カムプスの馬乗り
 乾いた風が吹く荒地を、四頭の馬が駆ける。その内の一頭に、少女が乗っていた。荒地の中に何かを見つけたのか、少女は巧みに馬を操って、残りの三頭の動きを止めた。風と砂よけのフードを少し上げて、少女は前方を確認する。茶色ばかり続く大地に、場違いなほど緑に溢れた場所が見えた。王都テルセ・ポリスから七日、オアシセ・カムプス(荒地のオアシス)と呼ばれる町。ようやく赴任地に、辿り着けたようだ。
「もうすこしだよ、フォルティス」
 少女はそう言いながら、愛馬の首筋を撫でる。主に答えるように、フォルティスも鳴いた。
「さあ、行こう。あそこがあたしたちの新しい住処だ」
 フォルティスで先導しながら、少女は再び町に向かって駆け出した。

「綺麗」
 少女は、町に入った途端に呟いた。蒼い宝石のような泉の周りを緑に輝く植物が囲み、さらにその周りを白い煉瓦造りの町並みが広がっている。泉へと続く町の大通りには、ところどころに隊商がいて、色とりどりの衣装が虹のように見えた。王都までの最後の中継地点にあたるからか、人も多い。
「さてと」
 少女はフォルティスから降りると、懐から羊皮紙の断片を取り出す。町の略図が、記してあった。
「赤い屋根の建物、赤い屋根の建物っと」
 少女は口ずさみながら、フォルティスを引いて町の中に入っていった。何も言わなくても、残りの三頭は少女の後について歩いてくる。大して歩き回らないうちに、目的の円形の屋根を見つけた。町の建物の中では、さほど大きなものではない。入口が開いていたが、少女はその前を素通りして、裏手にあるであろう場所に向かう。読みの通り、中庭のような場所に小さな井戸と、馬や家畜を繋いでいる小屋があった。
「着いたよ」
 少女は四頭と中庭に入り、特に主の許可を受けるわけでもなく井戸から水を汲む。湿った水の良い匂いに頬を緩ませながら、少女は井戸の側にある動物用の水桶にまず液体を注ぎ込んだ。
「良いよ」
 ポンポンとフォルティスの身体を叩くと、他の三頭と共に水を飲み始める。その姿を見てから、少女はようやく自分も冷たい水に口を触れさせた。ちょうど、その瞬間に後ろから声をかけられた。
「失礼ですが、どちら様ですかな?」
 少女が振り返ると、白髪の老人がそこにいた。格好から察するに、この場所の馬丁のようだ。
「王都から参りました、エステルと申します」
 少女は、フードを下げて顔を見せた。美しい黒髪が、ゆっくりと零れる。馬丁は、感嘆の声を上げた。
「今日付で、こちらのカムプスに配属になりました」
「ああ、あなたが新しい(王の耳)の人ですか。噂はここまで届いていますよ」
「噂?」
 エステルは、首を捻る。馬丁は、にこりと笑んだ。
「王都の選抜試験、難関とされる乗馬で久々に最高評価を出したものがいると。その方が、さっそくカムプスに来られるというんで皆で待っていたのですよ。いや、まさか若い女性とは思いませんでしたが」
 老人に悪気はないのだろうが、エステルは少しむっとした顔をした。
「女の馬乗りは珍しいですか?」
 エステルの言葉に老人は機嫌を損ねたことを察したのか、慌てて口を開く。
「いえ、そのようなことは。あなた以前にも、高名な女性の馬乗りがここにおられましたしね」
「そうですか」
 エステルは心の中で、首を捻る。はて、そんな人物がいたなんて聞いたことはないけれど。とりあえず、気にする必要もないかと思い直して馬丁に向かい合う。
「着任の挨拶に行きたいのですが、先任の(王の耳)の方は?」
「ああ、もうすぐ帰って来られると思います」
 そう言う馬丁の表情が、何故か暗くなる。
「何か、あるのですか?」
「いえ、ね。まあ、着任早々にこんなこと申し上げるのもなんですが」
 馬丁は辺りを見回して、誰もいないことを確認した。その仕草に、エステルは不吉なものを感じる。
「先任の(王の耳)である、カイル様はその、何というか、かなりの堅物でして」
「はあ」
 エステルは少し気の抜けた返事をする。上司が気難しい、というのはよくある話しではないか。
「あまり、機嫌を損ねない方がよろしいかと。なにせ、あなたの前任の(王の耳)を叩き出したのはカイル様ですから」
 これは頭の痛い事態かもしれない。エステルの表情が曇る。
「それで欠員が出たので、あたしが呼ばれたわけですね」
「はい、実はそういうことなんです」
 馬丁は申し訳なさそうに頭を掻く。
「(王の耳)は、王都へ早馬で情報をいち早く伝える大切なお役目。簡単なことでは欠員が出るはずもないので、何かあるとは思っていたけれど」
 嘆息するエステルに、馬丁はさらに申し訳なさそうな顔をする。
「悪い方ではないんです。いきなり、女性に手を上げることはないと思いますから」
「何とか頑張ってみますよ」
 エステルは苦笑しながら馬の世話を馬丁に託して、建物の中へと向かう。二階に部屋が用意されていたので、先任の(王の耳)カイルが帰るまで待つことにした。それにしても、着任早々に悩みの種が出てくるなんて。
  
 階下で人の動きを感じて、エステルは降りていった。それほど時は経っていない。建物の中には人はいなかったので、中庭へと出ていく。精悍な顔つきの、蒼い首飾りを付けた青年がそこにいた。一目で分かる、彼がカイルだろう。エステルが想像していたより、一回り若い。おそらく、五つ、六つ程度の年の違いではないだろうか。カイルは、エステルを見つけて少し驚いた顔をした。近くで、馬の世話を引き受けていた馬丁がカイルに耳打ちをする。エステルは馬丁の言葉を思い出して、丁寧に礼をした。
「エステル、と申します。新任の(王の耳)です、本日よりカムプス配属となりました」
「ああ」
 あまりにぶっきらぼうな返答に、エステルはこういう人か、と妙に納得してしまう。カイルは、エステルを無表情なまま見つめると急に口を開いた。
「野駆けがしたい、準備できるか?」
 帰ってきたばかりで何を。いや、それより。
「あたしは問題ないですが、乗る馬がありません」
「連れてきた馬があるだろう」
 カイルの言葉に、エステルはやや強い語気で返す。
「今日、旅を終えたばかりの馬です。休ませてやらないと」
 カイルは、黙って思案する顔をした。エステルは、じっとカイルを見据える。
「俺の馬を貸してやる、それで良いか?」
 馬丁が心配そうに見つめる中、エステルはこくりと頷いた。

 これは、試されている。借りた馬で、カイルの隣を並走しながらエステルは思った。今だって緩急をつけた走りで、気を抜くとカイルから離れてしまうように誘われている。しかし流石にそこは、馬の扱いには自信があるのでぴたりとカイルに付けてみせた。しばらく軽く流すように駆けた後で、カイルは馬を止めた。
「あちらにある尖った岩が見えるか?」
「ええ」
 荒地の中でも目立つ、人の大きさほどの奇岩だった。この地帯は、平たい荒地が続くが、時折ああいった奇岩がある。注意していないと、馬が足をくじく危険もある。
「もう日も暮れる。あそこまで、どちらが速く駆けられるか競いたい」
 エステルは、少し微笑みながら頷いた。駆け合い、ならエステルの最も得意とするところだ。変に緩急を付けて走られるより、こちらの方が分かりやすい。二人は馬首を巡らせて、互いに距離をとった。
「この布が合図だ」
 カイルは赤い布を取り出すと、勢いよく、前方に放り投げた。風に流れて、布がひらひらと落ちていく。布が地面に触れると同時に、二人は駆け出した。人よりも大きな、馬の身体が躍動する。地を蹴る振動、空気を切り裂く感覚、全てがエステルの心を昂らせた。この時だけは、女も男も関係ないように感じる。奇岩まで、あと半分というところまでエステルが頭一つ分、先に出た。勝てる、エステルはそう思った。思った瞬間、横でカイルの馬がさらに加速した。こちらは、もう限界までとばしているのに。エステルが、くっと呻くのと半馬身追い越されるのが同時だった。そのまま、必死に食らいついていくが結局、追い抜かれたまま、奇岩を通り過ぎた。
 減速しながら、エステルは悔しい思いを押し殺す。世界は広い。上には上がいる。仮にも、(王の耳)の先任、早馬稼業の先輩なのだ。今は、勝てなくても仕方がない。でも、いつかは。
「大したものだ」
 馬をこちらに寄せながら、カイルは話しかけてきた。
「ええ、とても良い馬ですね」
 エステルはお疲れ様、と荒い息を吐く乗馬の首筋を撫でてあげる。
「いや、お前のことだ」
 エステルが顔を上げると、無表情なカイルの顔が少し綻ぶ。
「真剣勝負なのに、あんなに笑って馬を駆る奴をはじめて見たぞ」
 褒められているのか、けなされているのか、よく分からずエステルは困った顔を浮かべた。カイルの表情を見る限り、叩き出される心配は消えたように思うけれど。
「この子がよくやってくれました。良い馬です、名は何と?」
「トリア(3)だ。俺の乗っているのは、ウーヌム(1)という」
 エステルは、違和感を覚えて苦笑する。
「1とか3とか、まるで番号ですね」
「番号、だからな」
 肯定するカイルにエステルは眉をひそめた。
「名前ではなく、番号で呼ぶのですか?」
「ああ、もう日も暮れる。帰ろう」
 非難するようなエステルの言葉を遮って、カイルは歩を進める。それ以上、何も問いただせずエステルはしこりのようなものを感じながら、並走した。馬を大切にしない人ではないように思える。なのに、何故、ものを扱うような番号で呼ぶのだろう。赤くなってきた空を見上げながら、エステルはそっと溜め息を吐いた。新しい上司は、よく分からない人間のようだ。

 夜、一階の食堂のような場所で、エステルは食事をしていた。勿論、カイルもそこにいる。相変わらず、無表情なままだ。
「もっと食え。まあいつもこんな感じで、着任祝いにもならん食卓だが」
「はぁ、これがいつも」
 エステルは、食卓に並んだものに視線を移す。市場で買い揃えてきた、鳥を香料で焼いたものや、何かの肉を干したものが大半を占めている。あまり、健康的ではなさそうだ。
「ここは、いつもお一人で?」
「そうだ」
 エステルの問いかけにも、基本的に肯定するか否定するかのどちらかで、あまり話さない。元々、遊牧民族の造った王国なので、国民性としては社交的で明るいはずなのに。いろいろな人がいるということね、とエステルは一人で納得する。
「ということは他の(王の耳)の方は、町のどこかに?」
「あと、四人ばかりか。別の場所にいる。明日でも、顔を見せに行くと良い」
「ええ」
 答えながら、エステルはカイルと二人の生活になるのかと思った。出身の村では、仲間の馬乗り達がほとんど男性だったのでいまさら抵抗感はない。ただこの食事と、どこか埃っぽいこの赤い屋根の家を見ると、流石のエステルもどうにかした方が良いと思ってしまう。男の一人暮らしとは、みんなこういうものなのだろうか。どうやら、いろいろな意味で明日から忙しくなりそうだった。

 馬乗りの、朝は早い。馬丁がいるので、任せきりというわけにはいかないものだ。自分の馬の体調の確認から、朝の食事の準備、その他諸々の馬の世話で午前中の時間を過ごす。別に慣れていることなので、場所が変わってもエステルは楽しそうに作業をこなす。馬丁も、カイルも特に何も言わないが、言わないということはこれで良いということだろう。それにしても、カイルの馬は端から見ていても良い馬たちだった。(王の耳)は、馬を乗り継いで駆けていくため、最低四頭の馬を揃えている。特に、一番馬には優れた馬を持ってくるものだが、カイルの一番馬ウーヌムは見とれるほど素晴らしい体躯をしていた。あまりにウーヌムを見すぎて、自分の一番馬フォルティスに鼻面で押される。
「ごめんごめん、妬いたの?」
 エステルが笑うと、フォルティスは抗議するような顔でこちらを見つめた。

 昼、カイルが食堂に来る前にエステルは炊事場に入った。あの見るからに不健康な食事はどうにかしなければ、自分の身体に支障が出る気がする。
「汚い、というよりこれは最早、遺跡に近いわ」
 埃が堆積し、砂漠に埋もれる古城のような有様の炊事場を見て、エステルは顔を引きつらせる。全てを綺麗にするのに、遠大な時間がかかりそうだ。とりあえず、昼には間に合うように窯の一つだけは使えるように掃除をした。薪もなかったので、馬丁から譲り受ける。一つだけ、わりと綺麗にしまわれていた鍋を洗い、井戸から水を拝借して窯で沸かす。
その中に昨日の鳥の残りと、香料、香草、岩塩を少々加えて、即席の料理を作った。
「何をしている」
 辺りに立ちこめる良い匂いに惹かれたのか、カイルが炊事場に顔を出す。
「料理、です」
 エステルは、にこりと笑ってみせた。カイルは困惑したような、どこか遠いものを見るような切なそうな表情を浮かべた。少々、気難しい上司を見返してやろうと思っていたエステルもその表情に不思議そうな顔をする。
「お前も、女だったな」
 カイルは、エステルの視線に気付いて皮肉気に言い返す。
「失礼ですね」
 少し心配したところでそう言われ、エステルはこの人はやっぱりこうだと心配したことを後悔した。

 午後、空いた時間で建物の中をエステルは掃除していく。(王の耳)の宿舎の一つが、あまりに汚いと国王に申し訳ない気持ちになる。昨今は国内外も落ち着いていて、一昔前のように頻繁に早馬が行き交うこともない。隣の町から駆けてきた(王の耳)は、通常はたどり着いたその町の(王の耳)の宿舎に泊まる。少なくなったとはいえ、他の人が泊まるかもしれない可能性がある以上、小綺麗にしておいて損はない。
もののついでだとカイルの居室まで掃除をしに出向いて、エステルは昼に続いて盛大に後悔した。
「汚い、というよりこれは最早、災害ね」
 積み上がった書簡と、脱ぎ捨てられた衣服が見事に混合している。蒼い泉の美しい町への、ささやかな反逆かと思うほどの乱れっぷりだ。馬臭いのは仕方がないが、乾いた別の臭いがする。
「よくこれで寝れたものよね」
 布で口元を覆いながら、エステルは難敵の攻略にかかった。書簡は、基本はそのままで部屋の端に整頓し、床はきちんと拭き、衣服は処分するものと洗うものに分ける。中庭で、吊り糸に洗ったものを干すと、馬丁が懐かしい光景だ、と感慨深そうに呟いた。どれだけ不健康だったのかと、エステルは呆れてしまう。
 部屋が、綺麗になっていることは気付いているだろうにカイルは夕食の時も特に何も触れてこない。気に入らなかったかしら、とも思ったが、ほんとに気に障ったのなら何か言うだろう。女性が苦手なのだろうか。エステルは豆のスープを口に運びながら、無愛想なカイルを眺めた。意図してか、しないでか、どうも距離を置かれているような気もする。気にしすぎても仕方ないか、と深読みする前に思考を打ち切った。

 翌日、馬の世話を終えた午後。エステルは、カイルと向き合って紙と格闘していた。
「えっと、玻璃の月、十日にセルジュク・カン国よりの使者来る。来意は三つ、一つ塩の取り引きに関して、二つ隊商の交易の保護に関して、三つ……えっと、三つ目は」
「馬鹿者、やり直し」
 カイルは、むすっとした顔で溜め息を吐く。
「これ、苦手です」
 エステルが、困った顔で告げるとカイルはさらに深く溜め息を吐いた。
「早馬で伝えられる情報は巻物か書簡に記してあるが、万が一に備えて一言一句覚えておく必要がある」
「一回読んだだけで覚えるなんて、そんな」
「じっくり覚えている時間が、早馬にあるとでも?」
 それはそうですけれど、とエステルは口ごもる。ほとんど、馬の技術で(王の耳)に選抜されたようなエステルにとってこれは正直、辛い。それでも、カイルは容赦なく何度も何度も繰り返して覚えさせた。日が暮れる頃になって、何とか形にはなった。エステルは、
ようやく雑談を許される雰囲気になったのを感じ、気になっていたことを尋ねた。
「その首飾り、綺麗ですね?」
 エステルは、カイルに会った日から彼が付けている、蒼い首飾りを指した。カイルは、無表情なまま首飾りに目を注ぐ。
「贈り物だ」
 そのことに、あまり触れられたくないのかカイルは素っ気なく答えると立ち上がって出ていってしまった。
「贈り物、ねぇ」
 エステルはそう呟いて、自分も立ち上がる。一見すれば、ただの蒼い首飾り。けれど、近付いて見て分かったことだが、あれは女ものだ。そういえば、馬丁がかつてここに女性の馬乗りがいたと言っていたことを思い出す。ただでさえ、よく分からない人物なのにますますよく分からなくなる。直接、聞ける雰囲気を持たない上司だけにエステルの中で釈然としないものが蓄積していった。

 カイルの野駆けに付き合いながら、エステルは今日もあまり話さないカイルをちらりと見る。結局、数週間過ぎても、カイルという人物のことはよく分からなかった。かつていたという女性の馬乗りについても、馬丁にそれとなく聞いてみたが、こちらも素っ気ない答えが返ってきただけだった。結局それきりで、首飾りの贈り主のことはうやむやになったままだ。伝令文を覚える訓練でも、今の野駆けでも、訓練だから付き合ってくれているわけで、特別に親しみを感じてるわけではないように見える。乗馬のことも番号で呼ぶし、冷たい人物なのかと思うが、馬に対する態度や時折エステルに見せる配慮を見ていると、単に冷たい人ではないように思う。何週間かけて、そんなことしか分からない。難しい顔をしているエステルを見て、カイルが話しかけてきた。
「どうした、険しい顔をして」
 あなたのせいですけど、とエステルは言いかけ、慌てて別の言葉を口に出す。
「いえ、(王の耳)っていうのはもっと王都まで駆け回るものと思っていました」
 とりあえず言った言葉だが、エステルの本心には間違いない。カムプスに来てから、一度も早馬に出てはいないのだ。馬の世話、暗記、馬の訓練、就寝の決まった仕事を繰り返しているだけ。馬好きではなかったら、退屈すぎて逃げ出すだろう。
「もうこの役目に飽きてきたのか?」
「そんなことは、ないですけど」
「早馬なんて、出ないにこしたことはない」
 カイルはそう言うと、エステルが今までで見たことのないほど険しい、それでいてどこか物悲しい表情で空を見上げた。かける言葉が見つからず、エステルは黙ってしまう。分からないカイルがさらに分からなくなった。

 噂をすれば何とやら、というのは本当にあるようだ。その夜、エステルは、階下が急に騒がしくなる音で目を醒ました。
「エステル、降りてこい」
 ただならぬ気配に、呼ばれる前から手早く着替えていたエステルは階段を駆け下りた。すでに着替えているカイルの側で、膝をついて崩れ落ちている男性がいた。掠れたような、苦しい息をしている男性にカイルは汲んできた水を飲ませる。言葉を発することもできない男性は、懐から丁寧に折りたたまれた羊皮紙を取り出して、カイルに渡した。カイルは、さっと一読すると羊皮紙をエステルに渡す。
「お前が持っておけ、すぐに出る。馬の準備を」
 エステルは羊皮紙を受け取ると、読みながら中庭に飛び出した。羊皮紙には、ウドゥル国から大規模な隊商団来る、七日後に我が国に入る様子、と記されていた。エステルには、あまり危急な情報には思えなかった。しかし、初めての早馬の仕事に気分が高揚する。
「お仕事だよ、フォルティス」
 愛馬に声をかけると、フォルティスは一声嘶いた。馬丁に手伝ってもらい、鞍を置いたり、旅の装備をくくりつけたりと準備をしていく。カイルの方の馬の準備を済ませたところで、カイルが建物から出てきた。
「後は任せる」
 馬丁に一言告げると、カイルはウーヌムに乗った。エステルも、フォルティスに乗る。二人と、四頭の馬は静かな町の中へと駆け出した。夜の凍るような冷気が頬を刺す。それでも、それが気にならないほどエステルはどこか気持ちが弾んでいるのを感じていた。

 王都まで、通常では七日。それを、早馬は多少の無理を押して、五日で駆け抜ける。一日交代で馬を替え、最後の日には屈強な馬である一番馬でもう一度走る。五頭、用意すれば良いように見えるが、一人の騎手が統率して走らせるには四頭が最も御しやすい。馬は長時間、全力疾走することはできない。無理をして最速で走らせれば、死んでしまう。なので長い間、駆けていられるぎりぎりの速さで馬を走らせる。それでも、生き物は当然のように疲れる。乗っている人間も同じなので、決まった距離ごとに小一時間ほど休む。それでも、昼夜問わずに駆けていくのは、想像を絶する苦行だった。
 気分が高揚していたエステルも早速、早馬稼業の洗礼を受け、身体の痛みと、精神的な辛さを感じていた。小一時間の休みでは、片方が仮眠をとり、片方が見張りをする。三日、駆けてきてエステルの体力も限界に近付いてきていた。見張りの番なのに、意識を失いそうになる自分を何度もエステルは奮いたたせた。そんな主人を気遣ってか、フォルティスが心配そうな瞳でエステルを小突いた。
「ありがとう、フォルティス」
 一人なら、投げ出してしまうかもしれない。けれど、馬たちも一緒に苦しんでいると思えば乗り越えられる気がした。
 エステルは、フォルティスを撫でながら寝ているカイルを見る。カイルも疲れてはいるが、流石にエステルよりは数段、余裕があるように思えた。あたしもいつかは。そう考えた時、不意に暮れかかった空に悲鳴のような喧騒が響いた。エステルは、慌てて周囲を見渡す。馬乗りの中でも、目が良いと言われていたエステルはすぐに喧騒の正体を見つけた。
王都への進路から外れたところで、隊商の一団が数人の男に襲われていた。
「どうした」
 騒ぎに気付いて、カイルがむくりと起き上がった。
「隊商が襲われています」
 カイルは軽く舌打ちをすると、馬に乗った。
「休息が短いが、すぐに離れよう」
 エステルは耳を疑った。
「助けないんですか?」
 エステルと、カイルが加勢すればあの隊商の一団を救える。数人の男など、馬の突撃で蹴散らすことができるのに。カイルは、いつもの無表情な顔で告げた。
「(王の耳)の役目を忘れたのか? 人助けをしていて遅れたらどうする?」
 エステルはぎりっと口を噤む。カイルの言うことは最も、だ。それでも。二人と八頭は、隊商を見捨てて、その場を後にした。長く切り裂くような悲鳴を背で聞きながら、エステルは目を閉じて、首を振った。

 五日目、早朝。あれから、一言も口を聞いていない。カイルも、エステルに何か言うことはなかった。別の国の隊商が来るという情報と、人の命、天秤にかけたらどちらが大事なのだろう。(王の耳)は情報を誰よりも速く伝える仕事、それはエステルにも分かっている。けれど、その情報も元は自分の国の民を守るためのものではなかったのだろうか。人の命を捨てて、守るべきものなのだろうか。ただでさえ精神的に疲れているのに、カイルの最もらしい行動がエステルの心を締め上げる。薄暗い中、少し前を駆けるカイルを憔悴した顔でエステルは見やった。その時、カイルの乗るウーヌムの身体が変に前屈みになった。そう見えた瞬間、馬体ごとカイルの身体が地面に転がった。エステルは、自身の馬たちを急停止させると、カイルの残りの三頭も何とか止めさせる。そうしておいて、カイルとウーヌムに駆け寄った。
「大丈夫ですかっ」
 フォルティスから降りて、カイルを抱き起こす。呻くカイルの身体を衣服越しに触れていく。強くは打っているが、変に曲がったり、折れたりしているところはなさそうだ。
「ウーヌムは?」
 顔を歪めながら、カイルが聞く。エステルは、カイルが自分で身体を支えたので、倒れたまま鳴くウーヌムのところへ駆けた。
 エステルは、息を飲む。ウーヌムの前脚は変な方向に曲がり、骨の一部が皮膚を突き破っていた。その前脚の蹄が大きく破損していた。奇岩、だ。最初の野駆けの時の、大きな奇岩でなくとも、地面に隠れ、見えなくなっている奇岩もある。馬が足をくじくので、注意していたはずなのに。いや、それよりもこの傷では。
 何とか自分で立ち上がったカイルは、何も言わないエステルの様子に全てを察したのか、腰から短刀を抜いた。
「カイル」
 何をするつもりか分かって、エステルは涙ぐむ。立てない馬は、もう死を待つしかない。
それでも、ウーヌムはエステルが惚れるほどの立派な馬で、カイル自身の一番馬なのだ。そんなすぐに事を決められるはずがない。エステルはそう思ったが、カイルは無表情な顔のまま、ウーヌムに近付く。カイルの背で、ウーヌムの頭が隠れる。カイル、もう一度呼びかけようとエステルが口を開いたところで、ウーヌムの身体が激しく痙攣した。そして、苦しそうに呻く声も、身体の鼓動も止み、恐ろしい静けさがその場を包んだ。きん、とカイルが短刀を直す音が氷のように響く。それを合図のようにして、フォルティスを含め、残った馬が揃って鳴き声をあげた。
「時間を潰した、出発しよう」
 カイルは、ウーヌムから鞍以外は何も取らず、淡々と告げた。
「そのまま、ですか」
 エステルは、震える声でカイルに尋ねる。
「死んだ馬を連れてはいけん、葬る時間もない。仕方ない」
 エステルの中で、何かが切れた。身体も心も疲れていたからかもしれない。でも、隊商の事といい、ウーヌムの事といい、この人は。この人は。この人は。
 エステルは、光るものを瞳から零しながら、カイルに掴みかかった。
「そんなに任務が大事ですかっ、ウーヌムはっ、あなたの心はっ!!!!!!」
 カイルは困惑した顔で、エステルを制止しようと力を込める。エステルはそれを振りほどいて、カイルの身体を揺すった。
「命を粗末にして、何が役目ですかっ!!!!こんな、大したこともない情報と引き換えにしてっ!!!!」
 エステルが叫ぶと、無表情なカイルの顔が初めて激しい怒りを宿した。
「大したこともない情報、だと」
 あまりに低く、冷たい声にエステルは動きを止める。
「貴様に何が分かる!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
 何があったか、分からない内にエステルは地面に転げていることに気付く。熱く痛む頬を押さえて、ようやくカイルに殴られたことが分かった。口の中で、血の味がする。いろいろな感情がぶつかって、涙が引いてしまう。そんなエステルを見もせずに、カイルは二番目の馬に乗る。
「早くしろ、置いていくぞ」
 言い返す気力も湧かず、エステルはよろよろとフォルティスに戻ると何とか乗った。カイルは横目でそれを見ると、何事もなかったかのように駆け出した。エステルは、慌てて並走しながら、ウーヌムの亡骸に目を注ぐ。ごめん、何もしてやれなくて。こんなところに置いたままで。ウーヌムが遠くなり、見えなくなるまで、エステルは何度も、何度も振り返った。

 口を聞かないどころではない。互いに相手を見なかった。姿を見なくても、馬の駆ける音で大体のことは分かる。日が暮れるまで、明るい日差しを無視するかのように、沈んだ空気が二人を支配していた。来たときから、考えていた。カイルとは、どういう人物なのか。あんなことがあった後だからこそ思う、どうしてこれほどまでに任務に忠実でいられるのだろう。どうして、何があってもあんなに冷静でいられるのだろう。痛む頬が、それをエステルに考えさせる。痛む心が、それを知りたがる。
 夜になって、小休止をとった。五日目の夜だから、もう王都にまではかなり迫っているはずだ。長く、辛い旅が一つ終わる。エステルが仮眠をとる番だったので、無造作に地面に身体を投げ出す。その、エステルへカイルが布を差し出した。布は、水で濡れている。
「少し腫れている、使え」
 エステルは、今更何をと思ったがカイルから布を受け取り、頬に当てる。若干、楽になった。距離をとって、座ろうとするカイルをエステルは呼び止めた。そんな、気は全くなかったのに声に出していた。
「何で、殴ったんですか?」
 カイルは足を止めて、その場に座る。長い沈黙の間、風の音と、馬の蹄の静かな音だけが響く。じっとカイルを見つめる、エステルの意識が疲れで絶えかかったところでカイルは口を開いた。
「昔、俺がカムプスに初めて配属になった時の話しだ」
 エステルはすぐに、カイルの方に視線を向ける。カイルもエステルの方を見ていたが、エステルよりも遠い何かを見ているような瞳だった。
「その時の先任の(王の耳)は、わりと知られた女の馬乗りだった。お前みたいに、馬が好きな人で、俺は彼女からいろいろと学んだ。三年、一緒に仕事をした。この、首飾りは、何度目かの早馬から帰ってきた時にもらったものだ。お前も、随分とマシになってきたってな。彼女流の祝いの品、だったのだろう。高いものでもないが俺は、嬉しかった。認めてもらえたからな」
 蒼い首飾りを、カイルは手でそっと撫でる。エステルは、柔らかい笑みを浮かべてそれを見つめた。
「何も変わるはずはなかった。彼女は、素晴らしい馬乗りで、俺はそれにずっと付いていくと思っていたからな。だが、変わった」
 カイルの瞳に、初めて悲しみが見えた。エステルは、そっと尋ねる。
「何が、あったんですか?」
 間を置いて、カイルはゆっくりと語り出した。
「三年目のことだ。いつものように、早馬が来た。今回のように、他国から使者が来る様子だと伝えるものだった。危急を感じるほどの、情報ではない。俺も、彼女もそう思った。ちょうどその頃、彼女の愛馬の状態がよくなかった。彼女は悩んだ末、残す愛馬の世話をしてから出ていくことにした。何時間も遅れたわけではない。ほんの、数十分だったろう。後のことは馬丁に託して、俺と彼女は王都まで駆けた。そして、無事に情報を伝えて、カムプスまで帰ってきて知った」
 今まで無表情だったのが、嘘のようにカイルは悔しそうな表情を浮かべた。
「使者など偽りで、使者を装った略奪隊だったと。国境の一つの町で、かなりの数の犠牲が出たと。早馬を遅らせた、彼女は自分を責めた。もっとはやく伝えていれば、馬の世話などしていなければ、町に助けを送ることができたのではないかと」
「でも、それは」
 エステルが言うと、カイルは悲鳴にも似た声色で拳を握る。
「ああ、彼女のせいだけではない。はやく伝えていても、救援が間に合ったかは分からない。俺は、彼女に何度も何度も何度も、そう言った。しかし、彼女の心は自責の念で埋まっていた。それが、彼女の心を蝕んだ。快活だった彼女は影を潜め、馬にもあまり興味を示さなくなり、そして」
 カイルの声が、掠れる。暗くて、よく見えないけれど泣いているのかもしれない。
「蒼い泉の側で、彼女は命を絶った。俺には何も、言葉を残さなかった」
 エステルは、星空を見上げた。カイルの涙が、見えてしまいそうだったからだ。
「それからだ。俺は、誓った。もう二度と、こんな思いをさせないために。自分が、しないために。早馬できた情報は、どんなものでも全力で、最速で王都に届けると。彼女が馬に情を注ぎすぎて失敗したから、馬に名付けるのも止めた。番号で良い。そうしておけば、必要以上に心が傾くことはない、と」
 やっとカイルが分かった気が、した。
「お前が来た時には、少々、不運を嘆いた。いろいろと思い出すからな。だから、距離を置くつもりだった。だが、お前は彼女がやっていたのと同じように、料理も掃除もこなしてしまった。怒りを感じなかったといえば、嘘になるな」
 カイルの笑い声に、エステルも苦笑する。やっぱり、気に入らなかったようだ。
「お前に、馬を番号で呼ぶのかと言われた時は、心が騒いだ。結局、番号でウーヌム、トリアと呼んでも、それが名前になっていたからな。いっそ、名無しにでもすれば良かったな」
「番号で呼ぶのは、その方のことがあっただけではないんでしょう?」
 エステルは、静かに言った。
「そうだな。早馬稼業だと、注意していてもウーヌムのようなことはよくある。失った時、自分の手で命を断ってやる時、名前があると辛いから、番号にしていたのかもしれん」
 二人は、数日ぶりに互いの目をきちんと見た気がした。
「殴ったのは、あたしが大したことのない情報、と言ったからですね」
 罪を告白するかのように、エステルは言う。
「知らなかったとはいえ、すみませんでした」
 頭を下げるエステルに、カイルは首を横に振る。
「いや、かっとなって、お前の顔を傷付けた。許されるものではない」
 これで、一つカイルに貸しができそうだと、場違いな感想を抱いてしまう。余裕が戻ってきたのかもしれない。
「王都まで、あと小休止一つで辿り着けるだろう。後は、お前一人で行け」
 カイルは、いつもの無表情になってそう告げる。
「一緒に行きましょう」
「いや、ウーヌムが倒れて、五番手に慣れていない馬に無理をさせた。これ以上、俺の馬たちを酷使したくはない。お前のフォルティスは、まだ元気だ。先に行け。すぐに追い付く」
 でも、と言いかけてやめる。思い出したくない、過去の話しをしてくれたのだ。一人になりたいのかもしれなかった。側にいてあげるべき時と、離れた方が良い時がある。エステルは頷くと、馬の準備を始めた。雲に隠れていた月が出て、穏やかな明かりが暗がりを照らした。カイルが見つめる中、淡い光の中をエステルは駆け出した。

 夜も更けてきた頃に、エステルは懐かしい王都に入った。(王の耳)の本拠には、顔見知りもいて、エステルの初任務の成功を褒めてくれた。ある程度の馬の世話をしてから、後のことはそこにいる馬丁や仲間に任せて、エステルは用意された部屋で泥のように眠った。
昼の光を浴びて、エステルはようやく目を醒ました。身体のあちらこちらが軋む。階下に降りて、他の(王の耳)から続報を聞く。どうやら、今回の大規模な隊商団の件は、穏便に済みそうだということだった。ほっと、胸をなで下ろす。もう、昼なのにカイルは到着していなかった。待っていても良かったが、エステルは別の場所に寄り、仲間から馬を借りて、カイルを迎えに駆けた。

 三頭の馬を引きながら、ゆっくりと歩いているカイルはすぐに見つけられた。こちらに気付いて、カイルが笑うのが分かる。
「待っていれば良いのに、せっかちな奴だ」
「迎えに来たのに、ひどいですね」
 いつものように言い合って、エステルは安心した気持ちになる。
「それは?」
 エステルの手に握られているものに目をやって、カイルが尋ねる。白い小さな花の束、だった。
「オラシオ(祈り)、あたしの故郷の花です」
 エステルの瞳にあるものを感じ、カイルは軽く礼をする。
「すまない」
「ウーヌムと」
 カイルに言いながら、エステルは優しく微笑む。
「その、蒼い首飾りの方に」
 カイルは言葉を失って、ただ頷く。温かい風が、二人の間を通り抜けた。良い匂いに惹かれたのか、互いの馬が物欲しそうに鳴く。それを見た、カイルとエステルの穏やかな笑い声が荒地に響いた――。

 


 
 

 

 
白星奏夜
2012年03月27日(火) 16時38分28秒 公開
■この作品の著作権は白星奏夜さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
長めのものに挑戦してみました。背を押してくださった陣家様、感謝します。未熟で、粗いものですけれどよろしくお願いします。コメントくださるのに返さなくて、ごめんなさい。必ず付けにいくのでしばしの猶予をば。楽しんで、書き上げることができました。これも皆さんのおかげです。最後まで読んで下さったあなたに最大級の感謝を。

この作品の感想をお寄せください。
No.11  白星奏夜  評価:0点  ■2012-04-16 18:23  ID:8eZ32nCHAgE
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エンガワ様
こんばんは、御感想感謝致します!
書いている時は四苦八苦していたので、リズムが良いとのお言葉、本当に嬉しく思います。ドキドキして頂けたようで、書いて良かったなぁと一人で満足しております(笑)

最初の街を訪れるところと、最後に駆け出すところ、どちらも気合が入っていたので描写にも力が入ったような気がします。御指摘の通り、くどくならない程度に他のところでもそうしたものを入れられたらもっと良かったですね。勉強になりました!!

ラスト、見事だと言って頂き、他の方にも褒めて頂き、嬉しい限りです。このシーンに辿り着くための物語だと思っていたので、目標達成といった感じです。
伝えた情報がとても重要なものであったら、物語のバランスが崩れる、切なさが消えるような気がして、あえて重要性の低いということにしました。ああ、それで良かったのかなと思える温かいお言葉、ありがとうございます。

馬のことに関して、いろいろ書いて下さって感謝です。とても参考になります。悲劇的というところは、確かにもっと入れた方が伝わったのかもしれません。ここは、読んでいる方の判断に委ねてしまいました。
コメント、嬉しかったです。ではでは、またの機会に〜。
No.10  エンガワ  評価:30点  ■2012-04-14 17:27  ID:7fjvh1PpXNQ
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拝読しました、です。
いいですね! 読んでいてドキドキして、心地いい後味がありました。
軽快なリズム。このテンポはとても魅力的な武器だと思います。話を追うのに、疲労しませんで、ドキドキを最後まで維持できました。
奇岩、ペンダントと、本当にさり気なく文の中に溶け込みながら、物語の要への伏線となっていて、唸るものがありました。

自分が特に感銘を受けたのが、主人公が初めてオアシスを訪れた時の、瑞々しい情景。終盤に、主人公が王都へと夜の荒野を駆る場面でした。
どちらも、視覚にも心にも訴えるものがあって、揺さぶられるものがありました。シーンが際立っていると思います。
気になったのは中盤。ちょっと説明っぽい感じがあったかな?
二人の駆けっこの場面や操馬技術、馬がどんな感じに駿馬だったのか、部屋や料理などに、もう少し具体的に、前記のような五感に訴える描写を挿しても、と。
余計な装飾のない分かりやすい描写だったですし、やりすぎるとテンポを崩してしまいそうですが。これは個人的な主観というか直感的な部分です。

物語の終え方は、かなりハードルが上がった読中の期待を、裏切らない見事なものでした。
早馬で伝えた情報、というのが予想していたよりも余り重要なものではなかった、というのがとてもリアルで、
それでも一つの任務をやり遂げた、確かな達成感、というか爽やかな余韻があって、いいなぁと。

普通の馬は分かりませんが、サラブレッドは骨が見えるような深刻な骨折をすると、
支えている骨折していない脚にも負担がかかってしまい、殆どのケースで生きていけないそうです。
ライスシャワー、サイレンススズカ、漫画ですがフィールオーライ。
どれも競争賞金や、それ以上に血脈を残す種牡馬として何億もの価値があり、熱心な沢山のファンもいる名馬でしたが、この世を去っています。
なので、本作の展開には、個人的に納得しました。
ただ、分からない人は分からないので、もう少し調べてみて、作品内で伝えても悲劇性が出るんじゃないかなぁ。
ちょっと瑣末な部分ですね。全体は、とてもよかったです。
ではでは。
No.9  白星奏夜  評価:0点  ■2012-04-13 12:19  ID:jbn/42uK6l6
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陣家様
返信、遅くなりましてごめんなさい。御感想、感謝致します!
陣家様に長めのものはどうか、と言って頂いたのがきっかけで書き上げたので、うまいというお言葉に喜びもひとしおです。

コストカットのために安楽死ですか……何か悲しいですね〜。でも、それもしょうがないのでしょうね、競馬も財政面でそうとう厳しいようですから。
治る、のですか。ありゃ、治っても結局、衰弱するというような資料もあってそこら辺はあまり整理できませんでした。違和感があったのなら、ごめんなさい!
エステルは確かにあまり女性らしさ、というものを出せなかったと思います。出した方が良かったのか、う〜ん難しいところですね。
ビックリマーク連打は、抑えた方が良かったですね。そういうところも考えて、書いていく必要があると勉強させて頂きました。どうも、ラノベの手法に意識が引っ張られました(笑) よくラノベに出てきますしね、連打。

また、いろいろと挑戦していきたいので、温かい目で見守ってあげて下さい。あと、陣家様のコメント独特の豆知識というか、そういうのも楽しんでいるのでまたよろしくお願いします!ではでは、ありがとうございましたぁ〜!!

青山 天音様
御感想、感謝致します。コメント、下さるだけで嬉しいです。ありがとうございます!
読みやすい、とのお言葉はとても有難いものです。自分で読んでいては、分からない部分もあるのでとても参考になります。
物語の方向性が最初は見えづらいのは、悩みどころでした。冒頭でそれを示せれば良かったのですが、どう書いても説明文になってしまって敢えて削った感じです。でも、そこも自然にかけるように頑張っていきたいです。

続きが読みたいような気持ち、そんな気持ちになって頂けたら、書いた甲斐があります。続きやその後、を想像したくなる物語が私の大好物ですし、目指すものですね〜。はい、偉そうなことを言ってみました!

他のものも読んで頂ければ、もう感謝感謝です。
青山様の新作も期待していますね、ではではありがとうございましたっ!!
No.8  青山 天音  評価:40点  ■2012-04-07 21:58  ID:.qW7n.wim8Y
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白星奏夜 様
僭越ながら感想を書かせていただきます。
長編に挑戦されたとのことですが、とても読み易すかったです。
物語世界の肝である馬が出てくるシーンは、描写があっさりしているのにもかかわらずそれらしい雰囲気がでていて情景がリアルに浮かびました。
あえて言うならば、冒頭のエステルが自己紹介をするまでの部分は物語の方向性がよくわからずすこし冗長な感じがしました。伏線を張りつつ読み手を物語世界に導くという目的は分かるのですが……。
でも、その冒頭の伏線が底流となって登場人物同士の理解が進んでゆく構成はとてもいいなと思いました。
もっと長い物語の一部のような感じですね。続きがよみたいような気持ちになりました。
他の作品も時間の許す限り読ませていただこうと思います。少しづつになるかと思いますが。
No.7  陣家  評価:40点  ■2012-04-07 22:39  ID:1fwNzkM.QkM
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拝読しました。

へえ、すごい、うまいなあ。すごく丁寧な文章運びと、緻密な世界設定、背景設定はかなり資料を集めて研究した結果がよく見えますね。
馬を愛し、理解が深い故に一流の乗り手であるエステルが任務のために馬を道具として切り捨てるという葛藤はメインテーマとしても分かり易く、共感を呼ぶテーマなのもうまいですね。

特に、一人の対して4匹の馬を交代に乗り継いでいく設定などもリアリティがありますね。
これを言っちゃあお終いかもしれないんですが、現代のサラブレッドが骨折したら安楽死させるのは、治療費をコストカットするためなのが一番の理由らしいので、この世界のように荒れ地で使用するための馬はそもそもサラブレッドのように脆い品種では無いと思われますし、馬の骨折は、実は直る物なので、即殺処分にする意味は薄いかもしれませんね。

あと、丸腰に近い早馬役が野党に挑むのもちょっとありえないかも。

エステルがもうちょっとフェミニンな面な描写があればより魅力的だったかな?
この辺は好みの問題ですが……。

ビックリマーク連打は…… この辺が書きたかったクライマックスなのは解るのですが、それだからこそ余計に押さえた演出で淡々と攻める手もあったのかな?
まあ、僕自身は特に気になりませんでしたけど…… 自分も連呼セリフをやっちゃったばかりなので。(これってラノベの古典的表現手法?)

とにかく中編として大変まとまりの良い佳作だと思いました。
やりますねえ。
ではでは
No.6  白星奏夜  評価:0点  ■2012-04-02 19:47  ID:wlKc4GrBaxk
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HAL様
こんにちは、御感想感謝致します。何とか書ききることが、できました。わがことのように嬉しくなったとのお言葉、本当に心に染みました。ありがとうございます!
しっ、嫉妬は褒め言葉だったのですね。褒めて頂けるのは、嬉しいことです。でも、高飛車にならないようにといつも考えています。

カイルが気に入って頂けたようで、満足しています。彼こそ、この物語のキーマンですし、なかなか頭を捻って生み出したキャラクターなので、喜びもひとしおです。
書簡を覚えるシーンや、馬で駆け合いをするシーンも、物語のメインではないのですが、書いていて楽しいところでした。目を留めて頂いて、してやったりとにやにやしています(笑)

私も造語が大好きですし、HAL様の作品からかなりの影響を受けて、自分流につくってみました。単語は、ほぼラテン語から引用し、王の耳は、歴史好きなので勝手に設定を変えて拝借してみました。そういう遊び心を推測するのも、とてもおもしろいですよね!
ラストは、特に考え抜くこともなくすっと浮かんできました。その時だけは、エステルの気持ちになって書けたのかもしれません。良い結末との感想を頂き、安心しています。

読んだ上での御指摘、これほどありがたいものはありません。
使用人のところは、確かにエステルが疑問に思うくだりがあって良かったなあと思います。気が回りませんでした。個人的には、それなりに給金をもらっているのだけれど、ほとんど馬の装具や、馬の世話のために使ってしまうと考えていました。故に、使用人を雇うほど余裕はないという感じでしょうか。ここで裏設定を語るのはずるいですね(笑) 書いておくべき、でした。

カイルに、冷静な理由を聞くシーンはもっと塾考した方が良かったですね。後の祭りですが、他の尋ね方があったなぁと反省しております。御指摘、ありがとうございます。

掌編ばかり書いてきましたが、長めのものも良いなぁと感じることができました。読んで下さって、ありがとうございます。また、よろしくお願いいたします。ではではぁ〜。
No.5  HAL  評価:40点  ■2012-04-01 17:13  ID:qt4cIuiPkfU
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 遅くなりましたが、読ませていただきました。
 まず何より、初の中編完結ということで、おめでとうございます! 近ごろ自分自身が、長いものを書きあげるということの難しさを感じてばかりいるので、なんだか勝手に、わがことのように嬉しくなりました。
 そして初めての中編にもかかわらず、こんなにしっかりした構成のお話を書きあげてしまえるという、そのことにちょっとだけ嫉妬してしまいました。(書き手にとって嫉妬の二文字は誉め言葉……ということで、お気を悪くしないでいただければ幸いです・汗)

 肝心の内容ですが、とても好きなお話でした。メイン二人のキャラクターが魅力的でいいなと思います。特にカイルが個人的にツボのまんなかでした。影のある無愛想な男、大好物です。

 書簡を失うことも考えて、内容を手早く頭に叩き込むという指導など、細かな部分までしっかり描かれていてよかったです。馬で駆け比べをするシーンなども、さわやかな疾走感があって、主人公がほんとうに馬が好きなんだなあというのが伝わってきました。

 それから、個人的に造語のたくさん出てくるファンタジーが好きで、オアシセ・カムプス(荒地のオアシス)、王の耳、オラシオ(祈り)と、単語のチョイスがとてもツボでした。そうした部分でも、たいへん楽しませていただきました。

 ラスト、心の温かくなる、いい結末でした。Phys様のご意見と重複しますが、わたしも王道が大好きで、お話がぴたりとおさまるべきところにおさまったという感触が、とても気持ちよかったです。
 悲劇には悲劇の価値と意味とがあるけれど、それでもやはり、ハッピーエンドが好きです。読み終わったあと、読む前よりもちょっとだけ、人間や、この世界のことが好きになれる、そういうものが、小説の力だと思っています。よいものをよいものとしてまっすぐに書けるというのは、書き手にとって重要な、大きな力だと思います。

 気になったことは……非常に細かい指摘になってしまって恐縮ですが、二つほど。
 ひとつは、家事について。馬丁がいるほどの身分なら、通いの使用人くらいはいてもいいんじゃないのかなあ……と、読んでいてちょっと気になりました。カイルがそれを嫌って、本当は人を雇うべきところをあえて置いていないのならば、主人公が「なんで使用人を雇わないんだろう」と疑問に思うくだりがあってもいいような気がします。(そうすれば、先任の女性との間にあったエピソードの伏線としても機能するのではないかなと)
 あるいは、王の耳というお役目が、わたしが読んでいてイメージしたほどの高い身分ではないのかな。使用人を雇えるような立場ではない(あるいは、身分は高いが禄が安い)のなら、そのことに、ちらっと触れてあってもいいかもしれません。

 それからもうひとつは、主人公が「何で、殴ったんですか?」と訊くシーン。ここ、もしわたしが書くのだったら、「どうしてあんなふうに冷たく振る舞ったのか」という趣旨の質問にしたかなと思いました。なぜあんな非常なことができるのか、あなたはそんな薄情な人間には見えない、というような。そうでなかったら、「なぜあんなに怒ったんですか」とするかなと思います。
 というのも、「なぜ殴ったのか」と真っ先に訊くことで、主人公がまず何より殴られたことを根に持っていて、馬や行商を見捨てたことよりも、そっちのほうが重要と思っているように見えてしまうというか……。読んでいて、主人公はそういう女性ではないとちゃんとわかるので、これはちょっと、わたしが読み手としてひねくれすぎている感があるのですが(汗)

 拙いわが筆を高い棚に上げて、大変勝手なことを申しましたが(汗)、読み手はいつもわがままなものということで、どうか広いお心でご容赦くださいますよう。
 いいお話を読ませてくださって、ありがとうございました。また新作も楽しみにしています。
No.4  白星奏夜  評価:--点  ■2012-03-31 18:27  ID:NnSVjWbdC36
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Phys様
こんにちは、御感想感謝致します。私の書いたものが、良い意味でPhys様の刺激になればそれはとても嬉しいことです。逆も然り、ですね。生意気に聞こえたならごめんなさい!
奥にある感情や心の深い部分を感じさせてくれる文章。ほんとに、ありがとうございます。自分なりに、いろいろ考えて表現しているので褒めて頂けて感謝、感謝です。
エステルに感情を込めて読んで頂けたとのこと、何か自分が育てた子が愛されるようで瞳に熱いものが浮かんできます。エステル、良かったね。
早馬の苦悩と葛藤、これは実際に競馬場で怪我をして命が助からない馬をその場で安楽死させたという話しからいろいろと膨らませてみました。職責として、使命として果たさなければならないものがあるけれど。それでも。そんな想いをエステルに託してみました。
構成がうまいなぁと個人的に感じているPhys様から、構成を褒められ、あぁ良かったなぁと少し安心しています!!
愛ゆえの御指摘、ありがとうございます。確かに、ちょっとくどい数でしたね。自分の気持ちが昂っていて、勢いでだっと打ってしまいました。反省、です。
これを書く上で、最初に浮かんだシーンが最後のあの場面と、ウーヌムの命を絶つ場面でした。それを描くために、積み上げていったので、気に入って頂けたら幸いです。好きなものを書いていますが、やはり書く以上は何か人の心に響くものを見せたいので、感動したとのお言葉に優る褒美はありません。逆に、そのコメントでこちらがうるうるしてきました(笑)
とても励みになるコメントでした、これからも頑張らせて頂きます。ではでは、今回もありがとうございましたっ〜!!!!
No.3  Phys  評価:40点  ■2012-03-31 08:46  ID:Bs9/eGPYnW.
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拝読しました。

おはようございます。

すごい。すごいすごい! 素晴らしい短編小説でした。構成も、表現も、登場
人物たちの織りなすドラマも、そつなくまとめてらっしゃいますね。本当に、
白星さんには私が「こう書きたい」というものをすべて実現されてしまいます。
とても悔しいし、嫉妬します。

zooeyさんへの返信で、
>凝った言葉づかいや、描写が苦手
と仰っていますが、白星さんのレベルでそれを言われたら私みたいな書き手は
立つ瀬がないです……。けっして難しい表現を使っているわけではないのに、
その奥にある感情や心の深い部分を感じさせてくれる文章だと私は思います。
言葉の手触りが、私の好みにぴたりと合っていました。

また、この作品はエステルに自分を重ねて読むことができました。登場人物に
これほど感情移入することができたのは久しぶりです。お話そのものは比較的
王道、を行っているのかもしれませんが、私はべたな展開と予定調和の結末が
大好きなので、構成については文句なしに50点です。いやもう100点付けたい
くらいです。

早馬と呼ばれる人たちの苦悩と葛藤が真に迫っていて、何よりエステルさんの
純真さがすごく魅力的でした。後半で明らかになる『高名な女性の馬乗り』の
伏線にも唸らされました。素っ気ないカイルさんのブレない人物像も良かった
です。

読んでいて、もうこれは50点しかない。と思っていたのですが、中盤の

>「そんなに任務が大事ですかっ、ウーヌムはっ、あなたの心はっ!!!!!!」
>「貴様に何が分かる!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

のところで、クオーテーションマークの数が気になってしまいました。割合、
シリアスなシーンなので、ここは一つか二つくらいでお願いしたかったです。
もちろんこれは私の主観の問題ですので、あまり気になさらないで下さいね。
(普段は人の小説に文句をつけるようなことはしないのですが、すごく良いと
思える作品にはこういう難癖を付けてしまいます。愛ゆえですので……)

いずれにしても、非常に完成度の高いお話を読ませて頂き、ありがとうござい
ました。最後のシーン、うるうるきてしまいました。(でもこらえました!)
感動しました。

また、読ませてください。
No.2  白星奏夜  評価:--点  ■2012-03-29 22:10  ID:NnSVjWbdC36
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zooey様
御感想、感謝致します。長めのものを書ききったのは、これが初かもしれません。ですので、ドキドキものです。やっぱり、大変ですね〜!!
凝った言葉づかいや、描写が苦手というかできないもので、いつも自分ができる範囲で率直に書いています。それが、プラスになっていれば嬉しいことですね。
カイルの描き方、確かにそうですね〜。どうも、三人称っぽく書いているくせにエステル目線だったので、最初からエステルに語らせ続けた方が良かったかもしれません。カイルの描写が不足していたのは、反省点です。
首飾りのところは、余計に気を回しすぎた感があります。読者の方に委ねても、きっと読み取って下さったはず。心配して、説明させてしまいました。失敗、失敗です(汗
追記、大歓迎です。言葉自体が数字を表しています。ただ、御指摘の通り、
1(ウーヌム)とした方がより分かりやすかったですね。ここでも、一つ勉強になりました。いかに、伝わるように書くか、難しいところです。

作風が好みといって頂けて、とても嬉しいです。欠点が多いだなんて、 zooey 様の作品を読んでいて勉強になるところは一杯あります。どうしても、自分で書いたものは可愛く見えるので、こういう風に客観的に見て頂いた意見はとても参考になります。指摘される項目が多いほど、何か嬉しくなりますね。いえ、されない方が良いのかもしれませんが(笑)
ではでは、今回もありがとうございました〜!!
No.1  zooey  評価:30点  ■2012-03-29 00:50  ID:1SHiiT1PETY
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何度もすみません、追記です。
番号の件、分かりました。
ウーヌムとか、トリア自体が数字を表しているのですね。
素っ頓狂なことを書いてしまいました。
スイマセン。
ただ、実際それが番号だと分かる読み手と分からない読み手が出てくるかもしれないので(単純に私が物を知らないだけかもしれないのですが)、
書き方を変えたほうがよいかもしれません。
むしろ「1(ウーヌム)」とかの方が良いのかなと。
では、何度も失礼しました。

こんばんは、読ませていただきました。

それまでより長い尺で書こうとすると、大変ですよね。
私も、書いているのが掌編程度の作品ばかりなので、長めのものは(と言ってもあまり長くないのですが)結構苦労します。


毎回、白星奏夜さんの作品を読むと感じるのですが、(何度も書いた気がしますが)、
素直な作風がいいなあと思いました。
演出しすぎていないところが、好みです。
この題材だったら、いくらでも、もっとセンチに、ドラマチックに演出できると思うのですが、
そういう情緒に溺れそうになるまえに、止める、というのが、読んでいて心地良かったです。意識されていなかったらすみません。

気になった点は、カイルの描き方です。
言葉の上では、馬に対してやさしいとか、無愛想というようなことが書いてありますが、
実際にカイルが馬に話しかけたり、撫でてやったり、手入れをしてやったり、そういう描写が見当たらないし、
私の印象だと、そこまで無愛想にも見えませんでした。書き手や周囲の人物が「無愛想だ」というから、ああ無愛想な人なんだ、と思うという感じです。
だから、主人公が語るカイルの姿には、あまり説得力が感じられませんでした。
そこに説得力があれば、カイルが傷ついた愛馬に対して行ったことにも、より厚みが出てくると思います。

あとは、いろいろと細かいところが気になってしまって、
例えば、蒼い首飾りが「贈り物だ」と聞いた主人公が、すぐに女性の馬乗りのことを思い出すところ。
主人公がすぐに二つを関連付けて考えるところに、単純に違和感があったのと、
書き方として、そこで女性について書かない方が、ラストの方のカイルが過去を語る場面で「ああ、そうだったのか」という印象が強まったように感じます。

あとは、これは私が分かっていないだけかもしれないのですが、
「ウーヌム(1)」「トリア(3)」などの呼び名ですが、これを「番号」というのはどういうことだろう? と思いました。
あとでカイルが言っているように、結局「名前」ではないのかな、と思ったのですが、何か意図があったのなら、すみません。
個人的には、「ウーヌム」なら「ウーヌム」で馬の名前の部分は統一してしまって、番号だけ変えたりしたほうが「番号感」というか、そういうものは出たのかなと。

いろいろ書いてしまいましたが、はじめに申し上げた通りで、作風はとても好みです。
今までより長いものをこの作品で初めて書かれたのなら、それはすごいことだと思います。
私自身、文章や使う単語がごつごつとしていたり、構成的にイマイチだったりと欠点の多い書き手なので、
かなり自分のことは棚上げな意見でした。スイマセン。

また読ませてください。
総レス数 11  合計 220

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