゃんがものすごい勢いで走ってきて、佐伯先輩は今日は風邪で休んでいるらしいと教えてくれた。情報源は昨日会った先輩の友だちのひとり、大島先輩という人だった。
「昨日はあんなに元気やったのにね。でもあのあと、ボーリングとカラオケ行って、夜中まで騒いでたんやて。大島先輩たちは、本当は風邪やない、ただの寝坊っちゃって言っちょるけど。ねえ、お見舞い行ってみたら、なぎさちゃん」
「無理だよ、そんなの」
「あ、やっぱし? まあ、元気出しっちゃ。本当にただの寝坊やったら、明日はちゃんと来るよって。朝また会えるやない」
 本当は私の方が時間を変えてでも彼を避けたかった。昨日の今日で会うのがとても恥ずかしかったからだ。別に何があったわけでもないけれど、別れ際のあのやりとりだけは抹殺してしまいたかった。でも、昨日の今日だからこそ避けるわけにはいかなくて、勇気をふるい起こして登校してきた。せっかくの勇気が報われなかったことももちろんだけど、それよりも、先輩が私を避けているように思えて気分が滅入った。
 先輩は私の気持ちに気づいてしまったのではないだろうか。それで私に会いたくないのではないだろうか。そんなことを考えながら憂鬱な一日が終わる。会えるはずのなかった日曜日に思いがけず会えても、これではまったく意味がない。


 その日の夕方、沈んだ気持ちを抱えながら浜辺をぶらついていたとき、突然背後から誰か、あるいは何かに体当たりされて私は前へと倒れこんだ。今も背中に乗っているそれが何なのかを悟るまで、そう時間はかからなかった。
 犬だ。あの日、先輩が連れていた毛むくじゃらの大きな犬。私を見ると襲いかかりたい衝動にでもかられるのだろうか、その犬ははしゃいで人の背中を踏みつけたまま、一向にどこうとしない。もしかしたら先輩がいるのではないだろうか、というわずかな期待が脳裏をかすめたが、彼が風邪で寝こんでいることを思いだし、慌ててその考えを振りはらう。ということは、先輩の親戚に違いない。どちらにしてもこの恥ずかしい姿を見せるわけにはいかない。だが、起きあがろうとするたびに犬がその邪魔をした。
「ロン、ロン! やめろ、やめろって!」
 その声にドキリとする。先輩だ! 体勢を立てなおそうとする努力も虚しく、私は砂に顔を埋めた。どうしてこう変なところばかり見られてしまうのだろう。いっそのこと私に気づかずに通りすぎてくれればいい。
「大丈夫?」
 やっとのことで犬をどかした先輩が訊ねてくる。
「大丈夫です」
 辺りが暗くなっていたことに感謝し、ほとんど砂に顔を埋めたまま私は答えた。
「起きれる?」
「大丈夫です」
 再びぶっきらぼうに返事をする。早く行ってしまって下さいと言わんばかりの態度だ。だが先輩は少しも気にしていないようだ。それどころか隣に座りこんで上から私を覗きこみ、なおも心配そうに続けた。
「手ぇ貸そうか?」
「大丈夫ですって」
 口に砂が入りそうだ。
「ごめんな。こいつ、本当になぎさちゃんが好きみたいで」
 がばり、と突然私は起きあがる。それに驚いて先輩が後ろによろけた。
「びっくりすんなぁ。何なん、いきなり起きるなよ」
 そう言ってからふと気づき、彼は手を伸ばして私の頭と顔についた砂を払った。頬に触れた彼の手が温かかった。
「いつから私だってわかってたんですか?」
 何を聞かれているかわからないというように先輩が眉をひそめたので、もう一度私は同じことを訊いた。
「いつからって、最初からわかっちょったよ。なぎさちゃんがおるって思ったら、こいつが急に走りだしたんっちゃ。なに、なぎさちゃんは俺って知っててシカトこくつもりやったん?」
「だって……」
 犬にどつかれてみっともなく倒れたうえに、こんな砂だらけになったとこ見られたくなかったから。そう早口にまくしたててから、急にまた恥ずかしくなって黙りこんだ。すると先輩が突然大声で笑いだした。恥ずかしがることないっちゃろ、もとはと言えば、みんなこいつが悪いんやけぇ、と隣で嬉しそうに舌を垂らしているロンを示す。それに、と彼は続けた。
「それに、俺はけっこうなぎさちゃんのことを知っちょるけぇ、今さらこげえなことでは驚かんのじゃ」
 今度は私が眉をひそめる番だった。そんな私を見て、先輩は決まり悪そうに下を向いて、手にすくった砂をもてあそびながらその言葉の意味するところを説明しはじめた。
 それは、私が想像もしていなかった話だった。
「つまり俺は、前にここでなぎさちゃんに会う前から、なぎさちゃんのことを知っちょって。いや、会ったのはあれが初めてやったけど、お父さんから聞いちょったけぇ。ほら、あそこの喫茶店、俺、よく行くんちゃ。あのマスターって、なぎさちゃんのお父さんやろ?」
 先輩はこの半年の間に父が営む喫茶店の常連客になっていたという。父が淹れるコーヒーが好きで、ことあるごとに通っていた。娘と同じ年頃の若者と、父がどのようにして仲良くなったのか見当もつかなかったけれど、気がつけば話題は私のことばかりだったらしい。
 小さい頃はお父さん子だったのに、ここに越してきてから口もきいてくれないとか、前の学校の友だちと別れるのか嫌で大泣きしたとか、こっちの学校で馴染めず、お父さんのことをものすごく怒っているとか、そんな話だ。
「そういうことをいろいろ聞いちょったけぇ、なんか知らん子って気がせんで。それで前にここで会ったときも、ああ、この子がなぎさちゃんやなって、すぐわかったんっちゃ。標準語やったし」
 それから、とさらに先輩は続ける。
 その後、学校やバス停でよく私を見かけるようになって、いつも気を張った顔して歩いているけれど、彩ちゃんやほかの友だちと一緒にいるときはよく笑っているので、今はけっこう楽しくやっているのだなと喜んでくれていたのだとか。
「昨日も大島が声かける前から、俺はなぎさちゃんに気づいちょったんよ。その、日曜日に会えるなんてぶりラッキーとか思って。んで、今日は公然と声かけられる予定やったのに寝坊して起きれんで、せっかく昨日会ってもこれじゃあ意味ないやん、と自分に腹を立ちょったりもして……」
 照れくさそうにそう語る先輩の優しい声を聞きながら、知らず涙が頬を伝い落ちていた。
 今日は一生忘れられない日になるだろう。私の恋愛は今、第一段階から大きく前進して階段を一気に昇っている。今なお恋愛が何段階あるのかはわからない。でも、それは数かぎりなく続いているような気がした。なぜなら、今のこの跳躍が一段や二段のことでないのはもちろんのこと、十段ですら足りないように感じていたからだ。それとも、やっぱり恋愛に段階などないのだろうか。
 佐伯先輩、私も同じことを思っていました。私が歩きだせたのは、本当は先輩のおかげなんですよ。
 そう言おうと思ったけれど、言葉は声にならなかった。

   *

「いらっしゃいませ」
 チリリン、という音に反応して私はドアを振りかえった。
「ただいま」
 大きなボストンバッグを提げた夫が立っていた。東京の大学に進んだ娘が夏休みで帰ってくるというので、車で駅まで迎えにいっていたのだ。
 彼の後ろから、ひょこりと顔を覗かせた娘の美砂は、半年会わないうちにまた少し大人びたようで、きらきら光る淡いピンクの口紅なんてつけて、まるで雑誌から抜けでてきたモデルみたいだ。
「ただいま、お母さん」
「おかえり」
 美砂は店に入ってくるなりカウンターのスツールに腰をおろし、自分の荷物を運んでくれている父親にはおかまいなしに、サービスで置いてあるチョコレートボンボンをつまんだ。こういうところが、まだまだ子どもだなと思う。逆に少し、ほっとする一面でもある。
「お腹すいちょらん? 何か食べる?」
「おじいちゃん秘伝のコーヒーが先っちゃよ」
 はいはい、とカップを用意している間に美砂は携帯電話を取りだし、メールを打ちはじめた。
「誰にメール?」
「真ちゃん。着いたらメールするっちゅうとったけぇ」
 離れた場所にいる彼氏に帰省報告メールとは、便利な世の中になったものだ。
「啓ちゃんも飲むやろ、コーヒー?」
 クーラーの前で涼んでいる夫に声をかける。
 彼は振りむき、満面の笑みで答えた。
「うん、飲む」
 あの日から数えて今日で一万日目。私は今も恋の段階を数えつづけている。
lico
2011年01月12日(水) 05時09分31秒 公開
■この作品の著作権はlicoさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
 思うところあって、大昔の自作をリライトしてみました。この恥ずかしさをどうか広いお心で笑ってやってください。
 こんなことをしているから新作が進まないのか、新作が進まないから現実逃避しているのか。次回はもっとちゃんとしたものを投稿できるように頑張りたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。

この作品の感想をお寄せください。
No.10  lico  評価:--点  ■2011-01-18 01:26  ID:YWND3YBhwp6
PASS 編集 削除
>お さま

 いつもありがとうございます。そろそろ頭のてっぺんまで埋まっている頃ですので、地中からこっそりレスを。まあものの見事に失策をやらかしたもんです。おさんにはことごとくお気に召していただけなかったようで、好みに合わないと言われてしまうと「そっか、残念だなぁ」と思うよりなく、でも何気に自分の好みにも合っていないので、その辺で愛の薄さが出てしまったのかもと思わなくもなく、いずれにせよ、次はもうちょっと頑張りたいなとマジで力が入りました。恥をさらしつつも、いろいろとご意見をいただけるのはやはりよい刺激になります。ひとりで悶々としているだけでは駄目だなぁと。

 ぶっちゃけライトノベルと呼ばれるものはおそらくほとんど読んだことがないので、どういうのがラノベなのかよくわからんのですが、とりあえず「雲ひとつない青空」はNGってことで、なんとなく納得。あまり考えていなかったように思います。そういえば、今書きかけのものにも似たような表現が出てきていたなと慌てて修正しちゃいました。本作が何について書かれているかといえば、いやもう、これはまったくまずったなと反省を通りこして逃避するほかなく、ほかの方へのレスでも言い訳しておりますが、どうにも入り方をミスりました。本人は「恋の話、もうそれだけ!」のつもりで書いていましたので、家族ネタや学校もしくは友人ネタを置き去りにしているという感覚すらありませんでした(汗)。ついでに彩ちゃんの恋の話もすっかり忘れていました(大汗)。浅はかですね、はい。逃避せずにちゃんと反省します。

 さて演出。これは大事ですね。個人的には読者を煽るような、作者の意図が透けて見えるような過剰な演出は好きではありませんが、演出が重要という認識はもちろんあります。私の場合、普段はわりと感覚まかせなところが多いです。でも、本作では実はまったく考えていなかったことに今さらながら気づかされました。すでに筋が定まっていたこともあり、なるべくそこから外れないように、壊さないように、とそればかり考えていたような気がします。確かに、彼に出会ったシーンはもっと盛りあげてしかるべきだったし、紆余曲折もそうですね。仰るとおり、これでは恋愛ものともいえません。あ〜あ、お恥ずかしいったらありゃしない(本城慎太郎風)。

 でも、いちばん恥じ入るべきは、私自身の姿勢かなと思いました。いろいろと思うところはあったのだけれど、リライトというものをすごく安易に考えてしまった。正直、書いていてもあまりのめりこめず、どこか遠くから眺めているような気分でした。実際には尺はあまり問題ではなく、単に私がもともとそこまで書き込むつもりがなかったというだけなのかも知れません。これはもう猛省ですね。というわけで、せっかく読んでくださったのに、こんなものですみませんでした。ご意見、大変参考になりました。どうもありがとうございました。
No.9  お  評価:30点  ■2011-01-17 19:19  ID:E6J2.hBM/gE
PASS 編集 削除
ちわちわ。

さてさて。
『雲ひとつない青空』かぁ、うーん、表現上の仕掛けがあるのかなぁ。なんとなくおいた言葉だとすると、うーん、僕は好みじゃないなぁ。「ラノベかよ」と突っ込んじゃった。
「家族」の話しであり「恋」の話しである体裁のように思えましたが、家族の方は最初ちょろりとやって、おしまいみたいですね。おとんともとっとと和解するし。尺のこともあるし言ってたらきりがないのかもしれないけど、書いてるlicoさん自身が、そんな簡単にいくわけねーじゃんとか思ってるんじゃないかなぁとか思っちゃいました。まぁ、素直な好い児なんだと思えば、そうなのかもしれませんけど。なんにせよ、もうちょっとくらい、展開の要所要所、特にラストとかでおとんとおかんが出てきても良いんじゃないかなぁと思っちゃいました。うん。尺のために割愛しましたよっていうのが、まぁ、ちょっと露骨かなぁとか。
あと「過去にしがみつかず、今を見つめはじめた私に安心している」という語りは、僕は嫌いかな。語りが一人称であるからには、「何様だおめ」とか、思わなくもなくもないかも。
あとね、これも尺の話しになるんだけど、田舎だからみんな素朴で素直で優しいなんてことはなくて、けっこう陰湿で妬み深いようなところも一面としてあって、だから、当然、反発やイジメのようなことはあってしかるべきで、また学校という閉鎖性と、学校の外という開放性が、ふたつの社会を行き来するあたかも二重生活のような感覚を生じさせるわけだけども、まぁ、そういう部分も少しはあっても良いかなぁとか思わなくもなく。
えぇっと、あと、「私が歩きだせたのは、本当は先輩のおかげなんですよ」ていう言葉ね、これに効果を持たせるには、やっぱ、前半の屈折する気持ちを、巧くいかなくてくじけそうな気持ちをもっと煽って、そこで、彼に出会うことで、自分を変えられそう! って気持ちを抱く、その瞬間が大事だったんじゃないかなぁとか思うんだけど。うーん、ちょっと、弱いかなぁ。「ある日、ひとりきりで浜辺にいた私に、毛むくじゃらの大きな犬が襲いかかってきた。」これが導入ってのも……。licoさんはあざとい演出って嫌いだっけ。僕は、どっちかいうと演出過剰な方だから、なんだか、頼りなく思っちゃうのかなぁ。僕なら、ここの語りはだらだらせず、短い言葉で、心拍数を上げていくかな。どうもねぇ、あとあとに尾を引かないんですよねぇこの書き口だと。まぁ、三文エタンため好きの僕だけなのかもしれないけど。あと、「ところが、残念ながら彼は私には全然気づいてくれなかった。」は、良いためだったかもだけど、ための受けが早すぎない? せっかく溜めたんだから、もちょっと引っ張ってもよかったんじゃないかなぁとこれもまぁ、演出過剰の僕の好み。
どうでもいいけど、この辺、すごい怒濤の語りだよねぇ。わーーーーと言葉が襲いかかってくる。まぁまぁ、落ち着きたまいと言いたくなるような。キャラの必死さは伝わってくるけど、書き手も一緒になってあっぷあっぷじゃ困っちゃうよ? とかね。
そういえば、彩ちゃんの恋の顛末も拾って貰ってないんだよねぇ。かわいそうな彩ちゃん。
デジャヴ的なラス前の展開は好き。
まぁ、まぁ。
ぶっちゃけいっちゃえば、ラストに向けた「→」みたいな作品だったように思えちゃいました。最短距離! みたいな。まぁ、もう少し紆余曲折、寄り道や回り道があっても良いんじゃないかなぁとか。
「少女」を描いたと言う感覚は受けなかったかなぁ。
なんだろ、小説風というよりは、おしゃべり風の筋立てというと怒られるかな。
そんなことで。

でわでわ。

そうそう、僕は最近、アニメの「君に届け」とか見てたりしまして、あれ、最初のほう良いすよ。僕ぁ、泣いちゃいました。
No.8  lico  評価:--点  ■2011-01-17 16:17  ID:YWND3YBhwp6
PASS 編集 削除
>HONETさま

 いつもありがとうございます。いやはやお恥ずかしい。穴があったら入りたい気分です(汗)。最近いろいろと模索中で、昔は何を想ってどんなものを書いていたんだっけかなと、過去作を引っ張りだしてきた次第です。当時の私はたぶん片想いを書きたくて、主人公の恋が叶うまでに焦点を当てていたようなので、そこはそのまま残すべきかなと思って、基本的に内容にはあまり手を加えていません。が、加筆した箇所で大いに失敗した気がしています(大汗)。

 ダイジェスト的とのご意見、まったく予想していなかったのですが、改めて読みかえしてみると確かに仰るとおりですね。冒頭で主人公が置かれている状況を一生懸命「説明」してしまっている点が、特にまずかったのかなと思います。これは以前にも別の自作でほかの方にご指摘いただいたことがあり、またも悪い癖が出てしまったなぁと反省しきりです。それからラストも、加筆したことで唐突に時間が経過し、全体が長い物語のほんの一部となってしまったせいか、それまでの経過がまさにダイジェスト化してしまいました。大失態です。

 アニメ版の時をかける少女、レンタルしてみようと思います。このたびはご意見、ご感想、本当にありがとうございました。

-----------------------------------------------------------------
>HALさま

 いつもありがとうございます。自分で穴を掘って埋まりたい気分になってきました(汗)。HALさんが仰っていた「一生懸命書いても書きあげなければ意味がない」とのお言葉が胸に残り、終わらせる感覚を取り戻そうとしているところです。幸か不幸か(いえ、間違いなく不幸だと思いますが)、昔からラストに向けて書き急ぎ、締め方が下手くそだったので、今回はそこに挑戦しようと過去作のリライトに臨みました。が、けっきょく見事に玉砕……!

 仰るとおり、27年後はあまりにも唐突ですね。これまでの物語が一気にかすんでしまった感じでしょうか。そこで表したかったことを汲みとっていただけたのが、せめてもの救いです。ラストを現代にもってきたのは、舞台を80年代に設定した理由が必要だったからです。理由があとづけになってしまった点は、ただもう恥じいるばかりで(汗)。本音をいえば、今は書けないものを書いていたかつての自分の感覚を壊したくなかったので、基本的に設定などの大筋はいじりたくなかった、といったところでしょうか。自分ではいかにも古臭くて、80年代臭がぷんぷん漂っているように感じられたものの、読まれた方はそこまでではなかったようで、HALさんが仰るように、時代を感じさせるアイテムをもっともっと取りいれるべきだったと思います。

 さらに冒頭。これも仰るとおりですね。お恥ずかしい。冒頭説明過多の悪い癖が出ました。そもそももっていき方を間違っているというか、内容にそぐわない入りでした。ここも少し加筆しているのですが、まったく機能していない感じです。成長ないなぁと、ちょっと凹みます。でも、主人公をかわいいと言ってくださって、すごく嬉しかったです。ちなみにこの方言は、本州の西の方のとある県、と言うにとどめさせてください。コンバータを駆使して翻訳をかけ、物語の流れに合わせて微調整を図ったのでどこまで正確かわかりませんが、私もすごく好きな方言です。基本的には土地を問わず、あらゆる方言にいつも多大な憧れを感じています。HALさんの方言小説もぜひ読ませてくださいね。

 このたびは拙作に丁寧なご意見、ご感想をくださり、本当にありがとうございました。
No.7  HAL  評価:30点  ■2011-01-15 16:45  ID:liZw1A5CTmc
PASS 編集 削除
 拝読しました!
 たしかに大きな波乱はないですけれど、いいなあと思いました。甘酸っぱい! 主人公がかわいい! 恥ずかしいところを見られたと思って、なかったことにしたいとか、気づかずに通り過ぎてくれればいいとかって、そういうところがすごく可愛いです。

 しいていうなら、冒頭がやや波乱含みな印象の出だしだったですよね。そちらのほうに焦点が合っていくのかな……と思いながら読み始めたため、途中から予想外の方向に転換したような印象が、すこしあったかもしれません。最初のパラグラフにもうちょっとだけ、恋愛モノの予感のする文章が紛れていてもよかったかも、なんて。

 それとは別に、ラストの二十七年のスキップが、やや唐突な印象がありました。ストーリーの盛り上がりや波乱がどうこうというよりも、そこまでずっとリアルタイムで進行してきたので、急に時間が飛ぶと思わなくて、戸惑ってしまった感じです。ラストシーンの前に何かもう一拍、ワンクッションほしかったかなって。

 それはそれとして、素敵なラストでした。主人公が方言を話すようになってるところが、時間の積み重ねを忍ばせて、わあいいなあと思いました。
 メールを便利になったと思うラストシーンと、主人公の年齢から推測すると、物語の舞台は1980年代ごろなのかなあ。もしかしたらわたしが読み落としただけかもしれないのですが、その年代ならではのアイテムとか、時代背景っぽいものがちらりと出てきても面白かったかも、なんて思いました。

 あと方言が、親しみがあっていいなあって。どのあたりの言葉なのでしょうか。自分もまたそのうち方言小説に挑戦してみたいなあ……。

 素敵な作品を読ませていただきました。いつもながらの拙い感想、どうかお許しくださいますよう。
 新作のほうも楽しみにしています!
No.6  HONET  評価:30点  ■2011-01-14 17:22  ID:4B0H10LA2Ic
PASS 編集 削除
 こんにちは。読みましたので感想をー。
 おや、作風が変わったのかな、というのが第一印象ならぬ第一感想。と思って読んだら、なるほど、以前お書きになっていた作品だったのですね。直球ど真ん中に投げ込まれた恋愛小説を読んだ気がしました。恋愛物はあまり読まないのですが、どうせならこういうハッピーエンドが、読後感が良くて好みですね。
 ただ、これはあくまで私感ですが、やるなら徹底したほうがいいかも、という意見です。どちらかというと、ダイジェスト的な作品に感じました。いや、他人のことは言えないのですが(笑) 意図的なものだとは思いますが、二人の恋愛中の話も読んでみたい気もしますしね。
 余談ですが、アニメ版の時をかける少女はなかなか良いですよ。レンタル100円の価値はありそうです。
No.5  lico  評価:--点  ■2011-01-14 01:35  ID:YWND3YBhwp6
PASS 編集 削除
>鮎鹿ほたる さま

 機会があれば観てみたいと思います。スカパーで放送しないかなぁ……。

-----------------------------------------------------------------
>人形峠 さま

 読んでくださってありがとうございます。

 素晴らしき日々とは、もしやワンダーイヤーズですね!(スカパーの放送では原題をカタカナ表記にしたタイトルでした)わ、めっちゃ好きです。115話、全部観ました。ケビンが全然はっきりしなくて冴えなくて、もうすごいやきもきさせられましたよね〜。最終回は確かにちょっとアレでしたが、家族の在り方とか恋とか友情とか、30分の枠の中で毎回ラストにはほろりと来てしまう、古きよきアメリカを見事に描いた素晴らしいホームドラマだと思います。ウィニーとの恋の行方、一生懸命応援していました。と、ちょっとテンションあがり気味ですけれど、あんな淡い、甘酸っぱい想いがいっぱい詰まった物語が書けたらいいなぁなんて思いつつ、いやとても無理だろうと早々に諦めておきます(汗)。

 さて、本作ですが、やはりこの恋愛、ちょっとスムーズにいきすぎですよね。80年代のベタな少女マンガみたいなものを書きたい、と思って書いた記憶があります。なので、ハッピーエンドはお約束というか。それでも、もう少し山なり谷なりが必要だったかと思います。文章を褒めていただけて嬉しかったです。ありがとうございました。
No.4  人形峠  評価:40点  ■2011-01-13 20:42  ID:qwuq6su/k/I
PASS 編集 削除
 ええっと、、、’95年迄 NHKで夕方毎日放映されてた素晴らしき日々という少年と少女のアメリカドラマがあったんすが、それは・・・確か2人が高校入って、という辺でいきなり最終回が来て了って。それも急に5、6年経っちゃって彼女は物凄い才女だったんですが、パリで美術史を専攻し大学を終わって、飛行機で帰って来ると言う設定でした。そいで少年の方は他の女と結婚して赤ん坊を抱いて、飛行機のタラップから降りてくる彼女を出迎えるという、悲惨な結末で・・・愛読者としては、ガクッと来ましたが、この作品の最後を読むと・・・。ウ、、ム、、、と唸らざる得ませんですた。恋愛が実ら無いのも読者としては悲しいが・・。余りにもスラスラ行き過ぎると・・・。
 例に寄って、素晴らしい爽やかな筆致で、何つうか、こういう高校生の恋愛ですが、桜の花びらが早春に春の嵐に散り行くやうな清々しさの有る文章で。不幸な新婚にしても 少女を摘み食いするレズオバサンにしても、矢っ張、、、文才だって生まれ付きだぁ、と観念しました。
No.3  鮎鹿ほたる  評価:50点  ■2011-01-13 18:41  ID:O7X3g8TBQcs
PASS 編集 削除
それも面白いです。背景が物凄くいいと思ったら山本二三でした。
No.2  lico  評価:--点  ■2011-01-14 01:38  ID:YWND3YBhwp6
PASS 編集 削除
>鮎鹿ほたる さま

 城戸朗賢さんでしたか。いつも読んでくださってありがとうございます。実は投稿ボタンを押すとき、城戸さんがもしもまた読んでくださったら、前回と同じことを言われてしまうだろうなぁという気はしていました。予感的中というか、なんともお恥ずかしいかぎりです(汗)。

 恋愛+α、仰るとおりですね。実際、書いていて間がもたないからこのくらいの尺になるのだと思います。にしてはちょっと冗長か。もともと恋愛ものはほとんど書かないので(いえ、ホントに)、なんでこんな恥ずかしい台詞を言わせにゃならんのだと赤面しつつ、出来上がったものを見ると、そのベタさが逆に自分ではちょっと新鮮かなぁなんて、つい甘く考えてしまったわけで。……すみません(汗)。

 これにほかの要素を加えると、きっと恋愛そっちのけでαの方がメインになってしまいそうですが、もしもまたまかり間違ってこの手のものを書こうと思ったときには、鮎鹿さんのアドバイスを念頭に、別のネタと並行させることに挑戦したいと思います。ありがとうございました。

追伸:カリオストロはルパンが格好よすぎですよね(でも好き)。男性陣はクラリスに骨抜きにされてそう(笑)。時をかける少女は昔映画を観たことがあるのですが、よく覚えていないところをみると好みではなかったのだろうと思います。でも、今ちょっと調べていたら、細田守監督のアニメ版(2006年)が面白そうかなぁなんて。
No.1  鮎鹿ほたる  評価:20点  ■2011-01-12 21:35  ID:O7X3g8TBQcs
PASS 編集 削除
こんにちは。
前、城戸って名乗っていましたがなんだか随分と硬い名前のように思えてきたので変えました。また、よろしく。
さて、この作品を読んで感じたことをダイレクトに書いてみたいと思います。

恋愛の話だけでは間が持たない。

と思いました。もしかして、前も同じこといったような気が・・・
なにか、別なネタを考えてそれとあわせて恋愛を描いたらキマると思います。別なネタとは例えば・・・東京でやっていた部活を続けたいのに田舎にはないから作ろうとしたら、邪魔するやつがいて・・・とか。
女のコが告白する話と言うと・・・古い人間なので古いネタになって恐縮ですが・・・時をかける少女(主演 原田知世)があります。恋愛とは別な事件をストーリーのメインにしてドラマは恋愛がメインです。ルパン三世カリオストロの城もルパンの冒険をストーリーの器にして中身はクラリスの恋愛を描いています。器にするネタなんてのは雑誌でも見てれば見つかると思いますよ。
licoさんはこういうのを書くとうまいのでネタさえ上手く見つけてくればいくらでももっと長くてガツンと来るものが書けるようになると思います。
総レス数 10  合計 200

お名前(必須)
E-Mail(任意)
メッセージ
評価(必須)       削除用パス    Cookie 



<<戻る
感想管理PASSWORD
作品編集PASSWORD   編集 削除