魚であるための定義
 僕は魚だ。
 何の魚かと聞かれると、人間で言うところのサンマだ。名前はない。なぜかというと、魚に名前なんか付けても何の意味がないからだ。
 たとえばサンマが五匹いて、それぞれに名前をつけたとする。アンタはその五匹を顔で判断し、名前を間違えず呼ぶことは出来るか? 不可能だろう?
 だから、名前なんてない。更に言えば、マンボウは子供を星の数ほど生む。それらに一々名前をつけていたら、終わる頃には稚魚から成魚になってしまうしな。
 

 おっと、ちなみに僕のことは魚と呼ぶのは味気ないのでサンマと読んでくれて結構だ。そして本題に入ろう、僕がどうしてこうやって語りかけているかというと、魚という存在がどれだけ偉大かを知ってほしいからだ。
 別に僕の自尊心が強いわけじゃない。魚は戦争なんてしない、同属同士が群れになって殺し合いをしている地上何て僕達からしたらコメディーだ。僕達が争うのは住処、もしくは愛する女を奪い合う誇り高き決闘だ。まぁ愛する女っていっても、子孫を残せればそこまで選んだりしないんだけどね。


 僕達の姿を君達人間がどこで見るかといえば、それは海であり川であり湖であり沼だろう。スーパーマーケットなんて場所にいる切り身状態になった魚は決して魚なんかじゃない。
 もし君達人間が、スーパーに「ぶつ切り人間500g」なんてあるのを見たら、悲鳴を上げるだろう? それと同じだ、それを僕達は自分と同じ存在とは見れないんだ。
 しかも、噂によれば今の都会とやらに住んでる子供の中には僕達魚はそういう切り身状態で海を泳いでいるものと思っている子もいるらしい。
 言わせて貰おう、馬鹿か? そんな人体、じゃなくて魚体の一部が泳いでてたまるか、スプラッター過ぎるだろう、夜に見たら腰をぬかすぞ。腰ないけどな。


 まぁその話は置いておいて、魚というのはいろいろな場所を泳いでいるわけだが、一体「魚」とは何なのか? それを考えてもらいたいと思う。
 人間が見る「図鑑」というものには、人間なりの魚の定義が書いてあるんだろう、でも僕たちは人間じゃない、僕には僕なりの魚の定義というのがあるのさ。


それは、「人間に釣られる、捕られる」のが魚、という考えだ。
 泳いでいるのが魚であれば、人間だって夏になると泳ぐし船だって僕たちからすれば泳いでいるのと一緒さ。みんな魚で魚はみんなだ、世界平和だね。
 水中に住んでいるのが魚と言うのであれば、僕はそれを断じて認めない。クラゲやサンゴやアメフラシ達を魚とは呼びたくないな。個人的、いや、個魚的には。
 魚は、人間に捕獲されるものなんだ。まぁ僕だけがそう言っても説得力がない、なのでココでゲストを呼んだ。
 
「真鯛だ、よろしく」
「畜生……! 海岸五百メートル水深八十二メートル三つの丸石が並んだ大陸棚のサンゴ夫妻が住んでいる場所の東に三十メートルの所に住んでいた真鯛夫婦が釣られた……!」

 どうやら真鯛は同族が釣られて酷く悲しんでいるらしい。同情はするけども、仕方ない、摂理なんだ。
 ちなみに長々と説明した今は亡き真鯛夫婦の住処だが、アレは僕達魚の縄張りを示すための情報だ。人間のように「何丁目」とかすればいいだろって? お前、太平洋を何丁何番地って分けてみろよ。分ける前に寿命が来るぜ。
 真鯛は当てにならないので、別の奴を呼ぶことにした。タラバガニだ。

「俺……カニって呼ばれてるけど、実はヤドカリなんだ……」
「カミングアウトは必要としていない。それに言ってしまえば、カブトガニなんてクモに近いんだ。お前はまだマシな方だよ」
「ブラザー……ありがとう」

 カニはむせび泣いた。まぁ比喩表現だけどね。カニは泣かない。もし魚達がみんな泣けば、海水の塩分濃度は大分高まるだろう。

「というわけで、タラバガニ。お前の仲間は日々人間に捕らえられているか?」
「ああ……昨日も大量の同士が網で捕らえられたよ。人間に捕まれば最後、体が赤くなるまで煮られて、更に足をバラバラにされて店先に並ばされるんだ」
「恐ろしい話だ、ホラーだな」
「ああ……だが、俺の仲間はお前のようなサンマとは違い、高価なんだ。そこは生まれながらの差という奴だな」
 
 ムカついたので、追い返した。僕だって秋は良く狙われるんだ。地面に生えてる真っ白い太いものを削ったものと黒い液体とのセットが最高らしい。甘いな人間、僕は僕単体が一番輝くんだ。シンプルイズベストなんだよ。
 まぁ、タラバガニの奴も人間に需要があり、捕られている。僕からすればタラバガニだって魚だ、カニだろうとヤドカリだろうとクモだろうと関係ないね。
 
 
 なのに、わざわざ解りにくく僕達を分類したがる人間の考えが、僕にはぜんぜんわからない。
 たとえば昔、タイヤキというさっきの真鯛に形を似せたお菓子の歌があったらしい。そのタイヤキとやらは店の主人とケンカして、海に飛び込んでまた店主に釣られただとか。
 はっきり言わせて貰おう、アホなんじゃないかと。

 まず第一に、粉と卵から作られた加工食品が意思を持つんじゃない。何だその店主は、錬金術しか呪術師なのか?
 おっと、魚のお前が言うなといいたそうな顔だが、僕はれっきとした生命体だ。母親が腹を痛めて生んだ生き物なんだ。意志だって持つさ。

 二つ目に、何故タイヤキは海へ逃げたのか。お前の故郷は海じゃない、鶏卵場か小麦畑か鉄板か台所だろう、決して海じゃない。
 大体、そんな体で海へ飛び込んでみろ。すぐにふやけてボロボロでグチャグチャだ。そして僕達にいいようにつままれて腹の中へと消えるだろう。簡単に言えば、タイヤキの海への帰還など自殺以外の何者でもない。狂気の沙汰だ。
 
 最後に、タイヤキは店主に再び釣られたんだが、店主は美味そうにタイヤキを平らげたのだという。
 店主は猟奇的、もしくは電波な人間といわざる終えない。
 塩水に長々と浸かったタイヤキを誰が食べたいと思うだろうか、それに、何故お前は釣り針に喰らいついた? お前の体のドコに栄養素を必要としている要素があるんだ?


 ……長々と語ってきたが、要するに僕が良いたいことは人間は意味がわからない生き物だということだ。たった一つの歌にコレだけ突っ込みどころがあるんだ、陸上なんて突っ込みどころがありすぎて死んでしまうだろう。


 最後に、何故僕が急にこんなことを語り出したかということを説明したいと思う。







 今僕は、漁師が船の上から投げた網の中にいるんだ。ドンドン海上へと近づいている。
 さっきの真鯛もタラバガニも、同じように捕まった連中だ。みんなもう諦めてる。まぁ助かる見込みはないから絶望するのも仕方ないけどね。
 だが僕は、コレで本当の意味での『魚』になれたんだと思う。僕はついさっきまで大海原を自由に泳いでいたが、近いウチに僕は焼かれるか煮られるか切られるかして食卓へと並ぶだろう。
 後悔はない、無念もない。現実的に考えたタイヤキのように、海でボロボロになって破片を食べ散らかされるのに比べれば、マシな方だ。僕を魚として、この世の全ての人間が見てくれるのだから。


 さて、太陽の光が強くなってきた。塩水のない、空気の支配する世界はもうすぐだ。僕は行ったことのない世界、今まで住んでいた世界とは全く違う空間へと胸を躍らせる。

 そして僕は、大海原を飛び出した。
ヨシカゲ
2011年08月10日(水) 22時35分54秒 公開
■この作品の著作権はヨシカゲさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
初めまして、ヨシカゲです。
無意識に浮かんだ妄想を文にしてみました。
つまらないものですが、よろしくお願いします。

あと、私はサーモンが一番好きです。

この作品の感想をお寄せください。
No.4  舞  評価:20点  ■2011-08-19 15:42  ID:d1CGdXcYHWM
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初めまして。ですよね?舞といいます。
ろくに感想書けませんが。
このお話は笑いながら読んでよかったのでしょうか………。面白かったです。個人的に「ぶつ切り人間500g」とタイヤキについての部分が。
それだけです。
よく思いつきで私は書きます。今は沢山の指摘を頂いて人の作品にあまりケチをつけれる立場じゃないので、良かったなぁというところだけしか述べませんが、それだけでも、励みになればと思います。

これからも頑張ってください。
No.3  ウィル  評価:20点  ■2011-08-19 01:04  ID:yqFASJqAhJQ
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拝読しました。
言いたいことはわかりますし、それを小説に書こうとするのもいいなぁと思いました。
ですが、なんというか魚を題材にしてこういう話をするなら、もう少し魚に関する知識を入れたりしたら面白くなるでしょうし、こういう小説なら、それこそ妄想をそのまま小説にするより、一度資料を集めてから書いたら面白くなるんじゃないかなぁ? なんておもったりしました。
No.2  陣家  評価:10点  ■2011-08-15 08:12  ID:1fwNzkM.QkM
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拝読させていただきました。
陣家と申します。

作者様コメントでつまらない物とおっしゃっていますが別に良いんでは無いでしょうか。
まず、ここは趣味で書きたい物を書き、その書かれた物を酔狂な人間が読んで言いたいことを言う、という場所だと思っていますので。
そこから人によっては益体のある話ができることもあれば、愚にも付かない与太話が聞けただけということもあるかも知れません。

だから、まずは自分の書きたい物を書く。
誤解を恐れずに言わせてもらうと、まずは駄作を完結させること。それがすべての出発点になるのでは無いでしょうか。
その域を一歩も抜け出れていない私が言うのですから間違いないです。

どんどん書いてどんどん投稿してください。

と、ここまでで終わりにしようかと思いましたが、内容について何も書かないのはあんまりかなと思い直しましたので、その辺を少々。
ご自身で冷静に読み直してみると気が付くかと思いますが。
あるいはもう気が付いてるかとも思いますが。

作中、魚としての自我を主張し
>スーパーマーケットなんて場所にいる切り身状態になった魚は決して魚なんかじゃない。
と力説しながら、

>「人間に釣られる、捕られる」のが魚、という考えだ。
と言う、どう考えても二律背反な考えを納得できる人は少ないだろうなと言うことですかね。

いや、だから駄目と言いたいのではありません。
そこを強引に力業で納得させるのが文章の力だと思います。
最初に思いついた考えを強烈に増幅させて、物理法則、死生観哲学、価値基準なんかをひっくり返すのも文芸だと思います。
その辺の描写というか、理屈口上がまだ足りてないんじゃないかなという気がしました。

なんか上から目線ですいませんでした。
No.1  山田さん  評価:20点  ■2011-08-12 21:28  ID:iNA2/rsuwOg
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 拝読しました。

 書こうとしている内容はかなり面白かったと思います。
 自己弁護的なラストですよね。
 皮肉っぽくもあるなぁと思います。
 理屈っぽさとこのラストの落差がいいな、と思います。

 ただ、ちょっと書き急ぎすぎたように思います。
 浮かんできたイメージをそのまま勢いに任せて書きなぐっていった、という印象を受けます。
 まだまだ読者の存在を意識した書き方、とは言えないように感じます。
 乱暴な言い方をすれば「独りよがり」的な作品に思えます。
 推敲もちょっと足りないかと思います。
 誤字やちょっとした言い間違いが多いのも、そのせいかなと推測します。
 もう少し推敲を重ね、読者の存在を意識すれば、もっといい作品になるかと思います。
 前出したように、書こうとしている内容はかなり面白かったですから。

 僭越な感想で失礼しました。
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