長い。
 長い。
 春のヒダマリにいるような、鳥のさえずりが聞こえる野原のような。
 夢をみた。
「……あー」
 ボーッとしてる頭を覚醒すべく声をだしてみる。
 上半身をベッドからあげて窓の外を覗くと、薄明るくなった空が見えた。
 時計の表示は四時。
 起きるにはまだはやすぎる。
 綺麗過ぎる空に落胆したあと、自分はまた眠りにつくべく、ベッドに横になる。
 今日はまだ始まらない。
「おやすみ」

………………………

 ふざけんなよ
 思わず自分は悪態を着いた。
 それは、目の前にあらわれた白い彼女にではなく、現れさせた運命という奴にだが。
「おはよう」
 彼女はその白い、美しい声を自分にむけて放つ。
「……おはよう」
 しかし自分は醜くて汚い声を僕は彼女に伝えなければならないのがいやで、 少し気分がわるくなる。
 自己嫌悪。
 白い君、黒い自分をそんなにみないでくれ。
 白い君には見られたくない。
「いつも、静かだね?」
 そんな感情を彼女は知ってか知らずか、なお自分へと声をかける。
 誰が僕の声なんて聞きたがる。
 そう、口から出かけたがそれを飲み込み。
「そうかな」
 と当たり障りのない返事をかえす。
「クールですよね」
「それほどでも」
「嘘つき」
「ごめん」

………………………

 大学に入って一年がたち、少なくとも自分は好きな人が出来た。
 二年浪人した白い彼女。
 電車や学院ないでよくみかける彼女。
 自分は違い、とても綺麗な彼女。
 暗く黒い淀んだ自分とは違う彼女。
 自分は間違いなく、彼女にみとれ、嫉妬し、惚れた。
 神様、アンタは残酷だ。
 何故、手に入れられないものを目の前でちらつかせる。自分が何も出来ない 事を知ってやっているんだろう?
 自分は机に全身の体重を預けて突っ伏す。
 それは目の前に見える彼女をこれ以上視界にいれないため、これ以上、絶望に身を焼かれないようにするため。
 だが
 自分は彼女を求めている。
 あの白さが砂糖のように甘そうな彼女が。
 欲しい
 欲しい
 欲しい
 それは子供のようなだだのこねかた。
 もう、十九歳なのに。
 それが何故かおかしくて。自分はその醜くい顔で笑顔を作った。 

………………………

「あーあ、もう一年だぜ、彼女とか作りたかったなぁ」
 夜遅く、ともに飯をとった高校からの知り合いがぼやいた。
「あぁ、そうだな」
 自分はそれを適当に返しす。
 しかし、その様子が気にいらなかった彼は機嫌を悪くしたようだった。
「お前なぁ、昔から格好よくてモテてたけでなんでそんなに女に無頓着なんだよ」
 格好いい?
 それは本当に自分の事を知って言っているのか?
「格好よくなんかないよ、ただ、何となく人が苦手なだけだ」
「俺がいってるのは容姿の事、まぁ性格もクールだし間違ってはないけど」
 彼は立て続けに話した。
「馬鹿だな、お前も、彼女が死んでからじゃ遅いんだぜ?」
「突然何をいうんだ、おまえ」
「……記憶しかこさなかった人だっているんだから」
 彼は遠く見てそう告げると、
 笑った。
 幸せそうに。
「馬鹿はおまえだ」
「クールの芥川くんが何をいうんだ?」
「ヘタレ」
「ゴメン」
 彼はあくびをひとつ。
「眠い」

………………………

 その次の日。
 また、白い彼女とあった。
「おはよう」
「おはよう」
 もう、何か策略が働いてるとしか思えない。
 笑う
 笑う
「素敵な笑顔ね」
「嘘つき」
「本当だよ?」
 まさかの、ほめられた。
 自分はビックリして、白い彼女を見つめる。
 しかし、その彼女は相変わらずの綺麗な笑顔。
 あぁ、そうか。彼女は白いんだった。
 だから、彼女の言葉も中身は真っ白。
 何も思いは込められない。
「有り難う」
 とりあえず、自分はお礼をいう。
「どういたしまして」
 彼女は恥ずかしそうに答えて俯いた。
 自分は今日、そんな彼女さえかわいいと思った。
 新しい一面を発見。

………………………

 自分は醜く黒い。
 それに気づいたのは十八のとき。
「お前はうちの子じゃないんだ」
 父に突然。
 なんの前置きもなくいわれた。
 母いわく。
「私の今はもういない友達の子」
 らしい。
 フザケンナヨ。
 その時、自分の中の何かが壊れた。
 フザケンナヨ
 フザケンナヨ
 フザケンナヨ
 嘘だ
 嘘だ
 嘘だ
「自分は醜い」
「自分は愚か」
「自分は馬鹿」
 だから。
 誰も自分に近づかないほうがいい。
 僕は天涯孤独の身、
 寄ってきたら。
 食べちゃうぞ?
 ガオー。

………………………

 白い彼女と僕は飲みに行くことになった。
 話しは簡単、誘ったらOKを貰えたそれだけ。といってもコーヒーだけど。
 あのヘタレから聞いたコーヒー屋さん。
 渋いおじいさんがやっていて店は落ち着いて静かな感じ、だが、決して息苦しさは感じない。
 むしろ落ち着く。
「ねぇ、芥川くん?」
「……どうしたの?」
 自分は小さな声で聞きかえす。
 本当は今日、彼女に聞くつもりでここへ誘った。
 付き合って下さいと。
 しかし、彼女は。
「私も話したいことがあるの」
 と言った。
 まさかまさかの、ラッキーデイ。
 こんな自分に言いたいこと?
 マジかよ。
 ビックリ。
「さっき言った言いたいこと何だけど……」
 彼女は白いティーカップを両手で掴みながらいう。
 きた
 思わず胸の鼓動が早くなるのを抑える。
「あのね」
 彼女は言いにくそうにつぶやく。
「私」
 意を決して、こちらをむく。
「実は」
 彼女はその鮮やかなピンクのクチビルをうごかした。
「――――」
 だが、そこから聞こえたのは。
「あなたのお姉ちゃんなの」
……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………は?
「……何?」
「お姉ちゃんなの」
「嘘つき」
「本当」
「マジ?」
「マジ?」
「はぁ!?」
 ガタン。席を立ち上がり大声。
 回りの目こっちに注目。
 すると彼女も立ち上がり、自分のてを掴んだ。
「お金置いときます」
 彼女はそういうと、手を引っ張り自分ごと外へと引っ張る。
「はい?」
 焦る俺。
 走る彼女。
 これ、笑うところ?

……………………………………………………………………………………

「芥川それは私達があげた名字だが、広海(ひろみ)これは広海、お前の本当の親がくれた名前だよ」

………………………

「私はあなたのお姉ちゃんなんです」
 再度彼女は自分に向かって言い直した。
 自分はそれに、ボーッとしてるのがやっとだった。
「ちゃんと聞いてますか?」
「はい」
「嘘つき」
「ごめんなさい」
 好きな人が自分の家にいる、それだけならいいのだが、お姉ちゃんとこられた。
 嘘だ。
 自分は天涯孤独の身。
 お姉ちゃんなんか、まして白い彼女がなんて。
「芥川くんとアタシのお父さん、夏目龍之介、でしょ?」
「確かに」
 間違ってはない。
 今の母親に話しを聞いたあとお墓参りにも行った。
「じゃあ、本当に……?」
 恐る恐る自分は聞きかえす。
 ある意味これは拷問だ、はいといえば自分のこの恋心はどうなる?
 いや。
 もう答えは予想がついてる。
「はい」
 ふざけんなよ
 こんな時だけなんで神様は自分のいのままなんだ。
「ただ、私達は実は少し違います」
「だろうと思ったよだって。友達だって言ってたうちの親が知らないっていうことは」
 真実はたったひとつ。
「腹違いの姉弟なんです」
 自分は予想通り過ぎる答えに辟易とした。
 白い彼女は二歳年上、ということは、龍之介父さんは自分が生まれるまえ、見知らぬ女性とセックスをしたということ。
 詰まるところ。
「死んでてよかった、浮気ものだなただの」
 思わず自分は呟いた。
 それに彼女は怒るでもなく、ただ美しく笑った。
「同感です」
「本当」
 フザケンナヨ

………………………

 白い彼女、改めて姉姉貴姐御はうちに泊まっていくと言った。
 ふざけんなよ
 どうして、姉と、好きだった人と、否、好きな人と同じへやで一夜をあかさないといけないのだ。
 自分は困惑する頭を何とか落ち着かせ、整理した。
 結局だからといって、自分の心にコスモスが訪れることはなく永遠にカオスだったが。
 自分はとりあえず、今日一日理性という檻が本能を閉じ込めておけるか、確認してみる。
 この醜い自分にこんなチャンス二度とないんじゃないか?
 いいだろう別に。
 醜いもう一人の自分が囁く。
 いや、自分自身が囁いた。
 自分はもう一度、彼女の様子を伺う。
 いつも、白い彼女、しかしどこか。あくまで主観でだが。
 今日はどこか、機嫌がいいように見える。それは、さらに彼女の魅力に自分が気づいた瞬間であり、みとれてしまった数秒間でもあった。
「どうしたの?」
 そう残酷な白い声を聞いたとき、自分は改めて自分の醜くさに気づいた。
 そして、僕は醜い父に似たんだろうと確信する。

………………………

 自分は夕飯を彼女と食べあと、姉が二年間大学も行かずに何をしていたのかをきいた。
「ずっと、弟を探してたんです」
 悪びれる様子もなく、むしろ彼女は誇らしげに言った。
「母は三年前に私に本当の父がいると教えてくれたあとなくなりました」
「……だけど、父さんは死んでた」
「はい、だから、広海くんを、唯一の親族を探しました」
 きっと彼女は母親が死んで淋しくて。
 孤独に身を震わせて、絶望して。
 必死に広海をさがした。
 そして、もう一人の「自分」を見つけた。
 彼女がその時どんな事を思って考えたのか?
 そんなことは、自分は彼女じゃないのでわからないが、答えは至極単純明解。

「嬉しかったですあなたが生きていてくれて」

 彼女は笑った。
 白い彼女が本当に笑った。
 だけど。
 しかし。
 けれども。
 醜く彼女は
 泣いていた。
 白い、綺麗な顔を崩して。
 恋心とか自己嫌悪とか。
 途端にどうでもよくなった。
 吐き気がするくらい綺麗な彼女が、醜く泣いている。
 自分はただ、醜く。
 ただ、人間らしく。
 彼女を抱きしめる。
「………ッ」
 ビクッと彼女は体を震わせた。しかし、次第に体重を少しずつ唯一の「自分」へと預け始める。
 それは。
 人間らしすぎて、ただの三文芝居となにもかわらない。
 この醜く歪んだ自分にとっては。
 親がいないのにも気付かない。
 恩返しもできない。
 この世界の理からはずされていたのに関わらず笑っていた。
 醜い、愚かな自分にとっては。
 だが。
 そんなこといまはドウデモイイ。
 守りたい、彼女を。
 守りたいと思った。
 醜い自分が。
「ねぇ、僕が守ってあげる」
「………え?」
「ただ、守ってあげるから」
 彼女は驚いた顔をして、自分をみる。
「好きだ」
「……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………は?」
 彼女は間抜けた顔をして。
 涙なんかどこかへとばして。
 驚いた。
 自分はそれがおかしくて。
 笑った。
 綺麗に。
「……何?」
「好きなの結婚しよう」
「嘘よね?」
「子供の名前も今考えた、男だったら流、女だったら一葉」
「本当?」
「ずっと好きだった」
「マジ?」
「ふざけたっていいじゃん、姉弟なんて関係ない結婚しよう!」
 彼女はみるみる顔を赤くそめて。
「は?、え、えあ、ほ、あ、はう?」
「返事は?」
「はい?」
 ハハハハハ
 テンパる彼女。
 笑う自分。
 ここは笑う所にちがいない。


 だろ?父さん、母さん。





終わり

天狗
2011年01月01日(土) 19時42分44秒 公開
■この作品の著作権は天狗さんにあります。無断転載は禁止です。
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作者からのメッセージはありません。

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No.1  天狗  評価:--点  ■2011-01-01 19:57  ID:a54ciOwq3GM
PASS 編集 削除
あー
すいません、初めての投稿なので題名うちみすしました

「ただ、醜く」

が題名です
すんません
総レス数 1  合計 0点

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