かみなりのライちゃん 
 あるところに雷の女の子、ライちゃんがいました。
ライちゃんはある日、雷のおじいさんに聞きました。
「あの地面の上にある丸いものはなあに?」
おじいさんは答えました。
「あれは『かさ』というものじゃ。わしらが雨をふらせると、あれを広げてわしらに向けるのじゃ。」
 雷の一族が住んでいるのは雲の上。綿のようにふんわりした雲と、夜になるとキラキラ光る星たちの他、見えるものは空ばかり。ライちゃんとおじいちゃんの住む雲は都会の風に吹きあげられていつも街のそばにゆったりととどまっています。
 ライちゃんは、ひまなときはいつも雲の合間から地上の街をながめていました。
たとえば、良く晴れた日には公園で人々が自転車で走ったりボール投げして遊んだりしているようすを、風の強い日は空を飛ぶ鳥たちや飛行機のようすを、朝や夕方には人々をたくさん乗せて走る電車や車の数をかぞえたりすることもあります。
 夜になると道やビルや家々にあかりが灯るので、地上はまるで満点の星空をうつしだす鏡のようになります。ライちゃんはおじいちゃんにだっこされてその様子をながめながら眠りにつきます。なかなか眠れない日は、心の中で空の星々と見比べて一つ一つつなぎあわせ模様を作ってみることもあります。「あれはお花の形」、「これは空を飛ぶ鳥の形」というふうに。
 
 ところで、夏の昼間、あまりにも暑すぎる日は、遠い海から吹いてくる風がビルにぶつかって雲がもくもくとわきあがり、ライちゃん達の住む雲のそばにも大きな大きな雲のかたまりができあがります。こういう雲を入道雲といいいます。小さい入道雲は昼間のうちに風に乗って散ってしまいますが、時にとても大きくなることがあります。夕方になってもいっこうに小さくならないと、雷のおじいさんはその様子を見て重い腰を上げます。そして大きなお城のようになった入道雲の中に分け入ってゆき、ふわふわしたもやをかき分けて雲の下の方におりてゆきます。どんどん下っていってちょうど鍋の底のように平らになっているところまでゆくと、おじいさんは胸を張ってひざに手をあて、足をふんばり、「よいこらせの、どーん!!」と、足踏みをして、雲の底をがばっとぬきます。すると、足踏みの音はドーンという雷鳴となってひびきわたり、雲と地上の間を切り裂く稲妻とともにドッ!と雨が街にふりそそぎます。夕立です。人々はあわて右往左往、雨にぬれないようつぎつぎと傘をさすのです。
 
 ライちゃんはこの「かさ」がとても気に入りました。なにしろ色とりどりのまあるい花がポン!ポン!ポン!と地上にみだれ咲き、灰色の四角い直線ばかりの地面をはなやかに飾るのです。とくに小さい傘、つまり子どもの傘はあざやかな色がとってもきれい。大きな模様のついているものもあり、それはまるで空から見ているライちゃんのために咲いたとくべつな花のようでした。
 野原に咲く花で花束を作りたくなるように、ライちゃんも「この傘でもって花束にしたらすてきだろうなぁ」と、思いました。 
 ちょうどおじいちゃんは遠くの大きな雷雲の底を抜くために助っ人に呼ばれて行ってお留守でした。そこでライちゃんはこっそり自分で雨をふらせてみることにしました。
 ライちゃんは空に浮かんでいる雲をあちこちを見渡して、ちょうどライちゃんみたいな子どものもくもく雲ができたところをみつけました。そしてその雲の上にゆき、底におりていきました。そしておじいちゃんのまねをしてちいさな足場をみつけるとしっかり立ちます。ちいさな胸を張り足を雲の上にめいいっぱいふんばり、「よっこらせの、とん!」と、足踏みをしました。ちいさな「ゴロゴロ…」という音とともに、にわか雨がふりだしました。
 時間はちょうど小学生の下校時間、幼稚園のお迎えのバスも走っています。雨のシャワーがサッと子ども達やお迎えにきたお母さん達の上にふりそそぎました。みんな空を見上げて突然の雨にびっくり、大あわてで傘を開きます。あっという間に傘の花がポンポンポン! 地上はちいさな花ざかりとなりました。
 ライちゃんはそのようすを見て大喜び。待ってましたとばかり、手を合わせてこすり小さな虹をだしました。雷の一族はこの「虹はしご」で雲のあいだをわたるのです。
ライちゃんはこの虹はしごを地上にむけて「スーイ!」とすべりおりようとしました。
 ところがライちゃんがだした虹をみて、子どものもくもく雲はかんちがい。雨をふらせるのを終わりにしてしまいました。
 子ども達とお母さんは、「あ、雨が止んだみたいだね。よかった!」と傘をぱちんと閉じてしまいました。ライちゃんは傘の花がしぼんでしまうのを見てがっかり。しかもそこに丁度おじいちゃんが帰ってきて、ライちゃんのいたずらが見つかってしまいました。
「コラーッ!かってに雨を降らしちゃいかーん!!」
 おじいちゃんは怒ってその場で「ドン!ドン!ドーン!!」と足踏みをしたので、びっくりしたまわりの雲はつぎつぎと雨雲にかわり、雷はピカピカ、ドンドンひびきわたり、本降りの夕立が地上にふりそそぎました。とつぜんの土砂降りに地上のみんなは大あわて。あっという間にまた傘の花が咲きみだれました。
 でもライちゃんは、おじいちゃんにたっぷり叱られていましたので、とてもそのようすを見ている場合ではありませんでした。
「おじいちゃん、ごめんなさい!」
ライちゃんが泣いて謝ると、雨はますますはげしくなり、人々は雨を避けるように家に帰ってしまいましたとさ。

青山 天音
2012年03月31日(土) 17時57分59秒 公開
■この作品の著作権は青山 天音さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
はじめて投稿します。
3才〜7才くらいの子供向けの童話として書きました。
読聞かせにちょうど良い長さにしてみました。
どうぞよろしくお願いします。

この作品の感想をお寄せください。
No.10  青山天音  評価:0点  ■2017-08-02 17:39  ID:Akz2BbyWTu2
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マサG(爺)さま

コメントありがとうございます。
このたびはお孫さんへの読み聞かせに採用してくださるとこのと、嬉しくて天にも昇るような気持ちでおります。
私の書いた物語が、楽しいひとときに彩りを添えられますよう!
もし実際に読み聞かせをされての感想もいただけたら嬉しいです。
No.9  マサG(爺)  評価:50点  ■2017-07-24 11:04  ID:cjW80xOISDo
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明日孫三人が遊びに来ます。寝る前にこの話を聞かせるつもりです。
No.8  青山 天音  評価:0点  ■2012-04-04 11:06  ID:.qW7n.wim8Y
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STAYFREE様
コメントありがとうございました。
ほのぼのとした感じが伝わったのでしたら大変うれしく思います。
ライちゃんの話になるかわかりませんが、また投稿させていただきたく思います。
ぜひ読んでいただけたらうれしいです。
No.7  青山 天音  評価:0点  ■2012-04-04 11:03  ID:.qW7n.wim8Y
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天ヶ瀬夏海様
コメントありがとうございました。
確かに、子供が飽きないように短くまとめすぎたためか、色々説明不足なところがあったかもしれません。また、子供向けならばハッピーエンドの方がよいのではないかという考え方、参考になりました。今後の課題とさせていただきたいと思います。
ハッピーエンドの「続きのお話」も興味深く読ませていただきました。
こういう終わらせ方もあるんですね……とても勉強になりました。
次もUPさせていただこうと思います、ぜひまた忌憚ないご感想お聞かせください。
No.6  STAYFREE  評価:30点  ■2012-04-03 21:01  ID:OhZQ5z8m1UA
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読ませていただきました。
他の方も書いていますが、ほのぼのとしていいお話ですね!
雲の上のライちゃんとおじいさん、雲の上から見た地上のようすなどの
情景が頭に自然と浮かんできました。
”虹はしご”っていうのがまたいいですね。
そして、ライちゃんが成長していく様子とかも見てみたいですね。
次の作品も楽しみにしています。
No.5  天ヶ瀬夏海  評価:40点  ■2012-04-03 10:06  ID:L6TukelU0BA
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とても可愛らしいお話しですね。
雷さま達のお仕事が雲の底を抜く事というのが新鮮で楽しかったです。
生意気な事を言わせていただければ、雷さまたちがなぜ雲の底を抜く必要があるのかというような「理由」(雨を抜いて上げないと、入道雲は苦しくてもがいて竜巻になってしまう、とか、普通の雨雲の場合はお日様の命令で雨を降らしてガス抜きしないと地上に光が届かなくなるから、とか)を簡単に描き込むと子供達も感情移入がしやすいかもしれません。
それから最後ですが、ライちゃんを笑わせてあげて終わりにする方が個人的には好みです。
例えば、
****
 ライちゃんがあんまり泣き止まないので、おじいちゃんはさすがに困り果てました。おじいちゃんはライちゃんが大好きだからです。なんとか笑顔になって欲しいと思って地上を見たおじいちゃんは、そこにキラリと光る丸いものを見つけました。それは子供の透明なカサが自動車のライトに反射した光でした。おじいちゃんは「これだ」と思いました。そこでおじいちゃんはいいました。
「いつまでも泣いていていてはいけないよ。そうだ、ちゃんと反省して泣き止んだら、とってもきれいなものを見せて上げよう」
 ライちゃんはとっくに反省していましたから、あとは頑張って泣き止むだけです。ライちゃんは頑張りました。ようやく泣き止むと、おじいちゃんはうれしそうににっこり笑うと「みてごらん」と言って雲の下を指さしました。
「うわあ、きれい」
 ライちゃんは思わず声に出して叫びました。地上には鮮やかな丸い傘がみんなキラキラと光を反射して輝いていたのです。ライちゃんはもう自分が泣いていた事を忘れてしばらくの間見とれていました。
 おじいちゃんは雲に頼んでおひさまの光が通る道をいくつかあけてもらったのです。光は雲の間を抜けて地上の傘に雨と共に降り注ぎました。
 濡れた傘が光を反射してキラキラ、キラキラと輝いていました。ライちゃんはそれをみてにっこりと笑いました。すると小さな虹がたくさんできました。
 地上の子供達は、ライちゃんが作ったきれいな虹を見て笑顔になりました。大人達はライちゃんお虹を見てもうすぐ雨が降り止む事を知り、自然に笑顔になりました。
 雲の上にはライちゃんとおじいちゃんの笑顔、地上では子供達と大人達の笑顔。
 ある日の長い雨は、こうやってたくさんの笑顔と共に降り止みました。

****

 すみません、勝手に継ぎ足しなどしてしまいました。
 もちろんいけない事をしたら叱られますよ、という意味あいで止めておくオリジナルでもとてもいいと思いますが、私はどうしてもこういうハッピーエンド好きなので妄想してしまいました。

 次回作も期待しています。
 のんびりマイペースで心がにっこりするようなお話しを、また書いてくださいね。
No.4  青山 天音  評価:0点  ■2012-04-01 21:38  ID:T493wNpMNbU
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HAL様
こちらこそ初めまして。このたびは丁寧な感想ありがとうございます。たくさんほめていただき大変うれしいです。
誤字に関しては、まさしくご指摘の通りです。完全に舞い上がって見過ごしておりました……恥ずかしい限りです。早速修正いたします。
今後も投稿していきたいと思っております。
ぜひまたコメントいただけるとうれしいです。
No.3  HAL  評価:30点  ■2012-04-01 17:57  ID:qt4cIuiPkfU
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 はじめまして。読ませていただきました。初投稿とのこと、これからどうぞよろしくお願いいたします。

 心のほっこりする、かわいらしいお話でした。子ども向けに書かれたということですが、大人が読んでもちょっと癒されて童心に帰れる、いいお話だと思います。
 ライちゃんがかわいいですね! 足踏みをすると落雷になるというのが、ちょっとユーモラスでいいなと思います。「よいこらせの、どーん!!」というのが、なんだかすごく可愛い。

 細かいことで恐縮ですが、誤字かな? という箇所を発見しましたので、念のため報告を。
> お母さん達の上にふりそそました。

 拙い感想、どうかご容赦くださいますよう。また読ませてください。
No.2  青山 天音  評価:--点  ■2012-03-31 21:29  ID:XS/0PPlHbwI
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白星様、感想くださりありがとうございました!
正直ドキドキしながら初投稿でしたので、こんなに早く感想を頂けるなんて本当にうれしいです。
また、的確で心のこもったアドバイスありがとうございます。
挿絵についてはあまり考えておりませんでしたが、確かに童話という事を考えるとイラストがあるとより親しみやすいかもですね。また言葉遣いの点についても子供がイメージしやすいようやさしい表現を、とのご意見、とても参考になりました。
本当にありがとうございました。ぜひまた投稿させていただきたく思います。今後ともよろしくお願い致します。
No.1  白星奏夜  評価:30点  ■2012-03-31 18:44  ID:NnSVjWbdC36
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はじめまして、白星と申します。拝読しました。
はじめての投稿とのこと、よろしくお願い致します。私も、初投稿の時は、果たして感想がつくのか、誰の心にも触れないのではないのかとドキドキしていました。ですので、コメントを残させていただきますね!
とても、可愛いお話しでした。許されるなら、パステルカラーの温かい絵を付けて読んでみたいなぁと思わされるそんな雰囲気を感じました。傘が、花のように一斉に開く様子、とても綺麗でしょうね。
お気を悪くされたら申し訳ないのですが、せっかくなので一言。満天の星空、右往左往、稲妻など少し言葉が難しく聞こえないかなぁと思ってしまうところがありました。変に言葉全てを簡単にする必要はないと思いますが、星でいっぱいの空、とか、びっくりしてあっちへこっちへ、とか可愛い雰囲気に沿った感じにしてみるのも一つの手かな、とも思いました。
楽しく読めました、また読ませて下さい。ではでは、拙い感想ですが、失礼致します。
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